第74話 誕生! お魚鑑定人

 あの後、ニャットがお説教をされている間に私は残った魚の合成を行う事にした。

 これでサーベン・サーモン以外の魚も鑑定出来るようになるぞー!

 そして合成した結果、買った魚も全てが汚染されている訳じゃない事が判明した。

 おお、これならニャットも安心だね。


 そんな訳で汚染されてない魚はニャットの希望通り合成を繰り返して最高品質にしておいた。

 よしよし、これでニャットの機嫌も良くなるでしょ。


 そして残った汚染された魚だけど、これは汚染された品のサンプルとして公爵家に買い取ってもらえないか交渉して貰おう。交渉役の人に。

 利用価値はそのくらいかなぁ。汚染されて食べれないし魔物みたいに素材として使える訳じゃないから品質を上げても意味ないし、なにより合成すると汚染濃度も高くなっちゃうからね。


「いや待てよ?」


 と、そこで私は考えを改める。


「寧ろ汚染がひどい方が公爵家も本気で危機感を持つんじゃないかな?」


 まだ町の人達が致命的な状況になってないのは魚への汚染が弱いからだと思うんだよね。

 この状況だと廃液を流すのを止めたからそのうち元に戻るだろうと放置されかねない。

 それよりは極度に汚染された魚を見せる事でこれはすぐに何とかしないと南都の食料事情がヤバくなるぞと危機感を持ってもらえるだろう。


「だって海辺の町って事は農業よりも海産物が食卓のメインになるだろうしね」


 でも人魚達はそうもいかない。

 彼等は地上に畑を持たないし、陸地に狩りにいけるわけでもない。

 海産物の汚染は深刻な食糧難に直結しかねない。っていうかもうなってる可能性もある。

 いかにおばばが解毒ポーションの調合に成功しても、ご飯を食べるたびに汚染されていたら最悪変な耐性が付いて解毒ポーションが効かなくなるかもしれないんだから。


「と言う訳で汚染された魚を合成!」


 私は汚染された魚を合成して、最高濃度の汚染をされた魚を作り出す。


『最高品質の汚染されたサーベン・サーモン:ロストポーションの高濃度廃液に汚染された魚。本来なら美味な魚だが、食べると死ぬ』


「oh……やっべぇのが出来てしまいました」


 まさか最高濃度にすると食事=死の毒入り魚になってしまうとは……

 って言うかこれだけ汚染された時点で魚も死ぬんじゃない?


「とりあえず素手で触るのは止めた方が良さそうだね。布に包んで魔法の鞄に突っ込んでおこう」


 念のため皮手袋をはめてから私は合成した汚染魚を布に包んでしまい込んだ。


「ふぅー、まさかあんなやっばいのが出来るとは思わなかったよ」


 とりあえず交渉材料は出来たし、残りの汚染された魚は廃棄で良いかな。勿体ないけど。


「あっ、待てよ。せっかくだし合成の実験に使ってみよう」


 汚染された魚達を処分しようとした私だったけど、ある利用法に思いつく。


「薬草も別種同士を合成したら全く違った素材になったんだから、魚も合成したら見たことない魚になるかも」


 思いついたら試してみたくなるのがゲーマーのサガというもの。


「どうせ廃棄する魚だから良いよね。有効利用有効利用」


 よーしそれじゃあ合成タイムだよー!


「サーベン・サーモンとスリックタラを合成! そして鑑定!」


『汚染されたバレットイワシ:ロストポーションの廃液に汚染された魚。群れで石礫のように固い頭突きで突撃してくるイワシ。煮込みにすると美味だが、食べると具合を悪くする』


「魔物じゃないのに危険すぎない?」


 この世界の海怖いなぁ。


「よ、よし、次ぎ行こう! 今度はバレットイワシとスリックタラを合成だよ!」


『汚染されたタイガーアンコウ: ロストポーションの廃液に汚染された深海魚。口を大きく開いて海底の景色に同化し、獲物が真上に来ると鉄をも噛み砕く無数の牙が生えた口を凄まじい速度で閉じて獲物を噛み切る。魔物であってもこの口から逃れるのは難しい。鍋料理にすると美味だが、食べると具合を悪くする』


「だから危険すぎ……」


 もしかしてこの世界の普通の動物も魔物並みに危険なのかな? 地球の海にもサメとかシャチとかいるし。

 それともたんに今合成した魚がたまたまヤバ過ぎる奴だっただけ?


 その後も私は魚を合成して色々な魚を産み出していく。


「うーん、まさか合成した瞬間元の大きさの数倍の巨大魚になるとは予想外だったよ」


 合成の途中で予想外に大きな魚が合成されてしまい、その音に驚いたティーア達が部屋に飛び込んで来た事で合成大会は中止となってしまった。

 ギリギリで魔法の鞄に収納するのが間に合って良かったぁー。

 流石にアレを問い詰められたらごまかしようが無かったわ。

 うーん、ワンチャン人魚から貰ったって言えば誤魔化せたかな? いや止めておこう。嘘が増えると後で大変なことになるかもしれない。


 ともあれ、一通りの組み合わせが出来たので、私はそれをこっそりメモしておいたのだった。

 うん、今度汚染されてない魚でこの組み合わせを試して食べてみよう。

 きっとニャットも喜ぶだろうね!



「は~、美味だニャァ~」


 私が作った魚料理をニャットが至福の笑みで頬張る。

 巨大な魚を合成してしまった事でティーアのお説教が途中で中断されたのは良かったけど、その間に割と良い時間になってしまったので、昼食を食べてから町へ出る事にしたんだ。

 その際に合成した最高品質の魚をお昼ご飯として食べる事にしたんだよね。


 ティーアはこれも汚染されているんじゃないかと心配していたんだけど、私が調べた事を伝え、それの匂いを嗅いだニャットが問題なしと保証した事でティーアも納得してくれた。

 果たして私の鑑定とニャットの鼻のどちらを信用したのかは分からないけれど、私が食べる分の料理をティーアが毒見するという条件で料理を食べる事を受け入れて貰った。

 普通毒見するのは作った方だと思うんだけどなぁ。

 まぁ何かあっても解毒ポーションあるから心配要らないんだけどね。

 そしてこのように料理を食べたニャットが余りの美味しさに恍惚状態となっていた。


「これほどの魚を食べたのは初めてだニャア~」


「はい、私も驚きです。それにカコお嬢様の調理法も素晴らしかったです。あれほど洗練された技法を見たのは私初めてです」


「そうなのニャ! カコの料理は天下一品なのニャ!」


 二人に褒められるのは悪い気しないけど、それは地球で学んだものだからそんな凄いものじゃないんだよね。 正直照れる。


「前にも言った気がするのニャけど、先人の知識を使う事は何も恥ずかしい事じゃないのニャ」


「そうですよ、誰しも先人の技術を受け継ぎ今を生きる為に利用しているのです。技量の差こそあれ、それはカコお嬢様だけではありませんよ。カコお嬢様は他の者達が知らぬ高度な技術を受け継いだと言うだけの事。恥じる事などありません」


「う、うん……ありがと」


 とはいっても手放しで褒められるとやっぱり恥ずかしいよ。

 その後も二人は美味しい美味しいと言って私の料理を完食し、ニャットに至ってはお代わりまで要求してきたのだった。


 ◆


 その後も私達は町へ出ては東都に無いものを購入し、合成と鑑定を繰り返して合成チャートと鑑定リストを埋める事を繰り返しながら商品になる品を探していた。

 その結果、東部にも南部にも無い珍しい素材に合成できる中間素材が見つかり、それを作る為、素材を輸入品リストに入れた事でティーアに何でこんなものをと首を傾げられたりもしたんだよね。


 そんな感じに良い商品が見つけられたんだけど、それとは逆に汚染された魚が増えている事も私達は気づいていた。

 何度も汚染された魚を見比べた事で、私が鑑定をしなくてもティーア達が気付くようになったのだから本当によくない状況だ。


 そんな風に危機感を抱きながら宿に戻った私達を、意外な人が出迎えた。


「おお、待っていたぞカコ!」


 その人は立派な金属鎧を着た女騎士、いや元女騎士だった。


「え? メイテナお義姉様!?」


 なんとそこには東都で分かれた筈のメイテナお義姉様の姿があったのだ。


「よっ、久しぶり、でもないかな」


 それにイザックさん達まで!?


「公爵家との交渉の為にやって来たぞ。大変だったみたいだなカコ」


「交渉って、まさか!?」


 そう、公爵家との交渉人とは、メイテナお義姉様達鋼の翼の面々だったのであった。

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