第57話 南都の特産品

「じゃあ次は商品の調査だー!」


 港で果物の取引を終えた私は、そのまま市場を散策する事にした。

 生ものを売り切った事で魔法の袋のスペースにだいぶ余裕が出来たからである。


 残る商品は東部原産の薬草類とポーションが少々、それにドライフルーツと虎の子のマジックアイテムだけど、これらはある程度長持ちするので今すぐに売る必要はない。

 もしかしたらここで仲良くなった商人が少しくらい高く買ってくれるかもしれないからね。

 それとマジックアイテムについては果物が予想外に高く売れた事と、個数が少ないことから奥の手として取っておくことにした。

 何か貴重品との取引に使えるかもしれないからね。


「基本は海産物と外国の商品が売り物なんだね」


「あとは南部の特産品ですね。こちらでしか獲れない果物があるそうですよ」


 うん、この辺りは温かい、というよりちょっと暑めだから南国特有の果物に似た果物が露店に並べられていた。

 パイナップルっぽい果物やドラゴンフルーツみたいな果物、バナナそっくりの物もあればパッションフルーツやマンゴーの様な果物と、東都では見なかった南国風味に溢れた果物達だ。

 多分味も似た感じなんだろうなぁ。寧ろこれで違ったら詐欺である。


「でも生ものは後回しだね。腐っちゃうし」


「そうですね。ですが宿で食べる分くらいなら良いのでは?」


 そっか、確かにおやつとして買っておくのはありかもだね。

 それに合成スキルの材料としても買っておきたいところだ。

 じゃあさっそく買って行こう!


「すみませーん、ここにある果物全種類5個ずつくださーい!」


 私はさっそく近くにある露店に向かうと、東部で見た事の無い果物を注文してゆく。


「へい毎度!! 全部で金貨3枚と銀貨25枚だけど嬢ちゃんに免じて金貨3枚で良いぜ!」


「ありがとおじさん!」


 おおう、意外とお安い。

 ああそうか、東都の果物と違ってこの辺りで採れる果物だもんね。安くて当然だ。

 でも種類が色々あるから結構良いお値段になった。


 今回は侯爵家のお嬢様ではなくただのカコ=マヤマなので、自分でお金を支払って魔法の袋に荷物を入れる。

 背後から手伝いたそうなティーアの気配を感じるけど今日の私は一人前の商人なので手伝いはいらないのだよ!

 ……私を見る露店のおじさんの眼差しが生暖かいのは何故だろう?


「嬢ちゃん、親父さんのお使いかい?」


 おぅふ、そう来たか。

 やはりこっちでも私は子ども扱いかよ!


「親のお使いじゃないです。私が商人なんです!」


「え!? マジかい? 嬢ちゃんが?」


 何ですかねぇ、その信じられねぇって顔は。


「はー、そりゃ大変だな。ほら、コイツはサービスだ。持ってきな」


 そう言っておじさんは売り物の果物を一つサービスしてくれた。


「ありがとうおじさん!」


 ラッキー! 儲けた! 良いおじさんだ! 子ども扱いした事は許す!

 さーて次は何を買おうかな。


 私達は市場通りを宿とは反対方向に歩きながら、他にも見た事のない果物を買っていく。

 本当は野菜も買いたいんだけど、暫くはこの辺りの食材の味を知るために食い歩きをする予定なので、今日は買わない。

 一通り南部の食材の調理法や味付けを確認したら食材を買い込むつもりだ。


「ポーションは東都とあんまり変わらなかったね」


 果物の次は薬屋でポーションや薬草をチェックしてみたんだけど、薬類は殆ど東都のものと変わらなかった。


「薬の類は基本的に作り方が同じですからね。自生している薬草の違いで調合レシピが違うくらいで効果はそこまで変わりませんし」


 ティーアの言う通りで、唯一違うのは酔い止めがあったことくらいかな。

 ただし二日酔いの薬じゃなくて船酔いの薬だけど。

 あとは南部特有の薬草があったのでそれらを纏めて購入しておいた。


 ただ薬に使える毒草の類はなかったんだよね。

 これについては毒草は危険なので、錬金術師ギルドか薬師ギルドに所属している錬金術師と薬師しか売って貰えないらしい。


 まぁ毒草をそのまま毒として使う悪人も居るだろうし、当然と言えば当然だ。

 ギルドに所属していない者が毒草を扱いたいなら自分で採取するしかないとの事だった。


「あとは武具かなぁ」


 マジックアイテムを売るならどんな武具が売れ筋かも気になるし、ちょっと寄ってみよう。

 私達は近場にあった武具のお店へと入ってゆく。


「らっしゃい」


 武具の店に入ると、東部の町や東都の武具やとはまた違った光景が広がっていた。

 まず店内にいたのは全身が日に焼けた半袖のおじさん達ばかりだったからだ。

 鎧などを着ている人は少なく、居ても革鎧のような軽装の装備ばかりだった。


 彼等の腕は筋肉がガッチリ見えて、マッスルと言うよりは日々の生活で鍛えられた腕の太さって感じだ。

 つまり漁師さんって奴だね。

 そして店内は以外にも槍で埋め尽くされていた。

 

「うわぁ、槍ばっかり」


「お嬢様、あれは槍ではなく銛ですね」


 ティーアがあれは槍じゃないと訂正してくる。


「槍とは違うの?」


「はい。銛は水中の魚などを貫いて獲る為の道具です。港町では漁師の狩猟道具であると共に、海の魔物と戦う為の槍の役割も果たします」


 成程、銛は漁の道具であると共に身を守る為の武器でもあるんだ。

 あっ、ゲームで半漁人や水系のキャラが持ってる三つ又の槍がある。確かトライデントって言うんだよね。


 他の武器はないのかなと思って見回すと、ちゃんと剣や弓のコーナーもあった。

 でも銛に比べると数が少ないかな。 


「剣はあんまりないんだね」


「船の上からだと魔物は下から攻めてくるから攻撃方法は下への突きになるのニャ。だから上から突くために槍や銛が有利なのニャ。剣だと下にいる敵に刃を当てる為に姿勢が悪くなって力が入らニャいからニャ」


 あー、成る程。同じ突くなら突き専用の武器の方が良いし、間合いが長い方が良いもんね。

 私も森で襲われたから間合いの重要性はなんとなく理解できる。


「一応甲板上に上がられた時の為に剣も売ってるみたいだニャ」


「南都の件は東部で売ってる剣とは違う形なんだね」


 東部で売ってる剣は真っすぐな刃の剣だけど、このお店の剣は刀以上に大きく弧を描いた剣だった。


「船の上で戦う事を考慮してこうなったのではないでしょうか?」


 成程、この銛と同じような理由でこの形になったって事だね。

 そのあたり武器職人のシェイラさんだったら詳しいかも。


「あれ? この剣、何か……」


 ふと私は飾ってある剣に違和感を感じる。

 なんというか刀身の質感がおかしいのだ。


「何これ? 鉄の剣にしては妙にザラザラしてる?」


 なんだろう、包丁とかに比べるとすごくザラついてる。それに色も鉄っぽくない。

 これもこの土地で使いやすいように何らかの加工がされているのかな?


「そりゃあ魔物素材の武器だよ」


「ふぇ?」


 突然見知らぬ男の人の声が聞こえてきて私はビックリする。


「おっと驚かせちまったかな。悪い悪い」


 そう言って近づいてきたのは近くで銛を見繕っていたおじさんだった。

 彼が近づいてくると、ティーアが私の前に出ておじさんを警戒する。


「待った待った、別に変な気はねぇよ。毛色の違う客がいるから気になっただけだよ」


「毛色?」


「ああそうさ。この店に来るのは俺達みたいな漁師か船の護衛、後は冒険者が武器の修理か冷やかしで来るくらいだ。お嬢ちゃん達みたいな客は珍しいんだよ」


 言われてみれば私は冒険者じゃなくて商人だし、ティーアもメイドだ。

 ニャットは冒険者だけどネッコ族は自分の爪が武器だからこういう店にはあんまり来ないんだろう。

 成程言われてみればこのお店には珍しい客層かもしれない。


「私は商人なんです。だから他の土地で売れそうなものが無いか見に来たんです」


「嬢ちゃんが商人!?」


 と、目の前のおじさんが驚きで目を丸くする。いや良く見ると聞き耳を立てていた他のおじさん達も目を丸くしている。

 うん、この目はさっきも市場で見たぞー。

 ツッコミたい所はあったが、私は話を戻すことにした。

 聞きたい事が出来たからだ。


「魔物素材の武器ってちょっと珍しいですよね。東部の町だと武器は鉄製ばかりだったのに」


 そうなのだ、よくよく見るとこの店の武具に使われている刃は鉄ではなく魔物素材ばかりだったのである。

 一応鉄製の武具もあるけど、それらはあくまで一部だけだ。


「あー、それはこの町が海沿いの町で港町だからだな」


「海沿いの町で港町だと魔物素材の武器になるんですか?」


 はて、どういう事だろう?


「そうさ。この辺は海の傍だから鉄の武具は錆びやすいんだよ。そうなると大して使ってなくても頻繁に手入れが必要になっちまう。海の魔物は海水塗れだし、万が一海に落としちまったら分解してしっかり塩水を洗い流さないとならねぇ。手間がかかり過ぎるんだよ。だが魔物素材なら鉄の武器と違って錆ねぇから手入れが楽って訳だ」


 ああそっか、確かに鉄製品に潮風は良くないもんね。

 地球でも海沿いの町で家の外に置いてある鉄製品は内陸の町よりも痛みやすいって聞いたことがある。

 なので中古の車を買う時とか、元のオーナーが海沿いの町で使っていたら結構怖いんだと親戚のお兄さんが言ってたっけ。さてはアレ、ダメな車に引っかかったな。


 でもそうかー。鉄製品の武具はこの町だとあんまり需要無いのかー!

 って事は持ってきたマジックアイテムも東部の町に比べたら価値が無いかも!?


「じ、じゃあ鉄製の武具はこっちじゃあんまり売れないんですか?」


「いや、俺達漁師や冒険者は魔物素材の武具の方が良いが、騎士団は金属製の武具を使うな」


 ショボーンと落ち込みながら私が訪ねると、意外にもおじさんはそうでもないと言ってきた。


「魔物素材は錆びづらい代わりに素材によって手入れの仕方が違うのが面倒なんだが、鉄製の武具は手入れが一律って利点があるんだ。職人の腕によって手入れの仕上がりが大きく左右されるのが魔物素材。職人の腕に差があってもある程度手入れは安定して行えるのが金属の武具って訳だ」


 ほうほう、一長一短って訳だね。


「騎士が戦うのは海の魔物だけじゃない。陸の魔物や盗賊団、それに戦争で人間同士で戦う事もある。場合に寄っちゃあ他の領地の騎士と合同で作戦に当たる事もあるからな。そんな訳で内陸の職人に仕事を頼むことも少なくないから鉄製品の方が良いのさ」


 そうか、確かに騎士団は領内の町や皆を守る為にいろんな敵と戦わないといけないもんね。

 何十人何百人もの騎士の装備の手入れが一定以上の力量を持っている職人にしか出来ないんじゃ、職人の手が追いつかなくて常に万全の状態では戦えない。

 だから手入れが頻繁に必要でも誰でも安定して手入れが出来る鉄製品の方が良いんだ。


「だから鉄製品を売るつもりなら騎士団か騎士個人に売るべきだろうな」


「成る程、ありがとうございます!」


 うん、それじゃあ持ってきたマジックアイテムは仕舞っておこう!

 今回は貴族と関わる気ないからね!

 

 おじさんにお礼を言うと、私は魔物素材の剣と槍を何本か購入する事にした。

 意外にも魔物素材の武具はリーズナブルなお値段で、お店の人の話だと本体を安めにする代わりに手入れの代金で儲ける方針なんだとか。

 

 職人としても自分の店で作った武具が一番直すのが簡単で他人が作った武具は使う素材や作り方のクセが違うから他所の工房の武具を直す時は割高になるのだそうな。


 このあたり南部の海沿いの町の職人達の暗黙の了解で、お客には自分のお店に武具の修理を頼みに来るように協力しあっているとの事だった。

 なんかプリンターのインク商売みたいだね。


「全部で金貨24枚と銀貨37枚だが金貨24枚で構わねぇよ」


「ありがとうおじさん!」


 あとこの町の商人達の特徴なのか、まとめ買いすると端数は割り引いてくれるみたいだ。

 大雑把ともいえる。


「ところで武具に使える魔物素材ってどこで買えるんですか?」


 せっかくなので合成用に使えそうな海の魔物素材の仕入れ先についても聞いておこう。


「魔物素材か? あー、漁師が漁で狩ってきたのを買い取ってるから素材を売る店ってのはないな。欲しいなら直接漁師に交渉してくれ」


「分かりました。ありがとうございます」


 って事は港に行って漁師さんと交渉する必要があるかな。


「カコお嬢様、そろそろ宿に戻った方が宜しいかと」


 さっそく港に行こうと思ったんだけど、そこでティーアが宿に戻ろうと提案してきた。

 その言葉に顔を上げれば陽はだいぶ傾いており、空がうっすらとオレンジ色に染まりかけている。


「あー、さすがにこの時間だと漁師さん達もお仕事がが終わってるかぁ」


「そうだニャ。漁師から魚を買いたいなら朝一で出かけた方がいいのニャ」


 いや欲しいのは魚じゃなくて魔物素材だからね。

 でもまぁニャットの言う事ももっともか。

 テレビでも漁師は朝早くに出て行って、市場も朝からやってたしね。


「じゃあ漁師さんと交渉するのは明日にして、今日は帰ろうか!」


「はい、そうしましょう」


 ふぅ、初日にしては結構歩き回ったかな。

 帰ったらお風呂に入ってゆっくり休みたいよ。

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