第39話 宝石合成とハンバーガーランチ
クズ石を大量合成した結果、宝石が最高品質になると魔法の威力を増幅する効果を発揮する事が分かった。
そして水晶は魔力を貯める蓄魔石の原料になるという事。
「そうなると次に試したいのは宝石と他のアイテムの合成かな」
手持ちで使えそうなのは鍛冶師の村で買った武具くらいかぁ。
他にも色々合成してみたいなぁ。
「とりあえず手ごろな剣に合成してみようかな。合成」
私は最高品質の剣に最高品質のシトリンを合成してみる。
ピカッと光った後に残った剣は一見変わっていないように見えたけど、よく見ると柄頭の部分にシトリンが嵌まっていた。
「んー、成功したのかな? 鑑定」
『最高品質の剣(地属性、通信系魔法の発動体):最高品質の剣。魔法の発動体としても使える。最高純度のシトリンが組み込まれており、地属性、通信系魔法を使う際には魔法の威力が増幅される』
んん? 発動体?
「ニャットー、魔法の発動体ってなにー?」
分からない事はニャット先生に教えてもらおう。
「発動体は魔法を使うために必要なアイテムの事だニャ。それがあると魔法を発動させ易くなるのニャ。
戦闘中に魔法が発動するまでの時間は短い方が良いのニャ。魔法の威力や命中精度も上がるし、何より消費魔力も僅かだけど少なくなるのニャ」
「へぇー、それじゃあ魔法使いには必須なんだね」
「熟練者になれば杖が無くても魔法を使えるようになるのニャ。だけどあった方が確実に便利だニャ」
成程、道具に宝石を合成すると魔法の発動体になるんだね。
武器であり魔法の杖でもある装備、なかなか燃える設定だよね!
「これは私の短剣にも合成するべきだよね!」
そう、いつか私が魔法を使えるようになった時の為に!
「あっ、でもこの剣みたいに宝石が付くと明らかに形が変わっちゃうから、トラントの町で買った予備のミスリルの剣に付けよっと」
私は合成実験用に残しておいた予備のミスリルの短剣を取り出すと、今度はトパーズと合成する。
「合成! そして鑑定!」
『ミスリルの短剣(火属性、探査系魔法の発動体):ミスリルの短剣。魔法の発動体としても使える。最高純度のトパーズが組み込まれており、探査系魔法、火属性魔法の威力を増幅する効果がある』
「よし成功!!」
これで短剣で戦いながら魔法も使えるようになったよ! まぁ、まだ魔法は使えないけど。
ふっふっふっ、ミスリルが放つ紫色の輝きに加え、トパーズの黄色い輝きが加わったこの剣の美しさを見よ!
「うーん、もはや芸術品の一種では?」
こうなると他の宝石も合成できるのか試してみたくなるよね。
いきなりミスリルの短剣に使うのは怖いから、シトリンを合成した剣で実験しよう。
「この剣にトパーズを合成! そして鑑定!」
『最高品質の剣(火、地属性、探査、通信系魔法の発動体):最高品質の剣。魔法の発動体としても使える。最高純度のトパーズとシトリンが組み込まれており、火属性、地属性、探査系、通信系魔法を使う際には魔法の威力が増幅される』
「おおーっ! 出来た出来た!」
よかったー、別の属性の宝石を合成しても特に問題は起きないみたいだね。
じゃあ次は水晶かな。
「この剣に水晶を合成! そして鑑定!」
『最高品質の剣(火、地属性、探査、通信系魔法の発動体):最高品質の剣。魔法の発動体としても使える。最高純度のトパーズとシトリンが組み込まれており、火属性、地属性、探査系、通信系魔法を使う際には魔法の威力が増幅される。水晶を装飾として使っている』
「ありゃりゃ、特に何も起きないのかぁ」
どうやら水晶は蓄魔石にしないと意味はないみたいだね。
生産系ゲームで言う中間素材みたいな感じなのかな?
それじゃあ次は……
『合成スキルが成長しました。複数合成が解放されました』
「おっ!?」
これは久しぶりに来た!?
「どうしたニャ?」
「なんかスキルが成長したみたい。複数合成ってのが使えるようになったよ」
「どんなスキルだニャ?」
「えっとね……」
私は目の前に現れたポップアップウインドウの中の説明文を確認する。
『複数合成:素体となるアイテムに同時に複数のアイテムを合成できる』
「どうやら合成する時に複数のアイテムを同時に選択できるみたい。一回ずつこんどはこれ、その次はこれをってやらなくてよくなったみたいだね」
でも突然スキルが成長したのはなんでだろう?
何か解放条件があるのかな?
剣(武器)に別種のアイテムである宝石を複数種類合成したから?
それともこれまでに合成してきた素材の種類が一定数を超えたから?
うーん、スキルの成長は条件が分からないから、何をすれば成長するか検証しにくいんだよね。
「案外時間経過が鍵だったりね」
とはいえ、答えが出ない事を考えてもしょうがないか。
「色々試してみますか。まずは複数合成のテストから! この槍にトパーズとシトリンと水晶を合成!」
一気に四つの素材を合成だ!
光が止むと、槍の棒部分に黄色と茶色と透明な輝きの石が組み込まれる。
「それじゃ鑑定!」
『最高品質の槍(火、地属性、探査、通信系魔法の発動体):最高品質の槍。魔法の発動体としても使える。最高純度のトパーズとシトリンが組み込まれており、火属性、地属性、探査系、通信系魔法を使う際には魔法の威力が増幅される。水晶を装飾として使っている』
成程、剣の合成結果と同じだね。
合成の検証をする時には使えないけど、普通に複数纏めて合成をする時には便利そうだね。
「これ、複数合成と一括合成は出来るのかな? ちょっとやってみよ。」
私は新しい剣を複数取り出すと、同じようにトパーズとシトリンと水晶も複数取り出す。
「剣にトパーズとシトリンと水晶を一括複数合成!!」
どうかな?
いつも通りに素材がピカッと光る。
そして光が止んだ後には剣とトパーズとシトリンと水晶が残っていた。
「ありゃりゃ、だめだったか」
一括合成でも複数合成でもなく、何も起きないんだ。
まぁ失敗で素材が無駄になるよりはマシかぁ。
「これは複数の機能を一度に全部使えないのかな? それとも今の私ではまだ出来ないってことなのかな?」
分かったのは出来なかったという事のみ。
今後出来るようになるのかはスキルの成長を待つしかないね。
「ふー、疲れた」
合成の検証はこの辺でやめとこう。これ以上は素材が足りないし。
「さて、これからどうしようか」
今日は朝から出かけていたから、そんなに時間が経ってないんだよね。移動も馬車だったし。
うーん、また外に出かけようかな? 今度はお忍びで。
まだまだ東都の中を全然見てないしね。よーし、それじゃあ出かけ……
「ぐぅ~~~」
と思ったら突然部屋の中に音が響いた。
「腹が減ったニャ」
どうやらニャットのお腹の音だったみたいだ。
「じゃあお昼ご飯を先にしようか。えっと、ティーアに頼めば作ってもらえるのかな?」
とりあえず部屋の外に出て誰か探そう。
「いや、カコの作ったのが良いニャ」
「え? 私の?」
まさかのリクエストにちょっと驚く。
「でもここの料理人は貴族のお抱えだよ? 絶対私よりも美味しい物作ってくれるよ?」
けれどニャットはいーやと首を振る。
「貴族の料理は食べにくいのニャ。それに間違いなくカコの料理の方が美味いのニャ」
イヤ、マジで私の料理の腕は普通だぞ? 多分物珍しさと合成スキルで食材を最高品質にしてるからだぞ?
「契約を履行するのニャ」
うぐぐっ、そう言われると弱い。
ニャットの護衛契約はご飯を作る事だからなぁ。
後で町に出る為にもニャットのご機嫌を損ねる訳にはいかない。
「分かった。厨房を使わせてもらえたら作ってあげる」
「決まりニャ! メイドくるのニャー!」
日当たりの良い場所から立ち上がったニャットは、ピョーンと飛び跳ねるとテーブルの上に着地する。
そして上に置かれていたハンドベルをカラカラと鳴らす。
すると数秒と経たずにドアがノックされる音が響いた。
「ど、どうぞ」
「失礼いたしますカコお嬢様。いかなるご用件でございますか?」
「カコを厨房に連れて行ってほしいのニャ!」
「カコお嬢様をですか? 食堂ではなく厨房に?」
ニャットの要求を聞いたティーアは不思議そうに首を傾げる。
「そうニャ。カコの料理を食べるのニャ!」
「カコお嬢様がお料理を!?」
私が料理を作ると聞いてティーアが驚きの顔になる。
「カコお嬢様がお手を煩わせることなどありません。当家の料理人達が最高の食事を提供いたします」
まぁそういう反応になるよね。
けれどニャットはそれを良しとしなかった。
「それはダメニャ。カコがニャーに料理を作る事が護衛の契約内容だニャ」
「ですが……」
自分が仕える相手が使用人に働かせずに自分で家事をしようとしている事にティーアは強い抵抗を見せる。
まぁお手伝いさんを雇ったにもかかわらず、雇い主が何でも自分でやったら雇った意味ないもんね。
とはいえ、これは私も納得して受けた契約だ。それをたがえる訳にはいかないだろう。
「ティーア、これは私とニャットの約束だから」
「カコお嬢様……」
ティーアはわずかに逡巡する様子を見せたけれど、やがて諦めたのか肩を落として分かりましたと答える。
そしてティーアに連れられて私達は厨房へとやって来た。
厨房には何人もの料理人達が忙しそうに働いている姿が見える。
「ん? ティーアちゃんじゃねぇか。どうしたんだ?」
料理人の一人が私達に気付いて声をかけてくる。
「ザックさん、カコお嬢様に厨房を使わせてほしいのですが」
「はぁ!?」
ティーアさんの頼みごとにザックと呼ばれた料理人が困惑の声をあげる。
「ティーアちゃんよう、さすがにそれは無理な注文だぜ」
ザックさんは私をちらりと一瞥する。
「厨房は子供が思うよりもずっと危険なんだ。刃物を扱うし火だって扱う。遊び気分で近づいたら大怪我の元だ」
「っ!」
おっといけないいけない。今の私は本物の子供になってしまっているんだった。
だが落ち着け。私の中身は大人、大人の女なのですよ。
だから子ども扱いされても怒ったりしない。
「ニャーとの契約なのニャ」
さてどう説得したものかと考えようとしたら、ニャットが動いた。
「契約?」
「そうニャ。ニャーはカコに料理を作ってもらう代わりに護衛をする契約を結んでいるのニャ」
「なんだその妙な契約は?」
うん、反論の余地が無いツッコミだ。
そもそもお金の問題はもう解決している訳だから、金銭での報酬にしても良いんだけどね。
「カコの料理は美味いニャ。この町に来るまでカコの料理を食べてきたニャーが保証するのニャ」
「ほう、そっちのお嬢ちゃんは本当に料理を作れるのか」
ニャットの説得で私が料理を作れると分かったザックさんだけど、まだ疑いの眼差しは完全に消えていない。
「ザックさん、カコお嬢様は旦那様のご令嬢ですよ」
「は? 旦那様の?」
「昨日説明したじゃないですか。新しく養子を迎えられると」
「まさか、それがこの嬢ちゃ……お嬢……様?」
ザックさんが恐る恐る私の方を見てくる。
「初めまして。カコ=マヤマ=クシャクです」
マンガで覚えたうろ覚えの知識でスカートをつまんで軽く頭を下げる。
確かカーテシーだっけ?
「す、すみませんでしたーっ!!」
などという一幕がありながらも、私は厨房を使わせてもらえることになった。
「お嬢様、こちらのエプロンをどうぞ」
「ありがとうティーア」
どこからかエプロンを持ってきたティーアがいそいそと私に装着する。
うわぁ、めっちゃフリフリのエプロンだぁ。
子供の体じゃなかったらメチャクチャ痛かっただろうなぁコレ。
いや、大丈夫。今の私は立派な異世界美少女! フリフリエプロンも似合っている筈!
はい、自己肯定完了! 料理を始めるよ!!
「さて、それじゃあ何を作ろうかな」
ニャットもお腹が空いているだろうから、あんまり手間をかけた料理は止めた方が良いかな。
私もさっさと食べたいし。
「ニャットと言えばお肉だよね」
ニャットは野菜はいらないから肉が食べたいというくらいだし、肉料理が良いだろう。
「でも簡単な肉料理って言うとステーキとかだけど、それは普通に食べれるしなぁ。分かりやすい肉料理はそれなりに手間がかかっちゃうし」
あとこの世界の調味料とかまだ把握しきってないしね。
簡単に作れて美味しいお肉料理か……
「もうハンバーガーで良いかなぁ」
何となく、お昼に食べる簡単な肉料理と言ったらハンバーガーが思い浮かんだ。
だってほら、アレ食べるの楽だし。
あっ、そんな事考えてたら口の中が完全にハンバーガーモードになってしまった。
うん、ジャンクフード食べたい。
「えっと、バンズはないからこのコッペパンみたいなの使うか。あとは油を熱して……」
「カコお嬢様、危険なので油は俺がやります」
フライドポテトの為に油を火にかけようとしたら、ザックさんが自分にまかせてくれとやってくる。
まぁ確かに子供の体で油を使うのか危険かもしれないね。
「分かりました。では油の扱いはお任せします」
「任せてください!」
私は過去に食べたジャガイモっぽい芋を見繕うと、皮をむいて細長く切る。
「油が十分に熱したらこのお芋を入れてこんがりキツネ色になるまで揚げてください」
って異世界でキツネ色って通じるのかな?
「任せてください!」
あっ、通じた。
どうやらこっちの世界にもキツネが居るのか、女神様から貰った異世界会話能力が良い感じに翻訳してくれたんだろう。
あとはメインのハンバーグなんだけど、これも作るのが手間なので代わりに普通のお肉を焼いて代用。
代わりに食べやすさ優先で筋を切ってパンに挟める形にカットする。
あと野菜はさすがに異世界で生は怖いので、軽く湯に潜らせて熱湯消毒する事にしよう。
フライパンに十分火が通ったらお肉を投入。
更にお湯が沸騰する鍋にレタスっぽい葉野菜を軽くくぐらせたら、水気をきって皿に置いておく。
そしてフライパンを十分熱したら、お肉を投入。
更にいくつかの香草を組み合わせたら粉砕して粉末状にしたらお肉に振りかける。
そうしてお肉が焼けたら過剰な油を落として温野菜で包む。
そうしたら真ん中を半分切ったコッペパンもどきに挟み、肉の部分に軽くソースをかけてバーガーは完成。
「お嬢様、芋が良い感じにあがりましたよ」
「ありがとうございます」
私は少し大きめの皿にバーガーとポテトを載せ、炭酸飲料の代わりに果実水を用意する。
「完成! なんちゃってステーキバーガーセットだよ!」
「食べるのニャ!」
待ってましたとばかりにニャットがバーガーをほおばる。
「……」
ど、どうかな? 今回は周りに人が居るから合成スキルで品質を上げる事ができなかったんだけど……
「う……」
「う?」
「美味いニャアァァァァァ!!」
「「「「おおーっ」」」」
大喜びでなんちゃってバーガーを食べるニャットを料理人達が興味深そうに見つめている。
「一見するとただ単にパンに肉を挟んだだけだが、あれには意味があるのか?」
「フォークやスプーンを使わないから、外で買い食いする事の多い冒険者としては嬉しい所だろう」
「温野菜も挟んでいるから、栄養価も悪くないんじゃないか?」
ごめんなさい、栄養価に関してはめっちゃ雑に作ってます。
「んー、このサクサクの芋も美味いニャア! パンに肉を挟んだ料理は香草が良い感じに味を引き上げているのニャ。対して芋は塩を振りかけただけとシンプルニャけど、それが美味いのニャ!」
おお、意外にもニャットはなんちゃってステーキバーガーを気に入ってくれたみたいだ。
さて、それじゃあ私も自分の分を作っ……
「まぁ! これをカコちゃんが作ったの!?」
作って食べようと思っていたら、聞き覚えのある声が厨房に響く。
「うわぁ!? お義母様!?」
気が付けばお義母様の姿がそこにあった。
何でお義母様がここに!?
「「「「お、奥様!?」」」」
「カコちゃん、私も娘の手料理を食べたいわぁ」
食べたいわぁと言いながらすでに着席しているお義母様。
これはもう作る事確定してる奴ですね。
「……分かりました。人数分作りますので少し待っていてください」
「ニャーの分もおかわりニャ!」
「はいはーい!」
こうなったら一人分も二人分も同じだ。
厨房の料理人とティーアの分も作ってやらぁ!
さっきから食べたそうにしてたのわかってんだぞー!
こうして、私が自分のハンバーガーセットを食べることが出来たのは、皆の食事が終わりかけてからになるのだった……
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