第85話 囚われの王子様救出作戦?

 証拠の品と解毒剤を入手した私達は、研究所の外で待機しているニャット達と合流に向かう。


「合流の際はマーツさんが連絡してくれる事になってましたけど、私達からお目当ての物をゲットしたって伝えれないのは難点ですね」


「まぁな。それでも使えねぇよりはよっぽど便利だ」


『皆すぐに合流してくれ。レイカッツ様が捕まった』


 言った傍から連絡来たぁー!? って言うか、


「レイカッツ様が!?」


「こりゃマズいな。急ぐぞ嬢ちゃん。ただし周りに不審に思われないようにな」


「はい!」


 私達は研究者のフリをしながら逸る心を抑えてニャット達の下へと向かった。


「や、無事でよかったよ」


 裏口に出ると、近くの林からマーツさんが出てくる。


「マーツさん、レイカッツ様が捕まったってホントですか!?」


「って事はパルフィもか?」


「いえ、私は無事です」


 更に林から出てきたのはパルフィさんとメイテナお義姉様、それにニャットとロアンさんだった。


「パルフィさん!」


「詳しい事情は林の中で。ここだと誰が出てくるか分からないからね」


 ◆


 林の奥に隠れると、マーツさんが近くの木に触れながら何かを呟く。

 すると不思議な事に周囲の木々が動いて私達の姿を周りから隠すように枝や葉を動かした。


「これで少しはバレにくくなるよ」


 精霊魔法凄いなぁ。


「で、何があった?」


 イザックさんが事情を尋ねると、パルフィさんがその時の事を話し始める。


「私達は所長室を捜索に向かったんです。最初のうちは変装のお蔭で周りにバレずに捜索が出来ていたんですが、運悪く副所長が所長室にやってきまして。以前視察で顔を合わせた事もあってレイカッツ様がバレてしまったんです」


「それでレイカッツの旦那がお前さんを逃して捕まったって事か」


「はい。レイカッツ様は即座に私を人質にするフリをしたんです。私が騙されて案内させられた職員だと思わせる為だったのでしょうね。ですが副所長は私を見捨ててレイカッツ様共々攻撃しようとしたので、私を捨てて逃げ出したんです」


「上手い事注意を自分に集めたって訳か」


「視察の時は私は一護衛でしたからね。それを考慮しての行動でしょう」


 凄いなレイカッツ様、一瞬でそこまで判断してパルフィさんを人質に取る振りをしたんだ。

 そう言えば海軍で指揮を執ってるって言ってたし、実は有能な人なのでは?


「ただその後は袋小路に追い詰められて捕まってしまったと精霊達が教えてくれました」


「じゃあ早くレイカッツ様を助けないと!」


「いや、その前に悪行の証拠と解毒剤を探すことが先決だ。こう言っては何だが、レイカッツ殿を捕えた事で敵も油断しているだろうからな」


 急いでレイカッツ様を助けるべきだと主張した私を止めたのはメイテナお義姉様だった。


「どっちも俺達が見つけてきたぜ」


「何! ホントかカコ!?」


「あ、はい。研究を続けていた証拠も公爵様に使われたと思しき毒、それに解毒剤も手に入れました」


「でかした! 流石は私の義妹だ!」


 メイテナお義姉様がギュウッと私を抱きしめると、私の顔が二つのエアクッションに沈んで……沈むぅ!!

 慌ててバンバンとメイテナお義姉様の手を叩いて抱擁という名の即死罠から回避する私。


「ぜーはーぜーはー」


「ああ、すまない」


 あ、危なかった。あと少しで窒息するところだったよ。

 くっ、私にもこのエアクッションがあればこんなことにはならなかったのに!

 この体を作った女神様、私の胸はいつ大きくなるんですか!?


「しかしそうか。証拠を手に入れたのなら問題は無いな。レイカッツ殿の救出に向かおう」


「おおー!」


 ◆


「レイカッツ殿が連れて行かれたのは向こうにある職員達が暮らす宿舎だね」


 私達はマーツさんに案内されて人目に付かないルートで宿舎へと向かう。

 うーん、この人の精霊魔法ホント便利だな。

 情報収集に隠密活動と何でもできるんじゃないかな?


「そうはいってもパルフィの様に傷を癒すことも出来ないし、精霊達の機嫌次第だからね。万能という訳じゃないよ」


 そうなのかー。魔法を使えない私からしたら十分万能に思えるんだけどな。


「って言うか、魔法ってどうやって使うんですか?」


 そう言えば私、魔法の事よく知らないや。


「魔法の使い方は主に三つだな。まず呪文と術式の込められた杖を使う術式魔法」


 ふむふむ、それは私もよく知ってる魔法使いのイメージだね。


「二つ目が精霊の力を借りる精霊魔法」


 これはマーツさんの使ってる魔法だね。


「最後にパルフィの使う神聖魔法だ」


「三つもあるんですね。精霊魔法はマーツさんを見てれば大体分かりますけど、術式魔法と神聖魔法はどう違うんですか?」


「術式魔法は杖に魔法式という魔法を使う為の術式が込められているんだ。それを起動させるのが呪文だ。昔はいちいち魔法陣を書いて使っていたが、杖が開発されてからは取り回しが良くなったんだ」


 へぇ、なんていうか術式魔法はマジックアイテムに近いのかな?


「神聖魔法は神に祈りを捧げ、認められたものが扱う事を許される奇跡の御業です」


 なんか一気にファンタジー感出てきた。


「えっと、術式魔法は人間が作った道具とか技術で、精霊魔法は精霊に、神聖魔法は神様の力を借りるものって感じですか?」


「おおむねそんなところだ。故に精霊魔法は精霊に気に入られないと使えないし、神聖魔法は信仰心が高くないと使えない。純粋に努力と魔力さえあれば使えるのは術式魔法だな」


 おおー、つまり術式魔法が一番使うのに敷居が低い感じなのかな?


「この件が終わったら魔法の勉強とかしてみたいですねぇ」


「あら、だったらカコちゃんも教会で修業しませんか? 神への信仰心が最も必要とされるものですから、他の魔法に比べて敷居は低いですよ」


 ひ、低いのかなそれ?


「やめとけ、坊主の簡単は厳しい修行って意味だぞ」


 そっと私の耳元で止めるように忠告してくるイザックさん。


「何か言いましたかイザックさん?」


 その言葉が聞こえていたのか、ジトリとした視線をイザックさんに向けるパルフィさん。

 こ、怖ぇーっ!


「あ、いや、魔法を使いたいからって入るのは神様に失礼じゃねぇかなーって言っただけだって」


「ああ、そういう事ですか。ですがご安心を、誰かを助けたいという思いで神へ助力を請う方は少なくありません。その思いが本物ならば、神は力を貸してくださいますよ」


 入信者候補は逃さないとばかりに寄ってくるパルフィさん。

 すいません、胸の圧が凄いです!


「ええと……真剣に熟考してから決めます」


 うん、ここで安易に答えを出すのは危険だ。


「カコちゃんと相性の良い精霊が見つかったら僕が色々教えてあげるよ」


「おお、それが水の精霊だったら我等が教えてやるぞ!」


 と、話題を逸らすようにマーツさんとロアンさんが声をかけてくれた。

 二人ともナイスタイミング!


「その時はよろしくお願いします!」


 ◆


 雑談を交えつつ私達は宿舎へとやって来た。


「結構大きいですね」


 これじゃレイカッツ様を探すのも大変だ。


「まぁ地下だな」


「地下だろうな」


「地下だろうね」


「地下だニャ」


「地下だろうな」


 と思ったら満場一致で地下だろうとの答えが来た。


「後ろめたい事もやってる場所だ。間違いなく都合の悪い奴をぶち込んどく牢屋があるだろ」


「これだけの規模の施設だからな。紛れ込んだ密偵や侵入者を尋問するための場所は必要だろう」


との事でした。成程、確かにアクション映画とかでも牢屋かそれに近い鍵の付いた部屋ってよく出てくるよね。


 それじゃあ地下室の場所を探しに行こう、と思ったところで私の体が林の中に引っ張り込まれる。


「誰か出てくるニャ」


 すいません、できれば引っ張り込む前に言ってほしかったです。超ビックリした。

 宿舎から出てきたのは冷たい雰囲気のする二人の男の人達だった。

 私達が着ているのと同じ作業着を着ているからあの人達も研究員なのかな?


「やれやれ、所長もこんな嵐が近づいてくる時に来なくても良いだろうに」


 二人組のうち背の高い方の男の人が面倒くさそうに肩を竦めると、背の低い男の人がキキッと蝙蝠みたいな笑い声をあげる。


「ビビッてるんだよ。ここにある毒やらなんやらが見つかったらマズいってな」


「そんなのもみ消せばいいだろ。公爵が倒れて自分が公爵代理になったんだから、もう優秀な弟様を警戒する必要もないだろうに」


「結局俺達も信用されてねぇって事さ。自分の目で弟が捕まった事を確認しないと不安なんだろうさ」


「そりゃ気の小さい事で。まっ、俺達も利用させてもらってるから人の事は言えねぇけどな」


「ああ、まだ逃げまわってる賊もいる筈だし、早く見つけて始末しないとな。ったく、面倒なタイミングで来てくれるぜ」


 そんな事を話しながら二人は研究所のある方向へと去って行った。

 というか、ロベルト様もここに来るんだ。

 ロアンさんが警戒したとおりになったね。


 それにしてもあの人達、ロベルト様を雇い主って言う割にはあんまり敬ってる感じしないなぁ。

 研究所で会った研究員もそうだったけど、なんていうか馬鹿にしてる感じ?

 ロベルト様ってもしかして嫌われてる?


「ほう、兄貴の方が来るのか」


 と、そこでイザックさんが楽しそうに声を上げる」


「これは方針を変えた方が良いな」


 次いでメイテナお義姉様。


「えっと、それってどういう意味ですか?」


「今無理にレイカッツ様を救助しても、逃げる時にロベルト様が連れてきた増援と鉢合わせになりかねないからね」


「だからロベルト様を人質に取ってからレイカッツ様を助ける方が楽という事ですね。その方が公爵様に解毒剤を届けるのも楽になりますし」


 と、マーツさんとパルフィさんが続ける。

 って、ロベルト様を人質にとる!?


「ロアン、増援を警戒している仲間と連絡を取れるか?」


「水の精霊に頼めば可能だ」


「なら連絡を頼む。公爵家の船への妨害は中止して、先に島に来るように言ってくれ。既に戦闘中なら苦戦して撤退するフリをするようにと。そして我々がロベルト殿を捕えるべく攻撃を開始したところで海から挟み撃ちにしてほしいと」


「分かった。その方が船を相手にするより楽だしな」


 あれよあれよという間にロベルト様捕獲計画が進んで行く。


「くっくっくっ、このタイミングで来るとは迂闊なお坊ちゃんだぜ」


「ああ、首魁を捕えれば後は烏合の衆だ」


「海を汚した罪を償ってもらわないとね」


「郷の仲間達の分まで痛い目に合ってもらうとしようか」


「その後は教会が責任を持って奉仕活動に参加させますね」


「「「「「ふふふふふっ」」」」」


 あ、あれ? 何で身内のほうが……


「コイツ等のほうが悪人みたいだニャア……」


 ちょっとー! あえて言わないでいたのにー!

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