第75話 再会、メイテナお義姉様と愉快な仲間達
なんと交渉役としてやってきたのは私の義理の姉、メイテナお義姉様とその仲間、鋼の翼のミナさん達だった。
「久しぶりだなカコ!」
そう言うや否や、メイテナお義姉様が私をガシッと抱きしめる。鎧がちょっと痛い。
「メイテナお義姉様!? ってまだ分かれて半月も経ってないじゃないですか!?」
「そうだったか? いやお前に会えない日々は時間を長く感じてしまうみたいだ」
「いやいや、そんな馬鹿な」
たった半月弱でそんなに寂しくなる訳ないじゃないですか。
「分かります。私もカコお嬢様を見ていない時間は長く感じてしまいますから。出来れば四六時中密着していたいです愛でていたいです。」
何言っちゃってんのティーアさん!? 貴方に至っては毎日顔を合わせてますよね!?
「うむ、そうだろうそうだろう」
なのにメイテナお義姉様は分かる、とばかりに頷いている。
「いやそんな事よりお前、さっさと仕事の話しようぜ」
「イザックさん!!」
さすがイザックさんだよ! いざと言う時は頼りになるね『イザ』ックさんだけに!
「なんか今物凄く不名誉な事を言われた気がする」
「誰も何も言ってないぞ?」
「そ、そうですよ!」
あっぶねー、流石上級冒険者。勘が鋭いわ。
「それにしても今回は大変な目に遭ったな。ティーアの手紙を読んだ時は肝が冷えたぞ」
「あはは、ご心配をおかけしました」
まぁ実際死にかけたし。なんなら女神様にも再会したし。
「これはお前の護衛をもっと増やさないといけないな。屋敷に戻ったら父上に相談せねば」
「いやいや、今でも十分ですから」
勘弁してください。これ以上人が増えたら合成大会出来なくなりますって。
「安心しろ! それまでは私達がお前の護衛だ! もう怖い思いはさせないぞ!」
「あ、ありがとうございます……」
ガッシリと両手を掴まれた私には、ただただ頷く事しか出来ないのだった。
◆
メイテナお義姉様が落ち着いたところを見計らって私達はこれまで起きた事を説明する。
ティーアが送った手紙の後に起きた出来事、それから手紙では伝えきれなかった出来事を話し合う。
「ふむ、では汚染された魚の件も議題にあげれば良い訳だな。それにしても海を領地としておきながら海の恵みを無下にするとは愚かな話だ」
まったく信じられんとメイテナお義姉様は溜息を吐く。
「道理で町のいたるところに具合の悪そうな人がいた訳です」
そしてここに来るまでに汚染魚の影響を受けたであろう人達を見たと、神官のパルフィさんが教えてくれた。
神官として具合の悪そうな人達が多かった事を気にしていたらしい。
「しかし他種族を敵に回すとは正気の沙汰とは思えないね。仮にも国が運営していた施設で働いていた者でしょう」
マーツさんは人魚達を敵に回した事について呆れているみたいだ。
マーツさん自身エルフだから、自分達も同じような目に遭ったらたまらないだろうしね。
「そりゃアレだ。自分達の研究に意固地になってんだろうさ」
それに答えたのはイザックさんだった。
「意固地にかい?」
「ああ、国が直々に命じた研究だからな。連中自分達はそんな大事な仕事を任されたエリートだって誇りがあったんだろうさ。それが成功する前にやっぱ辞めなって梯子外されたんだ、プライドはボコボコだろうぜ」
あー、うん。確かに国家公務員みたいな立場だったんだもんね。エリート意識あっただろうなぁ。
「でもそれなら気長に研究を続ければ良かったんじゃない? その子は将来公爵家を継ぐ予定だったんだろう? 自分が公爵家の長になってから大々的に研究を再開すればよかったじゃないか。もっと安全を気にしていれば時間はかかっただろうけど人魚達と諍いを起こす事もなかったんじゃないの? それこそ自分が生きてる間に完成しなくても子孫に任せれば良いのに」
「そりゃお前さんがエルフだからそう言えるんだよ。俺達人族はエルフと比べると寿命が短いからな。父親の跡を継ぐ頃にはやっこさんも良い年だ。時間がねえ。何より、そういうプライドの高い連中は自分の手柄にして名声を欲しがるんだよ」
ああ成る程、マーツさんは私達よりも寿命が長いから、勘違いしちゃったんだね。
きっと時間制限のあるテストで、十分に答え合わせをする時間が残ったにも関わらず何故、答え合わせをせずに答案を提出してしまったんだろうって感覚なんじゃないかな?
でも実際には私達とマーツさんが回答に使える時間は全然違う訳で。その認識が齟齬になっていたんだろう。
「だとしても愚かな話だ。公爵家を継げば名声などいくらでも得られるだろうに。公爵様は高位貴族として優先すべき事柄をちゃんと教えなかったのか?」
「それでも青さが抜けきらなかったって事だろ」
とイザックさんはドライに纏める。
「……でもさ、それならこちらにも付け入る隙があるって事じゃない? ウチのカコちゃんを危ない目に遭わせたんだし、相応の対価を払って貰わないとね」
「え!? マーツさん!?」
これで話は一段落した、と思ったら突然マーツさんが凄い事を言い出した。なんか笑顔が怖い。
「そうですね。カコちゃんはメイテナの妹なんですから、私達にとっても可愛い妹のようなものですから」
「パルフィさんまで!?」
え? 何? なんかパルフィさんまで怖い顔に、いや表情はいつもと一緒なんだけどなんか背筋がゾゾゾッってなるんですけど!?
「それにメイテナの弟子なら俺達にとっても弟子だからよ。しっかり借りは返さねぇとな」
「ああ、そうだな」
「イザックさんにメイテナお義姉様達まで!?」
「「「「ふふふふ……」」」」
皆一体どうしちゃったの!?
◆
メイテナお義姉様達は公爵領にやって来たばかりと言う事もあって、今日は体を休める事になり、明日侯爵様と会見を行う事になった。
うーん、相変わらず話が早いなぁ公爵家。
侯爵家で貴族のマナーを習った時は、もっとお互いのスケジュールを合わせてゆったり余裕をもって会いに行くって聞いたのに。
やっぱ公爵家が軍人でもあるからってのが関係してるんだろうなぁ。
そして翌朝、朝食を終えてから会見用のオシャレ服に着替えると、メイテナお義姉様の部屋に向かう。
「メイテナお嬢様、カコお嬢様が参りました」
「うむ、入れ」
ティーアがドアを開けてくれたので、私とニャットは遠慮なく中に入る。
「来たかカコ」
するとそこにはキラキラのお姫様の姿があった。
「……え? どちら様ですか?」
あ、あれ? メイテナお義姉様どこ!? 声はすれども姿は見えず!?
「何を言っている。私だ」
ワタシさん? ええと、妙に聞き覚えのある声なんですけど誰だっけ?
正直こんな超! お姫様! な感じの美女と出会うのは初めてなんですけど?
「カコお嬢様、メイテナお嬢様ですよ」
「……えっ!?」
メイテナお義姉様? どこに?
私が周囲をキョロキョロすると、ティーアが目の前にいらっしゃいますと苦笑する。
えっと、目の前にいるのはキラキラのお姫様で……
このひとがメイテナおねえさま? この人が、メイテナ、お義姉様?
「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ⁉ メ、メイテナお義姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
何それぇぇぇぇぇぇ!? 別人じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?
「そこまで驚く奴があるか くっ、だからこんな格好はしたくなかったんだ!」
しかし聞こえて来た声は確かにメイテナお義姉様。
え? マジで? どっか別の所から声だけアテレコしてるとかじゃなくて?
「そうなのですカコお嬢様」
そこに現れたはティーアとは別のメイドさん達。
えっと、確かこの人達も侯爵家のメイドさんだったよね。って言うか来てたんだ。
「メイテナ様は着飾るとこれほどまでにお美しくなられるというのに、いつもいつも騎士服ばかり着るのですよ! まぁ、それはそれで麗しいのですが」
彼女達はメイテナお姉様が会見に騎士姿で出向かない様にとお義父様とお義母様が同行させたメイド達だとティーアがこっそり耳打ちしてくれる。
「はわー……」
「まぁそうだよな。驚くよなぁ。くくくっ」
そんな私達を見て、イザックさんが愉快そうに笑い声をあげる。
「何を笑っている!」
「いやいや、何でもねぇよ」
メイテナお義姉様はイザックさんに殴りかかるけれど、ドレス姿は動きづらいのか、動きに切れがなくあっさり避けられてしまう。
「そうだよね。イザックったら初めてメイテナのドレス姿を見た時には顔を真っ赤にして軽口の一つも出せないくらいポーッっとしてたからね」
けれどそこにマーツさんの口撃がイザックさんを襲う。
「てめぇマーツ! 何言ってやがる!」
まさかの味方からの不意打ちにイザックさんが声を上げる。
「今だって軽口の切れが悪いですよね。いつもならメイテナさんが怒り狂って剣を抜くくらいのキレを見せるのに」
さらにパルフィさんまで加わったから攻撃力二倍だ。
「パルフィまで何言ってやがるんだ!?」
流石に分が悪いのか、イザックさんの耳が赤い。
「……ん、んん。まぁなんだ。面倒だがこれも貴族としての務めだかな」
そしてメイテナお義姉様、顔が真っ赤ですよー。
でもそれを指摘しないのが武士の情けなのだ。
いやー、ラブラブだなぁ。
「で、では行くとするか」
「はい!」
気を取り直した私達は公爵家へと向かう。
「泣いて謝るまで毟り取るぞ!!」
「「「おう!!」」」
「おぅって、ええっ!?」
ちょっ!? いきなり何言ってんの!?
逃げてー! 公爵様超逃げてーっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます