第56話 潮風の町
「カコお嬢様、海が見えてきましたよ」
「ふえ?」
長旅でウトウトしていた私は、ティーアの声に反応して窓の外を見る。
するとそこには一面の青い海原が広がっていた。
「おおー!」
青い! 良かった! 異世界の海だから一面真っ赤とか紫とかじゃなくて!
それにしても広い! よく考えると私飛行機に乗って海を見たのは初めてじゃないだろうか?
家族と車に乗って海水浴に行ったことはあるんだけどね。
ふと陸地からかなり離れた沖の方を見ると、大きな二本のツノが生えたクジラのような生き物や、巨大なデメキンみたいな魚の姿が見える。
いや待て、空の上かつ水平線近くに見えるって事は、アレかなりデカいのでは?
多分デカすぎて陸地には近づけないとは思うけど、もし海のど真ん中であんなのに襲われたら余裕で漏らす自信があるぞ。
「美味そうニャのが泳いでるニャー」
「え!?」
アレを美味そうで済ます!?
私がネッコ族の恐るべき食欲に驚愕していると、鳥馬車がグラリと揺れる。
「うわっとっと」
思わずバランスを崩した私だったが、柔らかいクッションがそれを受け止めた。
「大丈夫ですかカコお嬢様」
違った、クッションじゃなくてティーアだった。
何とクッションを勘違いしたのかは私の名誉の為に言わないでおく。察しろ。
「皆様、大変長らくの旅お疲れ様でした。本鳥馬車は間もなく南都に到着致します。お降りの際はお忘れ物なきようお願いいたします」
と、私が内心の葛藤と戦っていたら、御者のカムレさんがどこかで聞いたアナウンスみたいなことを喋っていた。
◆
「はー、地面だぁ~」
鳥馬車を降りた私は南都の地面に着地する。
船のようにグラグラ揺れる訳じゃなかったけど、やっぱり地面の上が良いね!
あと最初は良かったけど、ずっと鳥馬車の中だったから退屈だったのもあったしね。
途中かなり肝の冷える経験をしたけどさ。
「ではまずは宿を取りましょう。馬車を借りて行きますか? それとも徒歩で行きますか?」
「徒歩で!」
うん、やっぱ初めて来た町はゆっくり見て歩きたいからね!
それに馬車で宿に向かったら絶対目立っちゃうよ。
「かしこまりました」
そう言ってティーアは私の手を握る。
「……えっと、ティーア? 何で手を握るの?」
「南都は港町ですので東都よりも人が多いのです。ですから徒歩で行くのならはぐれないように、ですよ」
いや私は子供かい。
「では参りましょう」
だが私が文句を言うよりも前にティーアが私の手を引っ張って歩き出す。
ぬぉぉ、意外と力が強い!
仕方なくティーアに従って付いていくと、彼女は淀みなく歩を進める。
まるで宿の場所を知っているかのように。
「ティーアは南都に来た事があるの?」
「いいえ。ですが宿の場所はあらかじめ南都に行ったことのある方に聞いてありますので」
成程、それでこうも迷わずに進めているんだ。
流石侯爵家のメイド。事前調査は万全って訳だ。
はい、私は特に深い事も考えずにまぁ現地で探せば良いやと思っていました。
そんな訳で、ティーアに引っ張られながら私は南都の街並みを眺めていた。
鳥馬車の旅の途中でも夜は近隣の町で宿を取っていたけど、夕方に宿に入って朝になったら馬車の旅を再開していたから、観光とかは出来なかったんだよね。
夜の街は危ないから出ちゃ駄目ってニャットとティーアに止められてたし。
私は子供かい!
ともあれ、そんな事情もあって私はじっくりと町を見学する事が出来ていた。
南都の建物は東都の建物とはまた違った形をしていて、同じ国なのにまるで外国に来たような気分を味わう。
「なんだか外国に来たみたい」
「ふふ、確かにそう感じてしまいますね」
私の言葉にティーアも笑みを浮かべて同意してくれる。
「南都は遠く離れた土地の商人も来ますから、彼等が南都に支店を立てる際には異国情緒を掻き立てる為に異国の建物を再現して建てたそうなのです。そしてそんな風に乱立したいくつもの異国の建物を見た我が国の大工達が刺激を受けて、各国の建物の良い所を取り入れて出来上がったのが南都の建物なのですよ」
「なるほどー、複数の国の建物をミックスしたんだ」
まるで建物の錬金術みたいだね。
でもそれだとこの町の建物はどこの国の原型とも違う形になってるんだろうなぁ。
なんていうか他国の料理を魔改造して独自の食べ物にしちゃう日本みたいだ。
「らっしゃいらっしゃい! 魚が安いよー」
「うちの果物は新鮮だよー!」
だけどそこから聞こえてくるのは東都や日本の商店街から聞こえてくる声と同じで、ちょっとおかしくなってしまった。
「それにしても……」
この辺りは商店街なのか、食材だけでなく薬草や武具やマジックアイテムなど、様々な品物のお店が立ち並んでいた。
「らっしゃいらっしゃい! 海の魔物の素材はどうだい! 内陸じゃ手に入らない貴重な海の魔物の素材だよ!」
「海の魔物の素材!?」
おお、それは面白そう! 合成したら水属性の魔石とか作れそう!
ちょっと覗いてみようかなと思った私の体が何かにひっかかって止まる。
何事かと思って振り向けば、そこには私の手を握ったティーアの姿が。
「カコお嬢様、お買い物は宿に到着してからにしましょう」
「……見るだけなら」
「東都から持ってきた荷物がたくさんありますよ? なのに今から荷物を増やしてはいけませんよ?」
「あ、はい」
はうぅ~、海の魔物の素材がぁ~。
◆
後ろ髪を引かれる思いで歩き続けていると、次第に町の喧騒が小さくなってくる。
どうやら商店街から出たようで人通りが少なくなってきたみたいだ。
「カコお嬢様、宿に着きましたよ」
そしてようやくティーアが足を止めた。
おー、やっと宿に到着だ! 馬車を選ばなかったことを後悔し始めてたんだけど、足が動かなくなる前に到着して良かったよ。
さてさて、港町の宿はどんな異国情緒に溢れたデザインなのかな?
そんな事を考えながら宿の姿を視界に入れた私が見たのは、立派な装飾が施された貴族のお屋敷のような建物だった。
「……え?」
「ここが今回の旅の宿、夜空の魚群亭です」
「え?」
はい、同じ声が二度出ました。
◆
「まさか高級旅館をチョイスするとは……」
全く予想外の選択に私はため息を吐いていた。
だって高級旅館だよ?
店の内装とかも高そうな壺とか絵画とか椅子とかテーブルとかキラキラしたもので埋め尽くされていたんだから!
はい、どう見ても一泊数十万円とかする高級ホテルですよーっ!!
これじゃ売り上げが宿代で消えちゃうよ!
「カコお嬢様の身の安全のためでございます」
「私の身の安全?」
どういう事?
「安宿は物盗りが出るのニャ。下手すると寝てる間に命まで奪われるのニャ」
「ふぇっ!? 命!?」
何ソレ怖すぎっ!!
「ニャット様のおっしゃる通りです。最悪の場合、宿の従業員自身が賊と繋がっている場合があります」
「従業員も!?」
そんなの回避しようもないじゃん!!
「だから警戒心の強い冒険者は懐が心許なくてもある程度安心できる宿に泊まるのニャ。高い金は安心の値段でもあるのニャ」
ほえー、そうだったのかぁ。
「特に今回は保護者の居ない幼いカコお嬢様だけの旅です。それに港町は他の町に比べて犯罪者も強引な手を使う事がありますから、その分気を遣う必要があるのです」
「幼くないし!! あっ、いや港町の犯罪者が強引な手を使うってどういうこと?」
「港町には船があるのニャ。賊が犯行を行っても船に乗って町から逃げ出せば追っ手がかかりづらいのニャ。なんなら船の持ち主が賊とグルの可能性だってあるのニャ」
最悪誘拐される可能性すらあるとニャットは脅してくる。
「つまり安宿がグルになってる場合と同じって事?」
「そう言う事にゃ」
「うーん……安全かぁ……むぅ」
命あっての物ダネともいうし、お金で安全を買うと思えば必要経費なのかなぁ……
「その分儲ければ良いだけの話だニャ」
「まぁそうなんだけどね……」
うん、ニャットの言う通りだ。
幸い私には合成スキルで作ったマジックアイテムがある。
持ち込んだ商品の大半が宿代で消えても、これの売上げさえあれば黒字にはなるだろう。
「よっし、気持ちの切り替え完了! それじゃあ商品の売り込みに行くよ!」
「ニャ!」
「かしこまりましたカコお嬢様」
さーてどこに売りに行こうか……と思ったらティーアから提案が上がる。
「お嬢様、まずは現地の価格調査を致しましょう」
◆
ティーアの提案を受けた私達は、南都の商店街を散策していた。
目的は東都の特産品を売っているお店だ。
私達が持ってきた商品が南都でどれくらいの価格で売られているかの調査をするのだ。
「らっしゃいらっしゃい! ウチは東都から仕入れた珍しい果物があるよー!」
「おお、本当にあった」
ティーアに言われて探しに来たけれど、まさか本当にあるとは……
「おっ、お嬢ちゃんどうだい? 旅の土産に買っていかないかい? 安くしておくよ!」
そういっておじさんは店頭に並んでいたシナーの実を差し出してくる。
ただそのシナーの実はお世辞にも新鮮とは言えなかった。
なのにそのお値段はなんと金貨8枚!!
東都なら銅貨10枚もあれば買えるから10倍どころの値段じゃない。
「これが東都の果物ですか? でもなんだか萎びてるし、その割にはちょっと高すぎる気がするんですけど?」
うん、明らかに痛む寸前だね。
食べれない事はないけどこの価格で買うにはぼったくりにも程があるよ。
「そりゃそうさ。この国の東の果てにある東都から運んできたんだからね。運ぶのに時間がかかるからどうしても萎びるし、運ぶための輸送費だってかかってる。実際に東都に行ったら何十日もかかる上に旅費でこの何十倍もかかるぞ」
「うーん、そう考えるとこの値段も間違ってないのかな……?」
「その通り!」
でもなぁ、それでもこの値段は……
私は小声でティーアに問いかける。
「ねぇティーア、鳥馬車の代金っていくらだったの?」
「金貨30枚ですね」
「さっ!?」
想定外の値段に私は思わず声を上げてしまう。
つーか鳥馬車の旅費ってそんなに高かったんだ!!
「ですがあの方のおっしゃる通り、地上を進めば馬車代、宿代、食費、護衛代、更に安全を考えればその程度では済まないでしょう。冒険者などの旅人は旅の途中で仕事をしながら旅費を稼ぎますし、商人も同様です」
「成る程……」
ううむ、確かに輸送費や人件費は出てくるのも当然っちゃ当然だよね。
大航海時代の地球でも胡椒が同じ量の金貨と同じ価値だったってのは有名な話だし。
寧ろこれは私の感覚の方が間違っているんだろう。
アスファルトで舗装された道路を荷物が大量に乗る冷蔵トラックで運ぶ日本と一緒にしちゃいけないのは当然か。
ただ、そうなると経費以外で気になる事が出てくるんだよね。
「でもこの価格で買う人が居るんですか? いくら珍しいとはいえ、こんな高かったら誰も買わないと思うんですけど?」
そう、さすがにこんなバカな値段で買う人は……
「それが居るんだなぁ」
居るんかい!?
「ええ!? 本当ですか!? 一体どんな大貴族が買うんですか!?」
マジか、どんだけブルジョワな人が買うわけ!?
「はははっ、貴族じゃないさ」
だがおじさんは買い手が貴族じゃないと笑って否定する。
「貴族じゃない? それじゃあ商人? でも商人だったら自分で東都に仕入れに行くだろうし……」
「ヒントをやろう。ここは何の町だい?」
「なんの町……?」
はて、この町には何か特別な特徴があるのかな?
そう思って首をひねっていたら、おじさんが意味ありげに視線を変えた。
ええと、確かあっちは海の方角の筈。鳥馬車で空の上から見たから間違いない。
でも海に商人なんて……
「あっ! 船!」
そうか、外国から船でやってくる商人だ!!
「正解。答えは船でやってくる貿易商人だ」
おじさんの答えに私は自分の予想があっていたと確認する。
そっか、船で来る商人は海のない東都に来れないもんね!
そう考えれば多少状態が悪くても港に船を止める費用の関係で買うしかないのも納得だ。
「他国から長い旅をして仕入れにやってくる商人ならこれでも買ってくれるのさ」
「成る程。でもそれだと自分の国に帰る前に腐っちゃいません?」
何せ今でも萎びてるし、もしかしたら底の方はもう腐り始めている可能性もある。
やっぱり駄目じゃないかなコレ?
「ああ、だから商人が買っていくのはもっぱらドライフルーツにしたヤツだな。ここにあるのは国に帰った時の土産話をする為に食べてくヤツ等ばかりさ」
ああ成程、ドライフルーツは私も考えてたもんね。
寧ろここにある果物は買ってくれたら御の字。ダメになる前にドライフルーツにしてごまかしちゃえって売り方の方が本命だった訳だ。
うーん、元からまともに売る気は無かったんだね。 買わなくてよかったー。
けどそうか。そうなると……
「うん、色々勉強になったよ。ありがとうおじさん!」
「なんだ買っていってくれないのか?」
「流石に私のおこづかいじゃ高すぎるよ」
うん、情報料として一個くらい買ってあげたいところだけど、こんなに萎びてちゃ買っても逆に困っちゃうしね。
「そりゃそうだ。ならこっちのドライフルーツはどうだい? こっちならお嬢ちゃんのおこづかいでも買えるよ」
とおじさんはドライフルーツを取り出した。
「じゃあそれを頂戴」
「毎度。銀貨10枚ね」
おお安い。いやもしかしたらこれでも高いのかもしれない。最初に金貨8枚を見せられたから安く感じてるだけかもね。
まぁでも良い情報を貰ったんだから素直に買っておこう。
ティーアが代わりにお金を支払って商品を受け取ると、私達はすぐに店の外に出る。
「ねぇティーア、馬車って借りれる?」
やる事が決まった私は早速ティーアに相談をする。
「馬車ですか? この町でしたら辻馬車の大きな駅があるでしょうからお金を払えば数日借りることが出来ますが、どちらへ行くおつもりなのですか?」
「港!」
◆
借りた馬車に乗って港にやって来た私は、さっそくお目当ての人物が居ないかと港にいる人々を観察する。
「さーて、お目当ての商人さんは居るかな?」
「お前等早くしろ! 明日の朝には出航なんだからな!」
「へい!」
港では船員さん達が忙しそうに荷物の入った木箱やらを運んでいる。
「馬鹿野郎! それは本国じゃ手に入らない果物の入った樽だぞ! もっと丁寧に扱え! 傷が付いたら旅の間に痛んじまうだろうが!」
「居た! あの人だ!」
私はターゲットの商人を定めると、さっそく彼に話しかけに行く。
「すみませーん」
「あん? 何だ嬢ちゃん。おじさん達は今忙しいんだ。うろちょろしてると怪我するからとっとと帰んな」
けれど異国の商人は私を見た瞬間に子供だと判断すると、面倒そうに手を振って帰れと言ってくる。
くっ、私の見た目が若いばかりに! だが諦めないよ!
「いえいえ、私はおじさんと商売をしに来たんです」
「商売? 悪いが子供に関わってる暇は……」
「そう言わずにこれを見てください!!」
そう言って私は手に持っていたシナーの実を商人に見せる。
「あん? 何だ? 果物? それがどうしたってんだ」
「これはこの国の東の果てにある東都でのみ取れるシナーの実です。見た事ありませんか?」
私の言葉を受けた商人はもう一度シナーの実に視線を向ける。
「いやそりゃ見た事くらいあるが……んん? なんかおかしいな?」
何を言ってるんだと言いたげだった商人だったけれど、私のシナーの実を見ておかしいなと首を傾げる。
「お気づきですか? そう、この果物は港町で売られているものよりも鮮度が高いのです!」
私の言葉に商人はそういえばと手を叩く。
「そうか、言われてみれば確かに町で売られている物よりも新鮮だ! だがどうやってこんな新鮮な物を? この辺りまで運んでくるにはかなり時間がかかる筈だし氷の魔法で冷やしてもここまで新鮮な状態にはならない筈だ」
ふっふっふっ、食いついてきたね!
けどそうか、氷の魔法を使って簡易冷蔵庫みたいにする運び方はあるんだね。
まぁ氷の分だけ重いし嵩張るし、馬車に湿気が溜まりそうだけど。
「それはウチの商会の特別な輸送法のお蔭です。おかげでこんなに新鮮に運ぶことが出来たのです!」
とはいえ、馬鹿正直に魔法の袋に詰め込んで鳥馬車に乗ってやってきましたと言う必要はない。
あくまで新鮮なまま運ぶ手段があるよってだけ教えればいいのだ。
「ほぉ、そりゃ大したもんだ」
「どうでしょう、おじさんの船は果物を積み込んでいるみたいですが、ウチの新鮮な果物も運んでみませんか? これならドライフルーツにしなくても運べますよ」
そう、新鮮な果物ならドライフルーツにしなくてもある程度保つ。
この商人の国がどれだけ遠くにあるかは別問題だけどね。
「たしかにこれだけ新鮮な果物なら是非とも欲しいな。氷魔法を併用すれば本国に戻るまで鮮度を保つことも出来るだろう」
おお、これは食いつきが良いね! 、と思ったんだけど商人は言葉を止めてだがなぁと続ける。
「これだけ新鮮だとかなり値も張るんだろう? 町の萎びたヤツですら1個金貨8枚だ。これなら倍は取るつもりじゃないのか?」
まぁそう警戒するのも当然だよね。だが逃がしはしないよ!
「いえいえ、そんな大金を取るつもりはありませんよ。そうですね、ウチが売るなら1個当たり金貨10枚といったところですか」
「たった金貨10枚!?」
たったという言葉に込められた単位がおかしくなってるけど、まぁそこは置いておこう。
「ええ。ウチの特別な輸送法のお蔭です」
「なんとまぁ。だが流石に安過ぎないか?」
すると今度は安さに警戒しだす商人。
うーん、高いのも嫌だし安いのも嫌だしと面倒なおじさんだなぁ。
でもまぁその辺りもティーア達と相談済みだ。
「勿論今回だけの特別なお値段です。ウチの店は南都ではまだ名が売れていないので、有力な商人と太いつながりが欲しいのです」
秘儀、安いのは今回だけですよ作戦!!
これならこちらの提示した金額が安過ぎても相手を納得させられる魔法の言葉なのだ!
「成る程な。それで俺に声をかけてきたって訳か」
「ええ、その通りです」
まぁおじさんの評判とか全然知らんけど。
ただ単に果物を仕入れてる商人なら、この国でしか手に入らない新鮮な果物を買ってくれるかなって思っただけだし。
「ははっ! 気に入ったぜ! この幼さでその目利きとは末恐ろしい嬢ちゃんだぜ!」
「だっ……光栄です」
あっぶね、危うく誰がガキじゃぁー! って叫んで取引をオシャカにするところだった。
落ち着け、冷静になれ。私は大人の女っ!! クールで知的なやり手の美女商人なのだ!
「それで商品はいくつあるんだ?」
よし、ここで馬車に出しておいた商品の出番ですよ!
流石に大きな取引をしようって商人が徒歩で交渉に来たら見くびられかねない。
ここは長旅をしてきた体を出す為に馬車に荷物を移設しておいたのだ。
「種類別に樽で三つですね。個数は……」
えっと、いくつだっけ? 樽で買ったから細かい個数までは……
「シナーの実が30個、プルアの実が30個、ジレオンの実が50個です」
「あ、ありがとティーア」
おおう、細かい個数まで数えてたのか……流石侯爵家の有能メイド!
「本当ならそれぞれ値段が違うのですが、今回は全部まとめて金貨1100枚でどうでしょう?」
個々の値段の計算と交渉とか面倒なので、纏めてキリの良い値段で売る事で割引を演出しよう。あのお店でも東都産の果物は大体似たような同じ金額だったからね。
何より生モノ早く売り抜きたい! やっぱ怖いわ生モノ!!
「ああ、その値段なら予算内だ。全部買い取ろう」
マジかー、金貨1100枚を即金払いかよ。
流石船に乗ってやってくる商人はお金の使い方が半端ないぜぇ。
「念の為樽の中身を確認させてもらっても構わないか?」
「ええ、勿論です」
私が承知すると、商人は近くで作業していた部下達に指示を出し、樽の中身を確認させる。
そしてすぐにチェックを終えると部下が報告する為にやって来る。
「全部問題ありませんでした」
「よし、それじゃあこれが代金だ。そっちも確認してくれ」
今度はこちらの番だとばかりに金貨を受け取ったティーアが空になった馬車の荷台で代金を数え始める。
その手は凄まじい速さで。みるみる間に金貨が規則正しく並び出す。
「……お嬢様確認終わりました。代金丁度です」
「……早いね」
「メイドの嗜みでございます」
メイドの仕事に金貨の枚数チェックなんてあったっけ?
「いやー、出航前に良い取引が出来たぜ。ウチの国に来ることがあったらぜひ俺の店に寄ってくれ! 俺の名前はエルレンだ!」
「私はマヤマ=カコと言います。その時は是非!」
そう言ってエルレンと名乗った商人は意気揚々と自分の船に戻って行ったのだった。
「……まぁあのおじさんのお店の名前知らないんだけどね」
「致命的なまでにいい加減な商売してるニャア……」
いいんでーす。だって私は合成スキルを使って商売をしていくつもりなんだし。
細かい取引とかはそのうち店員を雇って丸投げするつもりなんだから。
「けど予想外に大儲けだったね。これなら皆も魔法の袋を使って鳥馬車で運べばいいのに」
なんで皆もやらないんだろう?
樽3個分の売上げで旅費なんて簡単に取り戻せるのに。
「……カコお嬢様、まず魔法の袋は大変に高価です。しかも大容量の袋を大量に手に入れようとすると相当なお金とツテが必要になります。カコお嬢様のやり方を真似できるのは一部の大店だけですよ」
とティーアが困った顔で私の疑問を訂正する。
「そうなの? でもそれならさっきの萎びた果物を売ってたお店はやっていけないんじゃない?」
「それはカコがやった事とと同じだニャ。カコと同じことが出来る商人は、外国の有力な商人達と既に独占売買契約を結んでるのニャ」
「そうですね。そういった美味い商談は老舗の商人達が独占しているのでしょう」
成程、私は意図せず大店のやり方を真似していた訳だ。
うーむ、これも合成スキルで魔法の袋を合成修理出来たおかげだね!
合成スキル様々だよ!
「これで腐りやすい物は売り切ったし、次は武具や薬草の類を見て回ろう!」
予定よりも早く生ものの処分が済んだことで、私は穏やかな気持ちで南都を見て回る余裕が出来たのだった。
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