第105話 意中のお相手は……

「ある殿方に贈り物をしたいんです!」


 深夜、極秘理に私を呼び出した貴族のお嬢様が口にしたのは、何と恋バナだった。


「贈り物ですか……えっと、普通に送れば良いのでは?」


 と言うかそれ以外何を言えと?


「駄目なんです! 屋敷の者達はそんな事はする必要ないと話を聞いてくれないのです!」


 必要ない? お嬢様の恋愛話なのに必要ってどういう事だろ?

 これはあれだ。ちゃんと内容を聞かないといけない気がする。


「ええと、そもそも相手はどんな方なんですか? 何でその人に贈り物がしたいんですか?」


 もしかしたら私が考えているようなキャッキャウフフな相手への贈り物ではない可能性があるしね。

 しかし私に質問されたティキルタちゃんは「それは~、そのぉ……」とどう見ても恋する乙女ムーヴを全開で身をくねらせる。帰っていいかな?


「それは先週の事です」


 あっ、話始まった。


「退屈を持て余していた私は、贔屓にしているお店の者を屋敷に呼ぶのも代り映えがないと思い、自分でお店に行くことにしたのです」


 あー、これはお義母様が言ってたんだけど、貴族って買い物する時は商人や職人を屋敷に呼んで買い物をするんだって。

 私みたいに直接お店に行くのは出歩くのが好きな道楽者か、何らかの理由で他所の領地に出かけた先で買い物をする貴族くらいとかなんだとか。

 で、ティキルタちゃんは退屈しのぎにお店に向かったので、この場合は前者の理由だね。


「お店では特に珍しい物も無かったのですが、たまたま視界に入った別のお店に面白そうなものがあったので、ついフラフラと向かってしまったのです。ですが……」


 そこでティキルタちゃんは貴族を狙う誘拐犯に狙われたらしい。

 突然予定にない店に向かおうと馬車へ戻るルートから外れたところで、誘拐犯の一味が護衛との間に何食わぬ顔で割り込み、その隙にティキルタちゃんが攫われそうになったんだそうな。

 しかしそこに通りすがった少年が、誘拐犯をぶん殴ってティキルタちゃんを見事救助したのだとか。


「あの時の彼の凛々しいお顔は今も忘れられません」


 ポーッとした表情でその時の事を思い出して身悶えるティキルタちゃん。


「是非あの方に改めてお礼を言いたいのです!」


 成程、危ない所を助けてくれた正義のヒーロー、退屈を持て余したお嬢様が一目惚れするのはある意味自然な事なのかもしれない。

 って言うか、そういうの私も大好物なので!


「それで、それで、どんな人だったんですか!?」


「ええとですね、髪は短い銀髪で、鋭い眼差しがとても頼もしかったです。それに頬に傷を負っていらっしゃいましたね」


 頬に傷か、これは個人を特定する目印になりそうだね。


「年齢は幾つくらいなんですか?」


「私と同じか少し上くらいだと思います」


 ふむふむ、相手はティキルタちゃんと近い年と。


「それと剣を携えていたので、剣士様だと思います」


「ほうほう、剣士」


 剣士なら剣を送るのが良いのかな?


「そいつはどんな格好をしていたのニャ?」


 と、そこでニャットが会話に加わって来る。


「格好ですか? そうですね……ええと、随分とボロボロの格好をなさっていました」


「ニャル程」


「何がニャル程なのニャット?」


「恐らくその小僧は新人冒険者だニャ」


「その心は?」


「真っ当な剣士なら防具を装備しているのニャ」


「街中だから鎧を脱いでたんじゃないの?」


「それでも服がボロボロというのはおかしいのニャ。恐らくは冒険者になって間もない新人ニャ。だからなけなしの金で武器を買ったはいいが、防具にまで金を回せニャかったのニャ。服がボロボロなのも防具が無いから魔物の攻撃でボロボロになったのニャ。防具を持ってるような冒険者なら、まともな服を買う金が手に入るのニャ」


 ニャる程。確かにニャットの推測は理にかなっている。


「お金が無いとなると、装飾品とか金目のものは避けた方がいいかもだね。お金欲しさに売っちゃうかもしれないから」


「服を送るのはどうでしょうか?」


 確かにボロボロの服じゃ町の人の印象も悪いだろうから、ちゃんとした服を送るのもありかもしれない。


「いや、今のままニャと送った服も戦闘でボロボロになるのニャ」


 あー、確かに。服そのものが防具になるくらい頑丈じゃないとね。

 ん? それなら……


「じゃあ送るなら防具?」


「鎧はサイズ調整の必要があるから、盾を送るのが良いのニャ。それだけでも大分生存率が上がるのニャ」


 そうか、確かに鎧は本人のサイズが分からないと大変だもんね。大きすぎても駄目だし、小さすぎても装備できないから。


「まぁベルトでサイズ調整できるフリーサイズの鎧もあるけど、そう言うのは性能の割に高くなるのニャ」


 と、便利なアイテムはその分機能性が落ちると説明してくれるニャット。


「じゃあ送るのは盾一択かな?」


「そうだニャ。身を守る手段を手に入れれば、生存率が大幅に上がるのニャ。生き残れば自然と服や鎧に金を回せるのニャ」


「ではカコ様、あの方の為に盾を用意してくださいませ」


 まぁ、盾を仕入れてくるくらいならいいかな。

 それを私のスキルで合成して、めっちゃ堅い盾にすれば、お嬢様も満足いく品になるでしょ!


「分かりました。では盾を仕入れたら一度持ってきますね」


「はい! よろしくお願い致します!」


 こうして私はティキルタちゃんの命の恩人に送る為の盾を仕入れる事になったのだった。

 尚、帰りはまた窓からである。


 ◆


「それじゃあ防具を売ってるお店に行こうか」


 ゴージャスな朝食を頂いた私達は、ティキルタちゃんに見送られて屋敷を出ると、さっそく盾を探して町をさ迷うのだった。

 そして大通りに出ると、さっそく鎧のマークのお店を発見したので入ってみる。


「「「「……」」」」


 店の中に入ると、お客さんらしき厳ついおじさん達の視線が突き刺さる。

 皆の目な「え? 何でこんな所に子、ゲフンゲフン、可憐な美少女が!?」と言いたげな眼差しだ。

 店員も店を間違えてないかって目で見てる気がするのは気のせいという事にしておこう。


 彼等の視線を無視して、私は盾のコーナーに向かう。


「さて、どんな盾にしようか?」


「渡す相手はあの貴族の娘より少し大きいくらいと考えると、大型の盾は止めた方が良いのニャ。それに小さすぎる盾も止めた方が良いのニャ。小型過ぎる盾は直接受けるよりも受け流しをする為のものだニャ。使い手に技量がないと無理ニャ」


 成程、確かに漫画とかでは腕に固定するタイプの小さな盾で良く受け流ししてるよね。

 新人冒険者があんなカッコいいアクション出来るとはちょっと思えない。


「それに小型の盾だと大型の相手の攻撃を防ぎきれニャいし、魔法や弓矢の攻撃を防ぐならそれなりの大きさが欲しいのニャ。そう考えるとこのくらいの大きさが良いのニャ」


 ニャットが指さしたのは、学生鞄よりも一回りか二回り大きいくらいの盾だった。


「この辺りなら新人冒険者の腕でも十分使えるのニャ」


 なる程、確かにこのサイズなら構えてるだけで敵の攻撃を受けやすい広さがあるね。


「じゃあこの中で一番高いのを買おう!」


 お金を出すのはスポンサーであるティキルタちゃんだからね。依頼主の意向に沿って一番良い盾を買おう! その方が防御力も高いだろうしね!


「ちょっと待つのニャ」


「え?」


 しかしここでニャット先生の待ったがかかる。


「受け取る相手を考えて決めるニャ。盾を送るのは新人冒険者の小僧だニャ。それが盾だけ豪勢な物を持ってると周りから誤解を招くのニャ」


「それって盗品扱いされるって事?」


「そうだニャ。それに碌でもない連中に目を付けられる可能性が高いニャ。目を離した隙に盗まれるなら良い方で、最悪森の中で採取してる時に後ろから襲われる可能性もあるのニャ」


「なっ!?」


 そんな高級品を盗む強盗みたいな真似が!?


「良く思い出すニャ。おニャー、トラントの町でどんな目に遭ったニャ?」


「誘拐されました」


 はいそうでした! よく考えたらイスカ草目当てにめっちゃ襲われてたわ!


「むぅ、そうなるとそこそこの品を送るべき?」


「それが妥当だニャ」


 うーんでもなぁ、ニャットの言い分は正しいんだけど、ティキルタちゃんの気持ちを考えるとあんまり安っぽいのもなぁ……いや、それならいっそ……

 私は店員さんを呼ぶと盾売り場にある同じくらいの大きさの安い盾を指さして注文する。


「ここからここまでの盾を全部下さい!!」


「はっ!? 全部!?」


 まぁ店員さんが驚くのも無理はない。

 女の子が一人で買うのはちょっとありえない量だからね。


「はい、全部買います」


「ええと、マジで?」


「マジです」


 ホントに買うの? と困惑していた店員だったが、私が再度頷くと、店員も観念したように商品の代金を計算し始めた。


「えっと、全部で金貨8枚と銀貨20枚だけど、本当に買うの?」


「分かりました。はいっ」


 金額を言えば私も諦めると思っていたらしい店員だったけど、私が本当に金貨8枚と銀貨20枚を出した事で目を丸くする。


「ま、毎度あり。ええと、袋に包みますか?」


 いや、流石に入らんでしょ。


「大丈夫です。魔法の袋がありますから」


 そう言って私は購入した盾を魔法の袋に詰め込んでゆく。


「な、成る程、魔法の袋ですか。それなら納得ですね」


 盾を詰め終わった私は、冒険者達のポカーンとした視線に見送られつつ、店をでた。


「ありがとうございましたーっ!!」


 そして背後から、心底嬉しそうな店員の見送りの声が響き渡ったのだった。


 ◆


「それじゃあ合成を行おうと思います」


 宿に戻ってきた私は、さっそく盾の合成を行う事にする。


「ベースにするのは一見平凡でお値段手頃だったこの盾! これに他の盾を合成していきます!」


 と言う訳で一括合成!


『最高品質のノースタートル変異種の盾:冬でも冬眠しないノースタートルの甲羅を加工した盾。品質が非常に良く、更に変異種の素材を使っているので通常のノースタートルの盾よりも堅い』


 よし、見た目の割に良い感じの防御力になった!!

 見た目も普通だし、これなら目を付けられて盗まれたり襲われたりしなさそう!


「あとは宝石や変異種の魔物の素材を合成して見た目じゃ分からない特殊能力を付与しよう!」


 と、そこで宝石を出した私は考え込む。


「あっ、でもシトリンとトパーズは魔法の威力が上がるだけだから、剣士には向かないか。別の宝石か素材にした方がいいかな?」


 そうだった、せっかく北都にきたんだから、北部特有の宝石や魔物素材を探してみよう!


「よし! まだ朝だし、合成素材を探しに行くよー!」


 と言う訳で、他の素材を探す為、再び町に出る。


「えっと、出来ればクズ石を売ってるお店が良いかなぁ」


 東都での買い物を思い出して、土産物を売ってるお店を何件か回ると、予想通りクズ石を売ってる店を見つけた。


「うん、東都のヤツとは色が違うね」


 売っているのが違う宝石なのを確認したら、さっそく箱で注文する。


「すみませーん、ここに売ってるクズ石全部ください」


「はーい……って、全部!?」


「はい、全部お願いします」


 お店の人がギョッと驚くのを見ながら、全部のクズ石を買い取る。


「ええと、全部で金貨4枚でございます」


 お金を払うと、魔法の袋を逆向きにして箱ごとクズ石を入れてゆく。


「ありがとうございましたー!」


 滅茶苦茶嬉しそうな土産物屋の店員の声を背中に、今度は魔物素材を売っているお店を探す。


「魔物素材を売ってるお店ってどこにあるんだろ? 南都だと港で買えたけど」


「冒険者ギルドに行ってみたらどうニャ? 職人や商人とコネのない連中はギルドで買い取ってもらうのが一般的だニャ」


 成程、魔物素材を買い取るのは冒険者ギルドか。

 確かに言われてみればそれっぽい。


「ついでに件の小僧も探してみるのニャ」


 ああ、それは良いね。相手は冒険者だし、いざ贈り物を私に行ったら、もうこの町から出て行ったなんて可能性もあるんだから。


「よし、それじゃあ冒険者ギルドに行ってみよう!」


 ◆


 と言う訳で今度は冒険者ギルドにやってきました。


「何だ? 子供?」


「店を間違えてんじゃねぇのか? 誰か言ってやれよ」


「いやお前が行けよ。下手に触ってケガさせたら大変だろ」


 いや私は幼児かい! おっさんが触ったくらいで怪我なんかせんっちゅーの!


「おいお前、ここは冒険者ギルドだぞ。子供がくる場所じゃねーよ」


「は?」


 誰が子供じゃー! 私はちょっと小柄なだけじゃい!!


 という言葉をギリギリで飲み込みながら振り返ると、そこには頬に傷を負った少年の姿があった。


「いたぁーーっ!!」


「はっ!?」


 いきなりターゲットに遭遇だよ! どう見てもこの子がティキルタちゃんのお目当ての男の子だよ!


「な、何だよ急に大声上げて」


 おっといけない、今はまだこの少年にティキルタちゃんの事を知られる訳にはいかない。

 ティキルタちゃんの気持ちは知ってるけど、この少年がティキルタちゃんの気持ちを知ってどう動くか分からないからね。


「いえいえ、こちらの話です。それよりもあなたも冒険者なんですか? 見た所貴方もかなり若く見えるけど」


 と言うかギリギリ中学校一年生くらい? 冒険者って言うにはあまりにも若く見える。

 いや、栄養が無くて実年齢よりも体が成長してない可能性も否定はできないか。


「な、何言ってやがる! 俺は一人前の冒険者だっつーの!」


「はははっ、言われたなロスト。まぁお前はまだまだ半人前のガキだからな、しゃーない」


「誰がガキだオッサン! 俺は一人前だ!!」


 どうやらこのロストと呼ばれた少年、見た目通り冒険者ギルドでは新人扱いみたいだ。


「まぁロストの事はどうでもいい」


「よくねーっつーの!」


 尚も文句を言い続けるロスト君を無視して、先輩冒険者は私の前でしゃがみ込んで話しかけてくる。


「ここは冒険者ギルドだぜ。入る店を間違えてないか?」


「いえ、冒険者ギルドに用事があって来たので、店を間違えてはないですよ」


「何だ? 依頼か? だがここは子供の小遣いじゃ依頼なんてできねーぞ」


 むぅ、子ども扱いが酷い。

 まぁおじさん達から見たら私も若いかもしれないけど、どうにも納得いかん!


「いえ、依頼でもないです」


 そう言って冒険者を交わすと、私はギルドの受付に向かう。

 ロスト君とも運よく出会えたし、本来の仕事に戻るとしよう。


「冒険者ギルドにようこそ。どのような御用でしょうか?」


 おおっ、窓口のお姉さんは私が女の子でもちゃんと真面目に対応してくれるよ! これは好感度高いね!


「えっと、ギルドが買い取っている魔物素材を買いたいんですけど」


「魔物素材の買い取りですか? それは構いませんが、良い素材は契約している職人や商店が優先されてしまうのであまり良い素材はお売りできませんよ?」


 成程、商人ギルドを介して定期購入契約とかしてるのかな?


「質の良くない素材でも大丈夫です。北部特有の素材を遠方の土地の職人に見せる為に仕入れたいので」


「あら、もしかしてお嬢さん商人なの?」


「はい。商人ギルドの会員証もありますよ」


 そう言って私がカードを見せると、受付のお姉さんは納得したと頷く。


「それなら向こうの通路の一番奥の扉の向こうに解体所があるから、そこで話を聞いてみると良いわ」


「ありがとうございます」


 言われた通り通路の一番奥の扉を開けると、ムワッと血の匂いが鼻腔に流れ込んでくる。

 そしてその中では、何人もの商人が魔物を解体して素材をはぎ取っていた。


「ええと、誰に聞けばいいのかな?」


 私は解体場を見回すと、周囲に指示を飛ばしているお爺さんを見つけてその人に話しかける。


「すみません、魔物素材を買い取りたいんですけど」


「ああ? 素材だぁ?」


 うわぁ、ギルドに居た冒険者達よりも顔が怖い。


「仕事で使う為の素材が欲しいんです。受付で聞いたらここで話を聞けって」


「……何が居るんだ?」


おお、冒険者達のようにいきなり子ども扱いして追い払おうとしないのは好印象だよ!


「えっと、北部から離れた遠い町で北部特有の魔物素材を職人に見せる為に使うので、質よりも数を揃えたいんです」


「ふむ、質は問わねぇのなら、それなりに出せるぞ。質の悪い素材はどうせ売っても大した金にならんからな」


 おお、それはありがたい!


「大量に欲しいので提供して貰える素材全種類買取たいです!」


「全部か? そいつは随分と大盤振る舞いだが、本当にクズ素材でいいのか?」


 と、私が余りにもあっさり質の悪い素材を簡単に買い取ると言ったので、お爺さんが訝し気な顔になる。

 詐欺か何かと心配したのかな?


「大丈夫です。北部にはどういう素材があるかのかを説明する為のものですから!」


「……ちょっと待ってろ」


 そう言うとお爺さんは解体所の奥に引っ込んでしまった。

 ありゃ、なんか警戒させちゃった?

 マズイ、これなら売って貰えるギリギリ良い素材にしてもらった方がよかったかな?


 と、思ったのだけど暫くしたらお爺さんは戻ってきた。

 大きな箱を抱えた数人の職人を引き連れて。


「頼まれたクズ素材だ。それとこれもいるだろう」


 と言って差し出したのは、最初に差し出されたクズ素材とは明らかに質の違う素材だった。


「こっちがこの町の一般的な品質の魔物素材だ。クズ素材を見てこれがこの辺りの素材の平均と思われたら堪らねぇからな」


 なんと、お爺さんは今後の取引の事を考えてちゃんとした素材まで用意してくれたのだ。

 マジかー、良い人だなぁ。


「ありがとうございます。それじゃあそちらの素材も含めて全部購入させてもらいますね」


「おう、代金は銀貨40枚ってとこだな。ああ、こっちのクズ素材もおまけにしてやるよ」


 と、お爺さんは一般的な魔物素材のおまけにクズ素材をつけると言ってくれたのだ。


「ええ!? 悪いですよ!?」


「どうせ捨てるか半人前共の練習用の素材だ。こんなもんに金をとったら俺達の名折れだ」


「……あ、ありがとうございます」


 まじかー、このお爺ちゃん良い人過ぎるでしょ。

 格安で買って合成で最高品質にしちゃえば大儲けと思ってたから凄い悪い事してる気分になってきちゃうんですけど。

 うーん、何かつり合いのとれる方法はないかな……あっ、そうだ。


「あの、これは南部で仕入れた商品なんですけど、数が少ないので大きなお店じゃちょっと売りにくくて、良かったら貰ってください」


 と、私は魔法の袋から取り出した南部の干し魚をお爺さんに差し出す。


「ガキが気を遣うもんじゃねぇ」



 けれどお爺さんにはすげなく断られてしまった。

 だがここで諦めては私のプライドに関わる!


「良いんですよ。生物だから早く消費したいんです。北部だからまだ保ちますけど、ずっと残していても腐らせちゃいますから」


 そう言って強引にお爺さんの手に握らせると、お爺さんはやれやれと肩をすくめると干し魚を受け取ってくれた。


「やれやれ、強引な嬢ちゃんだ」


 良かった、受け取って貰えた。


「へへっ、とかいっておやっさん嬉しそうじゃないですか」


「お孫さんには怖がられてますからねぇ」


「うるせぇ! さっさと仕事に戻りやがれ!!」


 素材を運んでくれた職人さん達にからかわれて、お爺さんが皆を怒鳴りつけると、職人さん達は笑いながら仕事に戻っていった。

 うーん、意外と上下関係が緩い職場だねぇ。

 それともお互いに信頼しあっているのかな?


 ともあれ、これで北部の魔物素材が手に入った。


「さっそくクズ石と合わせて合成だーっ!!」

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