第101話 北の合成大会と新たな目覚め

「それじゃあ合成タイムはっじまっるよー!」


「おー」


 ニャットが合いの手代わりにペシンペシンと尻尾で床を叩く。うーん雑。

 ともあれ久々の合成タイムの始まりだ。


「購入したのは体を温める薬草と凍傷用の薬草。ショウガみたいなジンニャに里芋っぽいガロイモ。北部の傷薬用の薬草に料理に使える薬草、ポーションに使う薬草と」


「それじゃあまずはジンニャとガロイモを合成してみようかな。合成&鑑定!」


『キャロイモ:滋養が高くウマが好んで食べる根菜。様々の料理の具材として使える。人によっては苦手意識がある』


 うん、ニンジンだこれ。

 色といい形といい馬が好きな事といい、間違いなく人参です。

 晩御飯のおかず行きかなぁ。


「キャロイモって市場に売ってたっけ?」


「キャロイモなら隣国の食材ニャから、そこまで珍しい物じゃニャいニャ」


「成る程、それなら売っても変に目立つことはなさそうだね」


 うん、目立たないのは大事だからね。

 あまり派手に珍しい物を売って、北部でも目を付けられるのは避けたい。


「じゃあ次は薬草かな。体を温める薬草と凍傷用の薬草を合成っと」


『最低品質のプラノゾ草:喉薬の原料になる。ただし苦いので砂糖を混ぜる事。ハチミツは薬効に影響するので厳禁』


 おお、喉薬は嬉しいかも!

 まぁ調合の方法は知らないんだけどね。

 そして苦いのか。


「次は体を温める薬草と傷薬に使える薬草を合成!」


『最低品質のヒータン草:火傷の治療薬の原料。すり潰した汁を布に浸すと高熱時の熱さましになる』


 へぇ、火傷の治療薬か。これも使えるかもね。

 熱さましは風邪の時とかにおでこに張るシートみたいな奴って事かな?


「次は体を温める薬草とポーション用の薬草を合成だ!」


『最低品質のボーダン草:極寒の地で活動する為に必須のヒートポーションの材料になる』


 へぇ、ヒートポーションなんてあるんだ。極寒の地で必須って事は、ゲームなんかでお約束の寒冷ダメージを受けなくなる感じなのかな? リアルだと体が温まって寒さを感じなくなる感じ?


 意外にも寒い土地なのに、温かくなるためのアイテムが多く合成できたなぁ。

 ゲーム的に考えると寒い土地は寒いアイテムが出るイメージだけど、寧ろ寒さから身を護る為に熱を溜める効果を内包していて、それが合成で表に出てきたのかも。


『合成スキルが成長しました』


「おっ!? 久々の実績解除来た!?」


『解体が解放されました』


「解体?」


『解体:合成したアイテムを一段階前の素材に戻す。二段階以上前の素材には戻せない』


「……え?」


 待って、なんかヤバイ機能が解放されませんでしたか?

 つまりこれ、実験用に合成した素材を元の素材に戻して何度でも他の素材と合成できるようになるのでは!?


「まずは実験をしてみないと。ボーダン草を解体!」


 すると私の手の中にあったボーダン草が光を放ち、二本の薬草に姿を変えた。


「鑑定」


『最低品質のスーカ草:寒冷地に生える傷薬の材料。すり潰して塗り薬として使う。筋肉痛にも効果がある』


『最低品質のキタスクリ草:寒冷地に生えるスクリ草の亜種。ポーションの材料になる。ポーションにして飲むと少し体がポカポカして微妙に寒さに強くなる』


「おー、本当に元に戻った」


「どうしたのニャ?」


「えっとね、なんか合成した素材を元に戻せるようになったみたい」


「ふーん、そうニャの……ニャニィー!?」


 突然全身の毛を逆立てたニャットが垂直に飛び跳ねて天井にぶつかると、その勢いのまま落ちてくる。


「ママママジなのニャ!?」


「う、うん。出来るようになったっぽい」


「も、もっと具体的に教えるのニャ!!」


 何故か物凄く血相を変えたニャットが、尻尾の先まで膨らませて新たに覚えた新能力の説明を求めてくる。

 うーん、正直ぬいぐるみみたいで可愛いなぁ。ビックリして膨らんだ猫の尻尾良いよね。


「えっとね、合成した素材を一個前の素材に戻せるみたい」


「それは完成品から中間素材に戻し、さらに元の素材に戻せるのニャ?」


「それは無理みたい」


「ニャるほど、それは不幸中の幸……いやそれでも十分ヤバいニャ」


「何がヤバいの?」


 膨らんだニャットのモフモフを堪能しながら、私はニャットが何を慌てているのかと尋ねる。


「いいニャカコ、おニャーの新しい力はとんでもニャい事を自覚するのニャ。その力は、薬師や錬金術師達の秘伝のレシピを丸裸にするって事なのニャ」


「レシピを?」


「そうニャ。ある薬師しか作れない貴重な薬があったとして、おニャーが現物を確保すればどの薬草を使っているのかが一瞬で分かるのニャ」


「あっ、そっか。完成品のアイテムも合成したのと一緒って事なんだ」


「恐らくだけどニャ」


 つまり秘伝のレシピを見放題って事!?

 って事はこの力を活用すれば、私も錬金術師になれるのでは!?


「良い感じの妄想をしてるところ悪いけどニャ、事はかなり深刻だニャ」


「いいニャ、おニャーのその力は、材料が分かるだけで必要な分量や調合方法、時間は分からんのニャ。けどそれでも専門家にとっては凄まじい時間短縮になるのニャ。ニャにしろ無限に等しい種類の素材と調合方法がある状況で、材料はこれだけしか使わニャいと絞り込みが出来るのニャ」


 うん、それは確かに。

 限られた数の素材しかないゲームでも、何も知らずにお目当てのアイテムだけを調合するのは物凄い手間がかかる。

 それでもゲームだからアイテムの組み合わせさえあれば一瞬だけど、現実だとニャットの言う通りで、調合の仕方によっては中間素材が完成するまでにかかる時間なんかもあるだろうしね。


「でニャ、それが作ってる本人に知られたら、間違いニャくおニャーは秘伝の技を盗んだと命を狙われるのニャ」


「命を!? い、いや流石にそれはないんじゃ……」


「甘いニャ。金持ちが大金を支払って欲しがる秘伝の薬を扱える薬のレシピは希少性を保つ為に門外不出だニャ。場合によっては一子相伝でもおかしくニャいのニャ。そんな貴重なレシピが広がる危険を考えれば技術を盗んだ相手の命を狙ってもおかしくニャいのニャ」


 マジかよ、異世界怖いな……あっ、でも昔見た時代劇で、刀鍛冶の弟子が師匠の技術を盗もうとして腕を切られたって怖い話があったような……もしかしてあれって本当の話だったの!?


「いや待った待った、まだ完成した品を分解できるとは限らないよ。試しにポーションにやってみよう」


 と言う訳で私は検証の為にポーションに解体を試みる事にする。


「ポーションを解体!!」


 するとポーションがピカッと光り、テーブルの上には二つの薬草が現れた。


「出来ちゃったよ……」


「出来ちゃったニャア」


 なんという事でしょう。他人の調合したアイテムでも解体が出来てしまいました。


「ええと、とりあえず鑑定」


『スクリ草』


『ノーミ草:ポーションの材料になる』


 そして使っている材料が分かりました。


「……不味いのは、この力を悪党に知られると、おニャーは素材調査の為に誘拐されるのは間違いニャいのニャ」


 ギャー! また誘拐の可能性が増えたぁー!


「どどどどうすれば!?」


「とにかくおニャーの力を秘密にするのニャ。今まで以上に力を迂闊に外で使う事を避けるのニャ」


「わ、わかったニャ~」


「ニャーが甘いニャ」


 こんな時でも手厳しい~っ!

 おおお、なんという事でしょう。新たな力に目覚めたら、色々とやっばい力でした。


「おニャーに自衛する力があれば有用ニャ能力なのニャが、おニャーは絶望的なまでに弱いからニャー」


 うっさい、大きなお世話だよ!

 ううー、やっぱり女神様から戦いに使えるスキルを貰った方が良かったのかなぁ。

 いややっぱ無し。どうせそんな力貰ってもドンくさい私じゃそんな力使いこなせないのは間違いないし。


「結局素材に戻して売るくらいしか用途は無いって事だね」


ん? いや待てよ。失敗したアイテムから素材を回収すればいいんじゃないかな?

 失敗した素材の回収か、それはありかも。


 北都は大きな町だから、見習い薬師とかが合成でも品質を上げようがない失敗作が売られているかもしれない。

そういう価値のない品を格安で買い取って、素材に戻して売り物にするのはどうだろう。

 これなら新しい能力がバレる心配もないし、売る品も珍しくないから目立つ事も無い。


「うん、これならいける!」


 よーし、明日は失敗作のアイテムを探しにいくぞー!

よし! やる気も出たし、残りのアイテムの合成もしちゃおう!

 今度はちょっと趣向を変えて、完成品のアイテムと素材を合成しちゃおう。

 もしかしたら新しい実績が解除されるかも。


「それじゃあ……ポーションとガロイモと凍傷用の薬草を合成!!」


 そうして合成によって出来上がったのは、少しだけ茶色味のある黒い液体だった。


「んん?」


 ポーションでも薬草でもないソレに首を傾げてしまう。

 これもポーションの一種なのかな? でも色的にすっごく失敗ぽい感じが……


「何だろコレ? えっと、鑑定」


『低品質の醤油:豆を原料にした調味料。スープによし、食材の味付けによしの万能調味料』


「……へっ?」


 え? マジ? 醤油? マジで?


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 醤油だぁぁぁぁぁぁっ!!」


 まままままマジで醤油ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!

 その瞬間、私は醤油が手に入った衝撃で新たに手に入った能力の事をすっかり忘れてしまったのだった。

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