第87話 偽りの契薬

 ロベルト様を人質に取って形勢逆転したと思った私達だったけれど、何とベルセイ副所長が人質を無視して攻撃するという暴挙を行ってきました。

 いやマジで何考えてるのこの人!?


「な、何をする副所長殿!? ロベルト様を殺すつもりか!?」


 あまりの暴挙に護衛の騎士達も困惑を隠せないでいる。

 良かった、ロベルト様が連れてきた騎士達はまともみたい。


「何を仰る。ここでロベルト様を誘拐されれば貴方がたもただでは済みませんぞ! 公爵家の跡取りを危険に晒した責任を取って投獄、最悪一族郎党揃って死罪でも不思議ではありますまい! まして攫われたロベルト様を盾に脅迫などされたら、それこそ公爵家の恥ですぞ!」


 だからと言って、ロベルト様を巻き込んだらそれどころじゃないでしょ!?

 馬鹿なのこの人!? 後で自分が処刑されちゃうよ!?


「そ、それは……だがロベルト様を巻き込む訳にはいかん!」


 護衛の騎士の人達もそう思ったのか、剣をベルセイ副所長達に向ける。

 正直ベルセイ副所長のやらかしのお蔭で騎士達が私達だけでなく、ベルセイ副所長達も牽制するようになったこの状況はありがたい。

 なんとかここでベルセイ副所長達を捕まえて貰って、改めてロベルト様を人質にしたいところなんだけど……

 けれどベルセイ副所長はニヤリと意味深な笑みを浮かべる。


「それこそ不要な心配ですよ。何せこちらにはロストポーションがありますからね!」


「ロストポーションだと!? 完成したのか!?」


 ベルセイ副署長から発せられたまさかの発言に、ロアンさんに捕まっていたロベルト様が驚きの声を上げた。


「さよう、遂にロストポーションが完成したのですよ。故に万が一の心配は無用。たとえ手足がちぎれても我々が責任をもって治療してご覧に入れましょう」


「お、おい、本当なのか!? 本当にロストポーションが完成したのか!?」


「こ、こら、大人しくしろ!」


 いや、ロベルト様、貴方今人質なんですから、それどころじゃないでしょ。


「ですのでロベルト様の心配はご無用です、騎士殿」


「し、しかしだな……」


 とはいえ、それでもロベルト様を巻き込むことに躊躇う騎士達。

 そりゃそうだ。怪我を治せるからって護衛対象を怪我させて良い訳が無いんだから。


「かまわん、やれっ!」


 けれどベルセイ副所長は躊躇うことなく部下達に攻撃の再開を命じた。

 再び魔法や弓が放たれ、私達は慌てて守りに転じる。


「くっ、不味いな。これじゃこっちが人質の坊ちゃんが邪魔でまともに戦えないぜ」


 うわわっ、ロベルト様を守らないといけなくなったせいで、皆が下手に動けなくなっちゃってるよ!?


「逃すな! 囲め!」


 しかもベルセイ副所長は私達が逃げられない様に周囲を囲み始める。

 騎士達も積極的に攻撃こそしてこないものの、私達を逃さないように包囲に参加し始める。


 まずいまずい、このままだと逃げ道をふさがれて逃げられなくなっちゃうよ!?

 どどどどうしよう!? 何かいい方法は……



「こうなったら!」


 私は一か八か手にした魔剣を地面に突き刺すと叫んだ。


「沈め!!」


 瞬間、魔剣が地面を底なし沼に変化させ、囲もうとしていた敵がバランスを崩す。


「うぉぉっ!?」


「またコレか!?」


 けれど私の魔力はすぐ尽きてしまい、地面はすぐにただのぬかるみになってしまった。

 うぐぐっ、なんかめっちゃ気分悪くなってきた。でもこれなら!


「今だ! 逃げるぞ!」」


 予想通り、メイテナお義姉様達は、相手が戸惑った隙を見逃すことなく撤退を命じて一点突破を開始する。

 私もそれに倣って逃げ出そうとしたけれど、ガクリと膝が崩れる。

 やば、足に力が入らない!


「カコッ!」


 倒れそうになった私の下から回り込んだニャットが、スルリと私の体を背中に載せる。


「ありがとうニャット……」


「無理し過ぎニャ。魔力が回復するまでそれは使うニャよ」


「分かったニャ~」


「ニャーが甘いニャ、しっかり掴まってるのニャ!」


 えへへ、ちょっと頑張り過ぎちゃったみたい。

 ともあれ、何とか私達はその場から逃げる事に成功したのだった。


 ◆


 無事に逃げおおせた私達は再び島の林に身を隠していた。

 ただ、マーツさんの精霊魔法のお陰で、姿を隠しつつ私達の声が漏れる心配がないのは良いのだけど、時折捜索隊の「居たかー?」「こっちはどうだ?」とかの声が聞こえてくるのは心臓に悪い。


「助かったぞカコ」


 なんとか安全なところまで逃げおおせたところで、メイテナお義姉様が私を労うように背中をポンポンと優しく叩いてくる。


「えへへ、お役に立てて何よりです」


 とはいえもう魔力切れなので、なんにも出来ないけどね。

 やっぱ魔力回復ポーションが欲しいなぁ。

 さっきの捜索で手当たり次第に放り込んだ薬の中に魔力回復ポーションとか無いかな?


「やれやれ、それにしてもまさか、人質を無視してまで攻撃してくるとは予想外だったな」


 そして再び始まる作戦会議。


「こうなると強引だがレイカッツ殿を救出して島を脱出するしかないな」


「それは敵も想定しているだろう。既に待ち伏せの為の兵を配置しているだろうな。寧ろ人質を取る前よりも兵の数が増えている筈だ」


 うわぁ、やっちゃった後だけど、これならレイカッツ様の救出を優先した方が良かったかぁ。


「それだけじゃない。嵐がかなり近づいている。今すぐ逃げないとあの小船では嵐に巻き込まれて海の藻屑だ」


 更にロアンさんから嵐がかなり近づいており、彼の魔法を使っても私達の避難はギリギリだと告げてきた。

 まさに四面楚歌、八方ふさがり。一体どうすれば……


「ふっ、ふははははははっ!!」


 そんな時だった。今まで静かにしていたロベルト様がおかしそうに笑い出したのだ。


「何がおかしい」


「笑わずには居られるか! 完成していたんだぞロストポーションが! つまりそれは私の研究が間違っていなかったという事だ! ははっ! だから言ったんだ、もうすぐ完成するとな! なのに王都の連中はいつまでも成果の出ない無駄飯ぐらいと私達の陰口を叩き、父上もまずは堅実に役目をこなせなどと言って南都での研究の許可を出さなかった! 失われたモノを甦らせる研究の難しさも理解できない癖に! ああ、本当に何を使って薬を完成させたんだ!? それとも画期的な精製方法を発見したのか!? 早く詳細が知りたい!」


 んん? もしかして今までずっと静かだったのは、ロストポーションのレシピを考えていたから?


「ロストポーションが完成していたのなら副所長の言う通りだ。多少大きな怪我をしたところで私の安全は確保できる! 寧ろ私自身が薬の有効性を示す事が出来るのだ!! 世界を震撼させる大発明の効果を!! ふははははっ、ああ、ああ、今なら私の気分も良い。君達の投降を許そう。何、カコ嬢に迷惑をかけたのは確かなんだ。レイカッツに上手く利用されたところもあるだろう。不問とまでは言わずとも身の安全は保障しよう。次期公爵に相応しい私は寛大だからね!」


 嬉しくてしょうがないとばかりに上機嫌なロベルト様だったけれど、そんな彼をメイテナお義姉様達は複雑そうな表情で見ていた。


「何だ? 何故そんな顔をする? ああ、そう不安になる事は無い。ロストポーションさえ完成したのなら、人魚達との問題も解決したも同然。それにカコ嬢の解毒剤も我等の研究に役立ったことだろうからね、今後も有益な取引を続けたいと思っているよ。私はアイツと違って先を見据えて行動できる男だからね」


「あのさぁ、これは言うべきか迷ってたんだが」


 と、イザックさんがロベルト様に歯切れ悪そうに話しかける。


「さっきの連中の攻撃な、あれアンタを巻き添えにするつもりだったぜ」


「……は?」


 何を言ってるんだお前は、とばかりにポカンとした顔でイザックさんを見るロベルト様。


「分からんかったかもしれんが、弓や魔法ってのはそんな狙い通りに当てられるもんじゃねぇんだよ。よほど腕の良いヤツが狙って撃ったとしても、アンタが少しでも動けば腕や足どころか心臓やら内臓の致命的な場所に当たっていた可能性が高い」


「なっ!? だ、だがロストポーションがあれば……」


「そもそも頭を潰されたらどうなっていた事やら。ロストポーションは欠損した手足を再生させる事が出来るけど、それは元の手足を復元するんじゃなくて新しく生やすものだった筈だよ。なら欠損した頭を新しく生やしたら、その頭には貴方の心や記憶は残っているのかな? そもそも頭を失ったら人は即死だ」


「いくらロストポーションでも死んだ人は治りません。それは高位司祭の治癒の奇跡でも同様です」


 マーツさんの言葉に続く様に、パルフィさんも治癒の奇跡が万能でない事を語る。


「だ、だが副所長はロストポーションがあれば大丈夫だと……」


「ロストポーションの詳細な効果は、それを研究していた貴方が一番よく知っていたのではないのか?」


「……っ!?」


 メイテナお義姉様に痛い所を突かれたロベルト様が声を詰まらせる。

 ああ、ロストポーションが完成したと言われて、浮かれて肝心な事を失念しちゃってたみたいだね。

 ただ、問題はそれだけじゃないんだよなぁ。それを言わないといけないのはちょっと申し訳ないんだけど。


「あのー、それとなんですけど、あれ多分嘘だと思いますよ」


「は?」


 私の言葉に皆の視線が集まる。


「カコ、嘘とは何がだ?」


「ロストポーションが完成したってヤツです」


 私は研究所で見つけた幾つもの薬と研究者達の話を思い出しながら説明する。


「研究所の中で公爵様の毒の治療をする解毒剤を探していたんですけど、あったのはロストポーションの失敗作と毒薬ばかりで完成品はありませんでした」


 そう、ロストポーションが完成していたというのに、あそこには完成品の姿は一つもなかったのだ。


「か、完成したばかりなのだからこれまでの失敗作があるのは当然だろう!? ロストポーションがなかったのもまだ出来たばかりで量産体制が整っていなかったからじゃないのか!?」


 信じられないと反論してくるロベルト様。そう思いたい気持ちは分かるけど、理由はそれだけじゃないんだよ


「それだけじゃありません。研究所からは未だに失敗作の廃液が海に垂れ流されていたんです。本当に完成したのなら失敗作の廃液が今も大量に廃棄され続けるのはおかしいです」


「確かに」


 私の指摘に皆もその通りだと頷く。

 実際この島にやって来た時に廃液が垂れ流されていたのは皆も見ていたからね。


「い、いや、成功したのなら不要な廃液は捨てるのが当然だろう?」


 しかしロベルト様はまだ信じられないみたいで食い下がってくる。


「ロストポーションが完成したのなら、失敗作は廃棄せずに汚染された海を浄化する為の研究に再利用すると思います。 失敗作に使われた材料も安くはないでしょうし、わざわざ海を浄化する研究の為に、新しく失敗作を作る必要はないですから」 


「う……ぐ……」


 とうとう反論できなくなったロベルト様が黙り込む。

 そう、ロストポーションが完成したのなら、次にする事は完成品の量産と海を浄化して人魚達と仲直りする事だと思うんだよね。


 何しろ人魚達は海では敵無しのヤバイ戦力になるらしいし、彼等を敵に回したら船を出す事が出来なくなるんだから、港がある公爵領にしたら死活問題。

 とっくに海を浄化する研究を始めてないとおかしいんだよね。

 なのに私が鑑定したいくつもの薬からは、海を浄化する為の研究成果と思しき薬は見つからなかった。寧ろ……


「それに研究員達は失敗作を別の研究に使っていました。毒薬と混ぜて新しい毒にする研究をしていたんです」


「成る程、それが公爵殿に盛られた毒か」


 事情を察したメイテナお義姉様がそういう事かと納得の声をあげる。

 これらの情報を考えれば、ロストポーションはまだ未完成で、余計な事に労力を割いているのはほぼ間違いないだろうね。


「だ、だが、ならなぜロストポーションが完成したなんて嘘を……?」


 う、それは私にも分かんないんだよね。

 何でロベルト様が大怪我するかもしれない命令を出したんだろう?

 

「寧ろロベルト様を負傷させた方が都合が良いと考えたんじゃないかな?」


「「「「え?」」」」


 マーツさんの呟きに皆の視線が集まる。


「マーツ、それはどういう意味だ?」


「考えても見てよ。ロベルト様が重傷を負ったのなら、治療するのはロストポーションを持つ副所長達の仕事だ。当然ロベルト様の身柄は一時的にとはいえ騎士達から副所長達に引き渡されることになる。護衛が付いて行こうとしても、治療の為に部外者が居たら邪魔だとか理由をつけて引き離す事だって可能だ。騎士達はロストポーションの正しい使用法を知らないだろうしね」


「そして労せずロベルト殿の身柄を確保できると言う事か」


 マーツさんがその通りと頷く。


「それに調合が困難という大義名分があれば、ロストポーションの出来が良くなかった。一命は取り留めたが完全な薬を精製する必要があると言えば、研究を再開する事も出来るしね。侯爵家の家臣達も、公爵が倒れた現状で公爵家の跡継ぎまで重傷となれば、治療の為に予算を出さない訳にはいかない」


「それに俺達が人質を救出して公爵様を救えば、研究を続けていた連中はただじゃすまない。なら坊ちゃんを人質に取ればここから逃げだす事だって出来ると」


 ああそっか。レイカッツ様は公爵様を毒殺しようとした容疑をかけられているから、人質には使えないしね。


「公爵家の分家が御家乗っ取りに動く可能性もあるんじゃないか?」


「いや、今の公爵家に仕えている家臣の大半は本家派閥だろう。ここで分家派閥に主家を乗っ取られれば自分達の居場所がなくなる。全力で阻止するだろうな」


 イザックさんの問いにメイテナお義姉様がそうなるだろうと答える。

 うーん、考えれば考えるほどロベルト様が攻撃された件を擁護できなくなる。


「こうなると副所長の素性も疑わしくなってきましたね」


 ここに来て皆の中でベルセイ副所長への疑惑が湧いてきた。


「ロベルト殿、ベルセイ副所長は一体どのような素性の者なのですか? 元から公爵家で働いていた者なのですか?」


「い、いや……彼は私が個人的に雇った民間の研究者だ」


「外から連れて来た研究者を公爵家が所有する施設の副所長に任命したのか!?」


 まさかの発言に驚きの声をあげるメイテナお義姉様。

 そりゃそうだ。だって個人で研究してる胡散臭いアマチュア学者が、大企業の研究所の重役になるようなもんなんだから。


「彼の実力は確かだ。何しろ彼は未完成ながらロストポーションを作り出したのだからね」


「未完成のロストポーション!?」


 まさかのロストポーションを作れる人が居たの!?

 でも未完成ってのはどういう事だろう?

 

「彼は私にロストポーションの研究者として面会を求めて来た。私も地位のある身ゆえ、本来ならそのような胡散臭い男と面会したりはしない。だが彼は限りなく本物に近い、肉体の欠損を治療できるレベルのロストポーションの試作品を作り上げた、是非見て欲しいと言ってきたんだ」


 それってもう完成品なんじゃないの!?


「そこまで豪語されては私も研究者として見ない訳にはいかない。もし嘘だったら貴族相手に詐欺を働いた犯罪者として捕らえれば良いだけだからね」


 研究者としての本能を抑えきれなかったらしく、ベルセイ副所長に会う事にしたと語るロベルト様。

 なんか怪しい詐欺に騙されそうで怖いなこの人。

 

「そして実験は半ば成功した。彼が連れてきた片腕を失った犯罪奴隷にその薬を飲ませたところ、みるみる間に腕が生えてきたんだ」


「「「「っ……」」」」


 腕が生えて来たと聞いて、イザックさん達鋼の翼の面々の表情が硬くなる。


「流石の私もそんな光景を見せられては信じるしかなかった」


 その時の事を思い出したのか、やや興奮した様子で語るロベルト様。けれどすぐに小さく溜息を吐く。


「ただ未完成と言っただけあって、そのロストポーションもどきは再生した腕が満足に動かないようだった。しかし再生したのは事実で、完全ではないにせよある程度なら腕もちゃんと動く。だから雇い入れたんだ」


「そこまで完成していたのに何故公爵家に接触してきたのだ? 自力で完成させれば名誉も金も思うままでは?」


 だよね。完成間近で手柄を他人に譲る様な真似をする意味がないもん。


「薬の材料の調達が困難な事と研究費を捻出するために借金をしていたが限界になったからだと言っていた。更に調合が非常に困難な為再現が難しく、この先の研究を独力で続ける事が困難だとも。そこで私を介して公爵家に後援者になる事を求めてきたんだ」


「ううむ……」


 成程ねぇ、確かに完成間近のロストポーションなんかあったらそりゃロベルト様も飛びついちゃうよね。

 しかも相手は借金で首が回らなくなっていたとなれば猶更だ。


 ……問題はそれが本当ならだけど。

 ロベルト様が副所長を雇った理由は分かったけど、それでもロベルト様を危険に晒した事は解せない。

 だって普通は大貴族の跡継ぎに大怪我させるなんて危険な事出来るはずがないもん。

 それこそ罰として研究成果と名誉を奪われてもおかしくない。


 皆も同じことを考えたのか、理解はしたけど納得は出来ないとその顔が語っていた。


「その話はその辺にしておくニャ。それよりもこれからどうするかを早く決めるのニャ」


 ニャットに話を打ち切られた事で、私達は話が脱線していた事に気付く。

 危なかった、うっかり話に夢中になってたよ。


「そうだった。レイカッツ殿を救いに向かうか、それとも嵐が来る前にいったん撤退するか」


「ロベルト様を人質にする手は成功するか疑わしくなってきたからねぇ」


「な、なら私を解放するべきだ! 少なくとも私が連れて来た公爵家の騎士達なら私を襲う事はしない筈だ! 君達の身柄は保証するし、人魚達の問題も解決する。レイカッツを自由にする訳にはいかんが、命は保証すると約束しよう」


 と言われても、今ロベルト様を自由にするのは危険すぎるんだよね。

 自由になったロベルト様が心変わりをして私達を疑う可能性は勿論、自由になったロベルト様がベルセイ副所長に襲われる危険もあるんだよね。。

 何しろ宿で私を誘拐しようとしたし、レイカッツ様を毒で殺そうとした。

 挙句ロベルト様自身が殺されそうになったんだから。

 皆もそれが分かっているからロベルト様を開放しようとはしなかった。


 とはいえ、他に手が無いのも事実なんだよねぇ。

 レイカッツ様が捕まっている宿舎の中には敵が待ち構えているだろうし、こっそり侵入できるような隠し通路でも探したいところだけど、寧ろそんなものがあったらベルセイ副所長達が罠を張ってるだろうしねぇ。


「何か向こうの意表を突いてレイカッツ様を脱出させる手段でもあれば……あっ」


 と、そこで私はある方法を思いついた。思いついてしまった。

 そうだ、アレならいけるかもしれない。

 ただ、問題はその方法を使って大丈夫なのかと言う事だ。


「でも、もう時間が無んだよね……」


 そうだ、急がないと嵐がやって来て島から逃げられなくなる。だったら……


「あの、私に考えがあるんですけど……」


 決意を胸に、私は皆に策を思いついたことを告げるのだった。

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