第88話 壁越しの救出作戦


「じゃあやりますよ。危ないので離れていてください」


 皆に離れていてもらうと、護衛のニャットだけを傍に置いた私は宿舎の壁に手を触れて小声で呟いた。


「小石に壁を合成!」


 まばゆい光と共に壁が輝くと、光が収まったあとには壁のない部屋が広がっていた。


「成功です!」


 私は中に誰も居ない事を確認すると、皆を呼び寄せる。


「凄いな、壁を消し去るとは……世の中にはこんなマジックアイテムもあるのか」


「あはは、秘密ですよ?」


 レイカッツ様の救出方法に悩んでいた時、私はある方法を思いついて皆に提案した。

 それは私の合成スキルを使ってレイカッツ様が捕まっている宿舎の壁を消して侵入するという方法だった。

 勿論私のスキルで、と言う訳にはいかないからそこはどう言い訳しようかと迷ったんだけど、すかさずニャットがマジックアイテムの力だと言ってくれたので事なきを得た。

 ナイスアシストだよニャット!

 本当は人前で使いたくなかったけど、今は一刻を争うからね。


「しかし今の光が見られたらすぐに捜索の手に捕まってしまうな。急いだ方が良い」


「はい!」


 私達は部屋を出て宿舎を移動する。


「ロベルト殿、ここからどこに行けばいい?」


「……右に進んで三つ目の十字路を右だ」


 ロベルト様から聞いた宿舎の構造から一番目的地に近い壁を消して私達は内部に侵入している。

 ただ万が一にも脱走されないように、牢屋の位置は端っこじゃなく微妙に真ん中寄りに配置されているのだとか。

 まぁ地下じゃないだけマシなんだけどさ。

 それにしてもロベルト様は大人しく協力してくれるなぁ。なんでだろ?


「いかん、誰か来る。そこの部屋に隠れるぞ」


 私達はすぐに近くの部屋に隠れて見回りをやり過ごす。


「……よし、もう大丈夫だよ。行こう」


 精霊に周囲の様子を確認してもらったマーツさんからGOサインが出た事で私達は部屋を出て進んで行く。

 そして目的の部屋へとたどり着く。


「じゃあやります。皆さんは離れていて」


 再び私は合成で部屋の壁を消し去る。


「うわっ、なんだ!?」


 合成の光と共に聞こえてきたのは聞き覚えのある声、そうレイカッツ様の声だ。

 私が合成したのはレイカッツ様の部屋の隣にある部屋の壁だったのである。

 普通に通路から部屋に向かうと、扉の前で待ち構えている護衛達に見つかって仲間を呼ばれちゃうからね。

 だから護衛の想定外の壁の向こうから侵入する事にしたのだ。


「助けに来ました」


「カコ嬢!?」


 レイカッツ様は手足を縛られて椅子に拘束されていた。

 すかさずニャットが手足の拘束を爪で破壊する……って凄いくない、その爪!?


「カコのマジックアイテムを使って侵入した。見つかる前に逃げるぞ」


 メイテナお義姉様に促されるも、レイカッツ様は躊躇いを見せる。


「いや、父上を救う為の解毒剤を探さなければ、連中の話では普通の解毒剤では治療は困難らしい」


「問題ない。イザック達が薬を見つけてくれた」


「おお! 父上を救う為の薬が手に入ったのですね!」


 成程、レイカッツ様が脱出を躊躇ったのは薬を探してる途中で捕まったからなんだね。

 でも心配ご無用ですよ。解毒剤も証拠の毒薬もゲットしたからね!


「さぁ、何時までもここに居ては敵に見つかる。すぐに逃げるぞ」


「レイカッツ」


「兄上!?」


 さぁ脱出だ、と来た道を戻ろうとした私達だったけど、一緒に連れてきたロベルト様を見てレイカッツ様が驚きに動きを止める。


「何故兄上がここに!?」


「人質にした。まぁ大して役に立たなかったけどな」


 うんまぁ、まさか薬で治せばいいやって吹っ切れてロベルト様ごと襲われるとは思わなかったよね。

  

「……兄上、何故父上にあのような真似を? 後継者は兄上なのです。あのような真似をする必要はなかったでしょう」


「お前に何が分かる。誰からも求められたお前に」


「求められた? 私が?」


「のんびり話している場合か。早く逃げるぞ」


 レイカッツ様がロベルト様の言葉の真意を問おうとしたのだけれど、それをメイテナお義姉様に止められる。

 そうだった、今はここから逃げるのが優先だった。正直すっごく気になるけど。


「カコ、向こうの壁を壊してくれ」


「はい」


 私はメイテナお義姉様の指示に従って壁を合成しては消してゆく。

 元来た道を戻らず新たに別の方向に穴を開けて逃げるのは、元来た道に開けた穴が既に見つかっている危険があるから。

 だからまったく別の方向に穴を開けて宿舎を脱出しようとしてるんだ。

 そして最後の壁を消すと、黒い雲に覆われた外の景色が視界に入ってきた。


「よし、小舟まで急ぐぞ!」


「おっと、逃がさねぇぜ」


 けれど脱出しようとした私達の前に現れる何十人もの武装した男達。


「ええ!? 何で!?」


 まさか待ち伏せ!? でも壁に穴を開けて脱出したのになんで待ち構えられてるの!?

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