第84話 追われる?者達
「侵入者だーっ! 侵入者が入りこんだぞー!」
「え!?」
まさか私達の侵入がもうバレた!?
「落ち着け嬢ちゃん。こういう時は周りと同じ反応をしろ」
慌てる私にイザックさんが冷静に声をかけてくる。
「えっ? あ、はい」
すぐに周囲の職員達の様子を見て、同じようなフリをする。
すると私達の正体がバレた訳じゃなく、どこか別の場所で起きた出来事だと気づいた。
「侵入者は西側に逃げたぞー!」
「よし、俺達は何食わぬ顔で東側を調べに行くぞ」
「え? 良いんですか?」
まさかの調査続行発言に私は驚く。
「見ろ、周りの連中は侵入者がこっちに来ないと分かって仕事に戻っただろ? 俺達も何食わぬ顔で仕事をしてますってフリしてればいいんだよ。そんでマーツから連絡が来るギリギリまで調べるんだ。いざとなったら窓をぶち破って逃げるぞ」
「わ、分かりました」
この肝の据わり具合凄いな。流石上級冒険者だよ。
「まぁ囮作戦みたいなもんだ。挙動不審になって慌てて逃げ出したりしなきゃ、意外と見つかってない奴はバレないもんなんだよ」
成程、アニメや映画で一人がバレると全員の正体がバレるのは逆に不自然なんだね。
「冒険者だって同じギルドに所属していても、他のパーティの事はあまり知らないもんだ。名前が売れてきたり、やたらに目立つ奴でもない限りな。特にここは秘密主義みたいだしな」
そっか、さっきの職員も他所の部署の事は知らない方が良いみたいな事を言ってたもんね。
この人達は後ろめたい研究をしてるわけだし、あまり身内同士でも情報を共有させたくないのかな?
ならありがたく利用させてもらおう。
「イザックさん、この辺りにある薬を手当たり次第に回収するので、うまく私の姿を隠してください」
「任せろ」
私達は移動しながら様々な薬や書類を少しだけ魔法の袋に放り込んでいく。
ついでに製薬に使う道具なんかも複数あったら一つずつ頂いてゆく。
「なぁ嬢ちゃん、道具は要らないんじゃねぇの?」
「いえ、いります。追手から逃げれなくなったらこれで研究してるふりをするんです」
「成る程、そんな手もあったか」
私達は施設の東に向かって進んでいく。
その間も薬などの回収は続ける。
「むっ!? 隠れろ!」
突然イザックさんに腕を引かれ、私達は通路に置かれた荷物の陰に隠れる。
「侵入者はまだ捕まらんのか!?」
聞き覚えのある声にこっそり物陰から覗き見ると、そこには見覚えのある男の人の姿があった。
確か副所長のベルセイって人だ。
「申し訳ありません。逃げ足が速く中々」
「レイカッツの目的は公爵を治療する為の解毒剤と研究が続けられていた証拠だ。ならば必ずここを探している筈だ」
「なるほど。では待ち伏せするのですね」
「馬鹿者! ここに目当ての品があると教える様なものではないか! 万が一解毒剤を奪われたらどうするのだ! 見当違いの場所の警護を増やして保管場所を誤認させるのだ。ただし主力はそれとなくこちらに配置しろ」
「はっ!」
「私はあの方に報告してくる。それまでにレイカッツを捕らえろ。殺すなよ。奴には我々の研究を正当化する為の生贄になって貰わねばならんからな」
そう言うとベルセイ副所長は去り、部下の人も指示を出す為に去って行った。
そうなると当然解毒剤のある部屋はがら空きになる訳で……
「漁るか」
「ですね」
私達はベルセイ副所長が解毒剤があると言った部屋に入ると、それっぽい物を
手当たり次第に魔法の袋に詰めて行く。
「いつさっきの奴が仲間を連れて戻って来るか分からん、欲張りすぎるなよ!」
「はい!」
とはいえ目的の物が分からずにあてずっぽうで回収して全部外れだったら目も当てられない。
なのでイザックさんも薬の回収に夢中になっている隙に、私は同じ種類だろう薬を複数見つけたらこっそり合成をして鑑定しながら魔法の袋に詰めてゆく。
あとでニャットに怒られそうだけど、今は非常事態。甘んじて叱られよう。後で。
『スプイラ毒:暗殺者御用達の無味無色の毒。バレにくい分毒性は弱く、長期的に服用して徐々に弱らせる為の薬』
わお、いかにも推理小説とかに出てきそうな薬きたよ。
合成前の薬はなんだろう?
『レネモド毒:味のない毒。黄色い色が独特なので食事に混ぜて飲ませる必要がある。一時的に意識を失わせる効果があるが死には至らない』
『イルボハ毒:透明でツンと癖のある匂いの毒。毒性が強く、匂いの強い食事に混ぜるか刃物に塗って使う』
「こんなのがあるって時点でもう真っ黒だなぁ」
私は他の薬も合成して鑑定を行う。
『イスカスト毒:ロストポーションに使われるイスカ草の毒性を強めた毒薬。毒を受けて短時間で死に至る。解毒薬の使用が遅れるとより濃度の高い解毒剤での再解毒が必要となる』
んん? これはもしかして!?
『高濃度ロストポーションの失敗作:ロストポーションの失敗作の濃度を高めた実質的な毒薬』
『イスカスト草の抽出液:イスカ草を再生させる為に生み出された交雑種の抽出液。高地で栽培されている。毒性が強くイスカ草のようにロストポーションとしては使えない』
「え?」
イスカ草を再生させる為に生み出された交雑種?
なんか凄い情報が出て来たぞ!?
「どうした?」
「い、いえ何でもないです!」
いけないいけない。今は解毒剤探しを優先だよ。これに関してはあとあと。
でも他の薬は一つずつしかないんだよね。
それを合成しちゃったら一つしかない解毒剤が失われるかもしれないし……
「そうだ!」
私はさっきチョロまかした調合機材を取り出すと、一つしかない薬を少量ずつ小皿に流し込んで合成を行う。
これなら元の薬も無くならないよ! さぁ合成&鑑定だ!
『極低濃度のギムキン毒:イスカスト毒の解毒剤の影響で毒素が非常に低くなったギムキン毒』
「おっ?」
これはもしかして!?
私はすぐに合成に使った薬を鑑定する。
『イスカスト毒の解毒剤:イスカスト毒の毒を解毒する。ただし治療が遅れた場合、毒を受けた者は意識不明となる。完全な解毒にはより高濃度のイスカスト毒の解毒薬が必要となる』
「あった!」
見つけたー! 公爵様の症状と言い、間違いなくこれだよ!
「本当か!?」
「はい! 見つけました!」
「よし逃げるぞ!」
「はい!」
解毒剤を手に入れた私達は急いで部屋を出た……んだけど。
「誰だお前達は!?」
なんという事だろう。
解毒剤を守りに来た敵と鉢合わせしてしまったのだ。
「ちっ、侵入者の仲間か! 構わねぇ、やっちま……グハッ!?」
見つかった、と思ったその時だった。突然先頭にいた男が黒い影に包まれたかと思うと、血しぶきを上げて倒れたのである。
「遅ぇよお前等!」
「え?」
違った、黒い影じゃない。
敵の前には剣を振り下ろしたイザックさんの姿があった。
って、あれ!? いつの間に!?
「ゴロック!? テメェよくも!」
「だから遅ぇ! 喋ってる暇があったら攻撃しろ!」
あっというまにイザックさんはやって来た敵を全滅させてしまった。
「うっそぉ……」
「さ、行くぞ嬢ちゃん」
ナニコレ、上級冒険者ってこんなに強かったの?
どうやら私はイザックさんの強さを見誤っていたみたいだった。
うん、そりゃ私みたいな足手まといと二人きりにする訳だね。
ん? でもこの割り振りをしたのはイザックさんの実力を知らない筈のレイカッツ様な訳で……もしかしてレイカッツ様、イザックさんの実力に気付いていたの!?
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