第100話 北の市場

「まずは拠点になる宿を決めよう!」


「うむ、そうだニャ」


 と言っても止まる宿は決まっているんだけどね。

 お世話になったマーロンさんが贔屓にしている吹雪の暖炉亭にしようと思う。

 見知った顔が居る事は凄く安心するし、あのマーロンさんが贔屓にしているなら安全も担保出来るからだ。


「と言う訳で吹雪の暖炉亭を探すよ!」


「おー、だニャ!」


 ◆


「ここは止めよう」


「そうするのが良いニャ」


吹雪の暖炉亭はすぐに見つかった。見つかったんだけど……


「これはアカン!!」


 塔の吹雪の暖炉亭は、見た目ボロボロ出入りするのはどう見てもヤバそうな人達ばかり!

 顔は怖いが中身は良い人なんて可能性もあるのかと思ったけど……


「クックックッ、そろそろ次の得物を狩らねぇとなぁ……俺の相棒が疼いて仕方ねぇ」


「ケヒヒッ、血が欲しいなぁ! 血がぁ!」


 完全に世紀末な感じのヤバ過ぎるセリフを吐いていらっしゃいます。

 これは子供じゃなくても近寄っちゃ駄目!!


「あそこに泊まれるのはマーロンさんみたいな強者だけだよ!!」


 と言う訳で商人ギルドに戻ってまいりました。


「あらー、どうしたの?」


 登録作業をお願いした受付のお姉さんの所に行くと安全な宿を紹介して貰う事にする。


「そうねぇ、そう言う事なら大通りの宿ならどこも安全よ。北都の宿は大通りを外れる程値段と安全が低くなる感じね。安くて安全な宿を頼みたいのなら、大通りから二つ横の通りまでにしておきなさいねー」


 成程、基本的には町を守る壁が近づく程治安が悪くなる感じなのか。

 例外は大通り近くの外壁沿いだけ、と。


「分かりました。ありがとうございます」


「はいはーい」


 ◆


 改めて宿を探す事にした私達は、とりあえず大通りから一本横にズレた宿を探すことにする。


「芋掘りウサギ亭……とりあえずここにしようか」


 地面に穴を掘るウサギの看板が面白かったので、この宿に入ってみる事にする。


「すみませーん、二人で泊まりたいんですけど、お幾らですかー?」


「んんー? お嬢ちゃん、お父さんとお母さんは?」


 受付の人に話しかけると、いきなり子ども扱いされました。

 おんどりゃー! 私は大人じゃーっ!!

 ……だが私はうろたえない。そっと懐からカードを取りだす。


「子供じゃありません。商人ギルドに登録している商人です」



 そしてカードに燦然と輝く小人族の文字!!


「お・と・な・ですので」


 そう! これなら私が大人と言う証拠になるのだ! たとえ子供に見える小人族であっても大人なのだぁーっっっ!! ……なんだこの敗北感。


「……小人族、ね。分かりました。では小人族のお嬢さんとネッコ族の保護者の方で銀貨7枚になります」


「……分かったニャ」


 よし、大成功!!

 ところで何で残念な子を見る目で見てるんですかニャットさん?


 私達は代金を支払うと、部屋の鍵を受け取る。


「部屋は二階の一番奥から二番目の右側ね。壁が薄いって事はないけど、あんまりうるさくすると苦情が入るから気を付けてください。銅貨5枚でお湯とタオルを貸しだせますけど、それよりは公衆温泉をおススメするかな」


「え!? 温泉があるんですか!?」


 マジか!? 異世界で温泉に入れるの!?


「あるよー。タオルは自分で用意する必要があるけどね」


「分かりました! ありがとうございます!」


 よーっし、後で温泉行こーっと!!


「食事は後ろの食堂で頼むか、外でどうぞ」


「はーい」


 ふむふむ、北の大地の料理か。楽しみだね!


「厨房は借りれるのかニャ?」


 と思ったら、さすがニャットさん。いつも通りの反応してくれました。


「え? 厨房ですか? ネッコ族の方、料理なされるんで?」


「ニャーじゃニャいニャ。こっちがするのニャ」


「えーっと……それはちょっと」


 おい待て、何で私の顔見た瞬間難色を示すんだ。


「金は出すニャ。それにコイツはそんじょそこらの店よりも美味い物を作るのニャ」


「ええ!? この子が!? まぁ、忙しい時間帯じゃなければ良いと思いますが、後で厨房に聞いておきますね」


「よろしく頼むのニャ」


 むぅ、解せぬ。私は大人ぞ?

 などと言う事がありつつも、私達は2階に上がって宛がわれた部屋に入る。


「おお、結構いい感じ!」


 ホテルの部屋は豪華とは言わないものの、中々に住み心地が良さそう。

 少なくとも隙間風が寒いとかは無いね。


「内鍵もあるのニャ。これなら安心して眠れるのニャ」


 おお、ニャットの言う通りだ。流石大通りに近い宿!

 と言うか、お勧めでない宿に入った事ないから分かんないんだけど、安い宿って内鍵無いのかな?


「それで、これからどうするのニャ? 市場で何か売るのニャ?」


「うーん、そうだねぇ。でも今日はもう結構良い時間だから、市場で物を売るのは明日以降かな。とりあえず市場とお店を巡って売り物の相場と北部名物のチェックの予定」


 まずは北都の相場をチェックしておかないと、何がどのくらいで売れるのか分からないからね。

自分が売ろうとしている商品と同じものが別の露天で売ってて、しかも安かったら目も当てられないよ。


「と言う訳で、市場に行くよー!」


「おー、なのニャ!」


 ◆


 宿の受付の人に市場の場所を聞いた私達は、さっそく市場へと向かう。


「ほぇー、流石に北都は珍しいものがあるね」


 流石北部で一番大きな町、見たことも無い物が沢山あるよ。


「国境の町が近いからニャ。隣国の品も流れてきているみたいニャ」


 言われてみれば東部では見なかった異国情緒のある品もあるね。

 いやこ東部の品物も私にとっては異国情緒ありありなんだけどね。


「おー、何だろこれ?」


 中にはどんな用途なのかさっぱり分からない品もある。


「東都の商品と西都の商品はやや割高って感じだニャー」


 ふむふむ、割高ではあるけれど、そこまで高値って感じじゃないね。

 対して南都の商品は少ないかな。

 干物はあるけど、干し魚は無いか。っていうか干物高ぁーっ!!

 でも買ってる人はいるね。


「あんなに高いのに買う人いるんだ」


「はははっ、ありゃあ大通りの高級料理店の料理人だよ。定期的に遠方の珍しい品が無いか調べに来てるんだ。金持ちは珍しいものが好きだからな」


 と、隣で物を売っていた露天のおじさんが教えてくれた。

 成程、確かにお金持ちなら珍しい物に大金を払うのもおかしくは無いか。

 なかなか参考になるね。


「それはそれとして……おじさん、コレ何?」


 私はおじさんの露天で売っている品が気になったのでいくつか質問してみる。

 見たことないし北部の名物かな?


「これはジンニャっていう根菜でな、そのまま食べるんじゃなく、細く切ったりすり下ろして味付けに使うんだ。ピリッとして体が温まるぜ」


 成る程ショウガですね。


「こっちは?」


「それはガロ芋だな。皮を剥いて煮込むとトロ味のある食べ応えを楽しめる」


 ふーむ、里芋みたいなものかな?

 他にも並べられている物を見るに、北部の食べ物は根菜が多い感じ。 

 やっぱり地面が雪に埋もれているから、そういった食材が多いのかな?

 でも北海道のキャベツは冬の間雪に埋まっているから、甘みが強いとかテレビで言ってたから、他の露天には葉野菜もあるのかな?


「じゃあジンニヤとガロイモを三つずつください」


 とりあえず合成実験用にいくつか買っておこう。


「はいよ、銅貨3枚だ」


 おお、意外と安い?

 他には何か良いのは無いかなぁ。


「そう言えばおじさんは薬草って扱ってます?」


「ウチは無ぇなぁ、薬草が欲しいならあっちに行ってみな。大体皆同じような物を売る連中で集まってるからよ」


「集まっちゃうんですか? 離れた方が自分の店よりも安い物や良い物と比較されなくて良いと思うんですけど?」


「そうでもねぇな。あまり離れすぎてると売ってることに気付かれないこともあるのさ。買う連中からしても、全部の店を探してる間に値打ち物と思った商品が売切れるのも怖いからな、それなら同じ店が集まってる当たりで一番安い品を見繕うようになったのさ」


 成程、確かにそれはある。

やっぱあのお店で買おーって思って戻ったら、お目当ての品が売り切れていた悲しみ!!


「ありがとうございます。ちょっと見てきます!」


「おう、まいどありー」


 と言う訳で薬草売り場にやってきました。


「ヒヒヒ、いらっしゃーい」


 いきなり怪しいお婆さんが出迎えてくれました。

 うーん、よく見るとこの区画だけ明らかにお客が少ない。

 そして売ってる人達が皆怪しい!! 魔女の巣窟ですかココは!?


「えっと、北部特産の薬草とかありますか?」


「いっぱいあるよー。必須なのは傷薬用、凍傷用、体を温める用かねぇ」


「凍傷ですか?」


「そうだよぉ。この北部じゃ寒さと凍傷は命に関わるからねぇ。旅人ならなおさら持っておいた方が良い」


確かに、ここに来る前に遭難しかけた私としては寒さ対策は必須だ。


「よしときな嬢ちゃん。そいつの店の薬草は質が良くないからね。ウチで買った方が良いよ」


 と思ったら隣のお婆ちゃんから自分の店で買うように勧められた。


「うっさいよ。アンタの所は品質以上に高いじゃないか! このボッタクリめ!」


「だーれがボッタクリか! アタシャ安心安全の品質を売りにしてるんだ。値段が高いのは常に良い品質の品を用意するって信頼の現れさ!」


 うーん、それも間違いではないよね。

 高い=良い物って訳じゃないけど、そういった商品はある程度の信頼があるのは確かだ。

 でないとネット社会じゃすぐに悪評が広まっちゃうからね。


「高いだけと安いだけもどうかねぇ。うちは値段も品質も良いよぉ」


「「おだまり中途半端が!!」」


うーん、カオスになってきました。

 喧嘩してる今のうちに別の露天もチェックしよーっと。


「ヒヒヒ、ウチは料理に混ぜても美味しいのを取り扱ってるよぉ」


「ウヒヒ、ウチはポーションに使う薬草だよぉ」


 うん、何で皆怪しい口調なのかな。

 まぁお店の売りを説明してくれるのはありがたいけどさぁ。


 そうして薬草売り場を一通り見てみて分かった事として、二番目のお婆ちゃんの所はこの辺りで一番高いのは事実だった。

 それにそれぞれの用途専門にしている店の方が、品質の良い薬草があったのも事実。

 ただ、全体的な全体的な品質はどれも高いんだよね。なんていうかバランスよく品質の高い品を取り扱っているって感じ。


 他の露天は専門外の薬草も取り扱っているけど、自分が専門にしている品だけ品質に気を遣っているみたい。


 で、似たような専門の薬草を取り扱っている露天でも、品質の悪い品を売っているお店がいくつかあったから、一軒一軒探して一番質の良い店を探しまわるよりも、安定して品質の良い二番目のお婆ちゃんの露天で欲しい物を纏めて買うのが楽なのかも。


 ちなみに品質に関しては見た感じで明らかに萎れてるのや色がおかしいのを見て判断してる。

 そう考えると、二番目のお婆ちゃんは規格外品を弾いたスーパーの商品って感じで、他のお婆ちゃん達の所は廃棄品も売ってる農家の直売所みたいな感じだった。


 でもまぁ私的には質が悪くても合成で品質を良く出来るので、とりあえず安い薬草を手当たり次第に購入することにしましたとさ。


「アンタもうちょっと良い品質の品を買いなよ。ウチのは品質が良いよ」


「おだまり! 折角売れ残りを買ってくれるんだから口出しするんじゃなよ!」


 売れ残りってハッキリいってますやん……


「初めて取り扱う品ですから、効果を確かめた後で使えそうと判断した品を改めて買いに来ますね」


「おやそうなのかい? だったらその時はウチで頼むよ!」


「何ちゃっかり売り込んでるんだい! 専門の薬草ならウチの方が安くて質が良いからウチに来な!」


「「「待ってるからねお嬢ちゃん!!」」」



 薬草エリアの怪しいお婆ちゃん達が一斉に立ち上がって声を揃える姿は中々にインパクトあります。

 あっ、すぐ横の薬草以外の商品が売ってる区画のお客さん達が一斉に逃げ出した。

 うん、まぁ、逃げるよね……私も逃げる!

 わ、私は悪くないぞ! 何も悪い事してないからねーっ!

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