第86話 襲撃作戦

 レイカッツ様を救う為にロベルト様を人質に取る事にした私達は、島の船着き場へと向かった。

 そして船着き場が見える位置に隠れてロベルト様の船が到着するのを待つ。


「波が乱れている。そろそろ来るぞ」


 少し経つと、一緒に隠れていたロアンさんがロベルト様の船が近づいてきた事を告げてくる。

 事実水平線の向こうから、何隻もの船の姿が見えてきた。


「って、船って一隻じゃなかったの!?」


「3隻か。物資の運搬でなければあれ全部に敵が乗ってるって事だな」


 いやいやいや、まさかそんな事は……

 けれど、到着した船から降りてきた騎士や兵士達の数の多さはイザックさんの予想が当たっていた事を証明してしまう。

 

「流石に多いな」


「明らかに私達の襲撃を警戒している布陣だな」


 だよねぇ、これじゃロベルト様を誘拐するなんてとても無理じゃないかな。


「とはいえこの人数を引き連れてゾロゾロ歩くのは現実的じゃない。大半は俺達の捜索と船の護衛に回されるだろ」


 うわぁ、この人数の騎士達に捜索されたら、あっという間に見つかっちゃうよ。

 私達が作戦の変更を余儀なくされているうちに、一番大きな船からロベルト様が出てくる。

 ロベルト様が姿を見せると、先に降りていた騎士や兵士達が膝をついてロベルト様を出迎える。

 うーん、まるで王様みたいだ。

 お義父様が出かける時もこんな風に騎士達がズラリと並んで跪くのかな?


「言っておくが、ウチではあのように敵がいるかもしれない場所で反応が遅れかねない様なマネはしないぞ」


 どうやらしないようです。

 よかった、さすがにお義父様のキャラに合わないもんね。


「狙い目は研究所に向かう途中だろうね。島の道はそこまで広くないから、護衛が十分な立ち回りをすることも考えてある程度間隔を開けて兵を配置しないといけない」


「それに研究所に到着されたら建物の奥に立て籠られてての防衛戦になる。そうなったらもう逃げるしかないからな」


「問題は。護衛の強さが不明ですから」


「この状況で連れて来たんだ。腕の立つ人員を用意してきたんじゃないかな?」


 皆真剣に今ある戦力で出来る作戦を練っている。

 さっきのイザックさんの凄い活躍を見た私としては、イザックさんならロベルト様を捕まえれるんじゃないかと思ってしまうんだけど、それは楽観的な考えみたいだ。


 うーん、こういう時戦力になれない自分が悲しいなぁ。

 ここはニャットにも手伝ってもらった方がいいのかも。

 それを相談しようとニャットの方を見ると、ニャットは首を横に振って前足を交差してバッテンを作る。


「ニャーはカコの護衛ニャ。これだけ人数差がある状況で護衛対象から離れる真似をするわけにはいかんニャ」


 と断られてしまった。

 でもロベルト様を人質にした方が結果的には安全になるんじゃないかと思うんだけどなぁ。


「いや、ニャット殿はそれでいい。敵はロベルト殿の連れてきた兵だけではない。戦いが始まれば研究所に元から居た兵達も動くからな。いざという時に自由に動ける戦力は必要だ」


 とメイテナお義姉様にも止められてしまった。

 はうぅ、完全に役立たずです。というかロストポーションの件もあるから寧ろ自分が騒動の原因の気すらしてきたよ……


 私に出来る事は合成だけだし、今の状況で合成して何か出来る訳でもないしなぁ。

 何か合成で作ったアイテムで役に立つ物とか無いかな?

 って言っても、最近作ったのは薬とか美味しい魚ばっかで、東都から持ってきたのは……


「あっ」


 そこで私は自分が持ってきたある品が使えるかもしれないと思いつく。


「メイテナと人魚の旦那が囮として先に出て、マーツの精霊魔法で敵の護衛を妨害、パルフィが神聖魔法の援護をありったけ俺にかけたら全力で突っ込んであの小僧をとっ捕まえる、と見せかけてマーツの魔法で捕える」


「ずさんな作戦だな。とはいえ悠長に準備をしている暇も無し、余力のあるうちに一点賭けするしかないか」


「これは責任重大だなぁ」


 皆も良い考えが浮かばないみたいだし、提案するだけ提案してみよう……かな。


「あの、これ使えませんか?」


 私は魔法の袋からあるアイテムを取り出して皆に見せる。


「それは……」


 そしてこれを使った作戦を提案した。

 

「という感じで上手くいきませんかね?」


 ど、どうかな……?

 私はドキドキしながら皆の反応を待つ。すると……


「ふむ、行けるかもしれん。いや、寧ろこちらの方がいいな」


「そうだね。イザックの根性任せの特攻よりは信頼できる作戦だよ」


 おお、良い感触っぽい!


「成る程、これなら俺も囮以上に役立てる。任せてほしい」


 私の作戦を聞いた皆がこれならいけると言ってくれた。

 よかった、提案してみて良かった、というかコレを作っておいてよかった。


「では行きますよ」


 作戦の実行前に皆に視線を送ると、皆も静かに頷く。

 皆にはやる事があるから、戦えない私が作戦の要であるマジックアイテムを起動させる必要があるからだ。


「地面よ、沈め!」


 私は手にした底なし沼の魔剣こと深淵泥の剣を地面に突き刺す。

 すると私の視線の先に居たロベルト様達の歩いている地面が突然ぬかるみ始めた。


「うわっ、な、なんだ!?」


 そして泥はロベルト様達の足を飲み込んでどんどん沈み始める。


「あ、脚が沈む!?」


 そう、これが私の提案した作戦だ。


「いかん、敵襲だ!」


 すぐに護衛の騎士達が反応するも、既にイザックさん達は動いていた。

 彼等は私の使った底なし沼の魔剣の範囲外だった護衛の足止めが目的だ。

 パルフィさんがイザックさんとメイテナお義姉様を守るための防御の奇跡を使い、マーツさんが植物の精霊に頼んで兵士達の足を止める。


「今だ!」


 そしてロアンさんが底なし沼となった戦場に文字通り飛び出す。


「人魚が空を飛んたっ!?」


 そう、私の合成した空飛ぶヒレカバーを装備したロアンさんなら、底なし沼の影響を受けることなくロベルト様に近づける。


「くっ、ロベルト様を守れ!」


 ロベルト様の傍にいた護衛達がロアンさんを迎え撃とうとするも、ぬかるみに足を取られた兵士達では空を自在に泳ぐように飛ぶロアンさんととらえる事は出来ない。


「う、うわぁぁぁぁ!?」


 そして瞬く間にロベルト様の身柄を確保すると、その首筋に槍の刃を当てる。


「そこまでだ! 抵抗は止めて貰おうか」


 ロベルト様が人質に取られた事で、護衛達の動きが止まる。

 やった! 底なし沼と空飛ぶヒレカバーの合成コンボ! 上手くいったよ!


 ロベルト様を確保したところで地面を元に戻す。

 ふぃー、この魔剣かなり魔力を消耗するよ。

 でもなんとか作戦が終わるまで魔力が保ってよかったぁ。


「ロベルト殿、大人しく我らに従ってもらおうか」


「あ、貴方はクシャク侯爵家の!?」


 メイテナお義姉様が声をかけると、ロベルト様が驚きの声を上げる。

 いや何でそこで驚くのさ?


 レイカッツ様に逃げられたのはメイテナお義姉様達の活躍があったからなんだよ?

 だったら私達がここに居ても不思議はないと思うはずなんだけど。


「先日は世話になったな」


「何故貴女が……!?」


 にも拘わらず、ロベルト様は驚きの表情を浮かべたままだ。


「そちらが我々を騒動に巻き込んだからだろう? 派手に動き過ぎたな」


「それはどういう……?」


 なんか二人の会話が食い違ってるような……?


「さぁ、坊ちゃんの命が惜しかったら大人しくしな」


 と、そこでイザックさんがロベルト様の頬に剣の腹をピタピタと当てて護衛達を脅迫する。

 見れば足元が自由になった護衛達がこっそり動いてロベルト様を救出しようとしていたみたいだ。

 というかですね。妙に賊っぽい演技がサマになってるんですけど?


「ひ、ひぃっ!? お、お前達抵抗するな!」


「し、しかし……」


 怯えるロベルト様は慌てて護衛達に抵抗を辞めるよう命令を下す。

 護衛対象に命令されては騎士達も抵抗するわけにもいかず、全員が剣を下ろ……


「構わん、やれ!」


「え?」


 けれどその中で武器を下ろさなかった人達がいた。


「ファイアーバレット!」


「ウインドアロー!」


 しかも市の人達はロベルト様が巻き込まれるのも構わずメイテナお義姉様達に攻撃を行う。


「なっ!?」


「火の精霊よ、イザックの剣に炎の加護を!」


「せぇいっ!」


 すぐさまマーツさんがイザックさんの剣に魔法をかけると、剣が炎を纏い放たれた魔法の炎を切り裂く。


「はぁっ!」


 更にロアンさんが槍を振るって風の魔法を切り裂く。

 ってロアンさん、魔法も使ってないのに魔法を切ったぁー!?


「はははっ、カコに強化してもらった槍の切れ味は最高だな!」


 あっ、そういえば以前ロアンさん達の武器を合成で強化したっけ。

 最高品質に強化した魔石とか合成したから、それのお蔭で魔法を切れたのかな?


「お、お前、どういうつもりだ!」


 戦場にロベルト様の上ずった声が響く。

 って、そうだった。今はそれどころじゃない。

 何を考えたのかロベルト様を巻き込んで攻撃してきた連中が居たんだった!


 一体誰がそんな事をしたのかと攻撃が飛んできた方向を見れば、そこには見覚えのある人物達の姿があった。


「ベルセイ副所長」


 そう、ロベルト様を攻撃したのは、ベルセイ副所長だった。

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