第38話 クズ石を見よう

 という訳でギルドカードの色が金色みたいな黄色になった私です。


「まさか三足飛びで最高ランクの商人になっちゃうとはなぁ……」


 昨日から怒涛の展開で頭が付いて行かないわぁ。


「カコお嬢様、この後は何かされたい事はございますか?」


 呆然としていた私にマーキスがこれからの予定を聞いてくる。


「えっと、そうですね……」


 これからやりたい事かぁ。


「まずはキマリク盗賊団の捜索かな」


 元々東都に来たのはそれが目的だしね。


「カコお嬢様、そちらは旦那様とメイテナお嬢様が動いておられます」


「お義父様とメイテナお義姉様が?」


 メイテナお義姉様は分かるけど、何でお義父様まで?


「キマリク盗賊団は複数の領地で活動する賞金首ですので、騎士団の出動案件なのです。上手く捕えれば他の領主に恩を売れますしな」


 成程、だから領主であるお義父様が動いてるんだ。


「なら私の商売のネタを見繕いつつ、村から盗まれた盗品が無いかを見て回る感じかな」


 うん、盗賊団の捜索は私達だけじゃ危険すぎるけど、盗品の捜索なら本業をやりながら自然に行えるからね。

 問題は盗品を扱っているお店が何処にあるのか分からない事かな。

 まぁそういうのはこれから東都で商売をすれば分かるようになるでしょ。


「あとは市場調査かな」


 この東都のどこにどんなものが売っているか、そして物価のチェックをしよう!


 ◆


 マーキスに頼んで商店街に連れてきてもらった私は、さっそく良いお店が無いかと辺りを見回す。

 武具は鍛冶師の村で散々鑑定したから、今日はそれ以外の品を仕入れてみようかな。


「何かいい物はないかなぁ」


 その時だった。見知らぬお店の中で何かがキラリと光ったのである。


「ん? 何だろアレ?」


 お店の看板を見ると……なんだろ、紫色のついた模様?


「あれは宝石屋ですね」


「宝石屋?」


 えっと、つまり指輪とか売ってる宝石店って事?

 ああ、あれは宝石の絵だったわけね。


「あそこは装飾品にも使えない様な質の悪いクズ石を売っている店です。遠方の村から物を売りにやって来た者や旅の者が子供の土産に買うような店ですね」


 成程、土産物売り場に売ってるパワーストーンみたいなアレかぁ。

 ふむ、しかしクズ石とな?

 それはあれだよね。私のスキルと相性最高のお店なのでは?


「せっかくなので入ってみましょう!」


 という訳でいざ宝石屋!


 ◆


「うわぁ、何コレ!?」


 店内に足を踏み入れると、そこは雑多な石で溢れかえっていた。

 テーブルの上には色とりどりで不ぞろいな形の石が雑に箱に詰められ、それでも置き場が足りないのか、床にも石の入った箱がいくつも並べられている。

 これはうっかり足をぶつけないようにしないとね。


「いらっしゃーい。ウチは良いのが揃ってますよぉ」


 その声に視線を向ければ、店のカウンターにはお婆さんの姿が。

 ただしその姿は優しそうではなく、どっちかと言うと意地悪そうで胡散臭いな顔つきだ。

 あとすっげーやる気無さそう。


 私はお婆さんから視線を戻すと、クズ石に目を向ける。

 色んな色の石があるけど、黄色い石と白い石が多いかな?

 ただ濁っていたり亀裂が入っていたりするものばかりだ。


「成程確かにこれはクズ石だね」


 しかしこれは私にとっては都合が良い。

 私は考えを纏めると、お婆さんに声をかける。


「お婆さん、宝石部分の大きいクズ石を全種類50……いえ、箱一杯で買いたいんですけど」


「はいは……はぁ!?」


 お婆さんは「えっ、マジッ!?」と言わんばかりに目を大きく見開く。


「箱でくださいな」


「は、はひっ! 少々お待ちを!! トール! メリー! すぐに来て手伝いな! 上得意様だよ!」


 お婆さんが慌てた様子で店の奥に声をかけると、なんだなんだと家族らしい子供達がやってくる。

 そして私の姿を見たメリーと呼ばれた女の子は、私のドレスを見て「お姫様だー」とはしゃぎ、トールと呼ばれた男の子は顔を真っ赤にする。

 ほほう、あれかね? 私の魅力にメロメロですかな?


「……」


 ん? なんか視線の向きが違うような……あっ、コイツ私じゃなくティーアを見てやがる!

 くっ、男は皆メイドが好きなのか! いや私も結構好きだけどねメイドさんキャラ。


「ほらボヤボヤしてんじゃないよ! お客様のご注文だ。全部の石を箱に詰めるんだよ!」


「「全部!?」」


 まさかの指示に二人が驚きの声を上げる。


「宝石部分の大きいヤツだけを入れるんだよ! 急ぎな!!」


 お婆さんに急き立てられ、子供たちは慌てて石を箱に詰め始めた。


「ああいけない。ど、どうぞお嬢様。こちらの椅子に座ってお待ちくださいませ」


 私が上客だと判断したお婆さんはさっきの胡散臭い笑顔が嘘のようにニコニコしながら椅子を持ってくる。寧ろ余計胡散臭くなってるけど。


「お召し物が汚れてしまいますので、こちらをお使いくださいお嬢様」


 ティーアはお婆さんの用意した椅子の上に地の厚い布をクッション代わりに置いてくれた。


「ありがとうティーア」


 私は遠慮なく椅子に座る事にする。

 そうしてしばらく待つと、子供達がクズ石を箱に詰め終わる。


「お待たせしました。全部で金貨4枚になります」


 金貨4枚か。

 箱一つで大体100個くらいと考えて、このサイズだと地球じゃ1個500~1000円くらいかな?

 種類によって値段が変わるだろうけど、1箱5万円と考えてそれが10種類で合計50万円ってとこか。

 金貨一枚が約15万円だからちょい割高かな?

 まぁ土産物だしそんなものなんだろう。なんかボったくってそうなお婆さんだし。


 もっともこれから私がとんでもない暴利をむさぼるんですけどね。

 良いカモが来てくれたぜ! って喜んでいるお婆さんご愁傷さまです。


「支払いは侯爵家に請求してください。君達、荷物を馬車に運ぶので手伝ってください」


「「は、はい!」」


 お金を支払おうとしたら、突然マーキスが前に出てきてそんな事を言った。


「え? お金は自分で……」


「カコお嬢様、貴族は自分でお金を支払ったりはしません」


 と耳元でティーアが小声で囁く。

 ほわぁ、耳がゾワゾワするぅ。


「で、でもこれは私の仕入れだし……」


「そちらは屋敷に帰られてから考えればよいかと」


 むぅ、確かに店の中で誰が支払うとか騒ぐのも良くないか。

 しゃーない、ここは一旦ティーアの言う通りにしよう。


 馬車に荷物を積み込んだ私は、買い物を切り上げ一旦屋敷に戻る事にした。

 このままじゃ全部の支払いを侯爵家がやってしまいそうだしね。


 ◆


 とはいえ屋敷に戻るまで暇なので、私は馬車の中でマーキスに支払いの話をすることにした。


「マーキス、さっきの買い物の代金なんですけど」


「ご自分で支払いたかった、ですか?」


 なんだ、わかってんじゃん。


「そうです」


「カコお嬢様、先ほどティーアも言っていましたが、貴族令嬢は自分の手で支払いをする事はありません。どのような買い物であっても支払いは侯爵家で支払う事になります」


「でもこれは私の仕入れですよ?」


「はい。ですので後程旦那様にお支払いされればよろしいかと」


「あっ、それでいいんだ」


「ええ。他人ひとの見ていないところでなら問題ありません」


 成程ねぇ、貴族のマナーってヤツか。

 とはいえ何でもかんでも侯爵家が間に入ると買い物しずらいよなぁ。

 合成スキルの関係上、仕入れた品の数が変わるから、何をいくつ仕入れたのか知られたくない事もあるし。


「カコお嬢様、難しく考える事はございませんよ。カコ=マヤマ=クシャク令嬢として買い物をする際は侯爵家に請求するように注文すれば良いだけと言う話です」


「令嬢として買い物をする時は? ……ああ、そういう!」


 そこで私はようやくマーキスの言葉の意図を理解した。

 つまり今回のように貴族令嬢として動いている時は貴族の買い物の仕方をして、本来の私として、つまりお忍びという形で買い物をする時は普通にお金のやり取りをすればいいよとマーキスは言っているんだ。


「何事も使い分けでございます」


「そういう事なんですね。分かりました」


 お金の問題が解決したところで私はある疑問についても聞いてみる事にした。


「ところで宝石屋があるって事は、この領地って宝石の鉱山があるの?」


 そう、クズ石を売るくらいに宝石があるって事は、鉱山もある筈だ。


「仰る通りです。どこにあるかは言えませんが、このクシャク領ではオパールと水晶が採掘できます」


「おおー、オパール!」


 宝石が採掘される領地かぁ。これは色々期待できそうだよ。

 それにファンタジー世界だから地球にはない宝石もあるかもしれないね!


「またこの町は主要街道とつながっておりますので、他の領地で採掘された宝石が流れてくると事もありますよ」


「他の領地の宝石も!?」


 うわー、これは他のお店も行ってみないと!

 ああでも、次に行く時はお忍びで行こっと。


 ◆


「という訳でお待ちかねの合成タイムです!」


「頑張るニャー」


 ニャットは日当たりの良い場所に向かうと、ごろりと寝転ぶ。

 うーん、サイズ以外どう見ても猫です。


 まぁそれはいいや、私もやる事をやらないとね。


「それじゃあまずはこの茶色っぽい石を合成しようかな。こっちの大きな石にこの小さい石を合成!」


 ピカッと光って小さな石が消え、大きな石だけが残る。

 石を良く見ると、さっきまであった亀裂や濁りが減っていて、色も少し明るくなった感じがする。


「これまた分かりやすく質が良くなっているね。鑑定」


『低品質のシトリン:亀裂、濁りがある質の悪いシトリン』


「あれ、トパーズじゃないんだ。黄色いからトパーズかと思ったんだけど」


 まぁ宝石は宝石だし質を良くすれば売れるでしょ。


「シトリンを一括合成!」


 箱の中のシトリンを一括合成すると、一気に箱内部の宝石の質量が減少する。

 そして残ったシトリンの一つを鑑定してみる。


『最高品質のシトリン:最高品質の純度を誇るシトリン。このレベルまで来ると貴石に等しい価値を持つ。また通信系、土属性の魔法の威力を増幅する効果がある』


「お、おおおっ!? 魔法威力を増幅!?」


 きたーっ! 来ました! 最高品質ボーナス!!

 しかも通信系と土属性の魔法の威力を増幅してくれると来たもんだ!!

 これなら売るときに付加価値が付くね!!

 ところで通信系魔法ってなんだろ? テレパシーみたいなのかな?


「よし、他の箱も合成してみよう! こっちの箱の中身を一括合成!」


 どうせ全部最低品質なのは分かっているので、一括合成で合成してから鑑定を行う。


『最高品質のトパーズ:最高純度のトパーズ。探査系魔法、火属性魔法の威力を増幅する効果がある』


「おおっ! こっちも二つの属性を増幅!!」


 これも凄そうな効果が付いたよ!

 でもシトリンと同じ黄色い石なのに土属性じゃなくて火属性の増幅効果なんだね。

 色が属性に影響するわけじゃないのかな?


「こんどはこっちの透明な石を一括合成! そして鑑定!」


『最高品質の水晶:最高の純度を持つ水晶。器として大変優れており、魔力を貯める蓄魔石の媒体として使われる』


「蓄魔石ってなんだろ? 魔物からとれる魔石とは違うのかな?」


「蓄魔石は魔法を使う際に使う魔力を貯めておける石の事ニヤ」


 日向ぼっこをしながらニャットが蓄魔石について説明してくれる。


「蓄魔石は魔力が足りなくニャッたら代わりに石の中の魔力を使うのニャ。あとは一人では使えニャい大魔法を使う際の予備魔力としても使うニャ」


 成程、電池の様なものなんだね。

 中の魔力を使うあたり、魔力を回復させるマジックポーションの類とは違うみたいだ。

 けど魔力電池の材料として使えるとなると色々お金になりそうな予感がするよね!


 一通り合成を終えた私は、これまで得た情報を整理する。


 宝石は最高品質にすると魔法の威力を増幅する効果が付くみたいだね。

 そして一個ずつ合成をして確認してみたら、高品質の宝石から魔法増幅効果が付くようになった。

 品質が低いとただの宝石みたいだ。


「高品質の宝石は魔法使いの杖につけて魔法の威力を増幅させるのニャ。だから魔法使いの中には杖だけがやたらと豪華なヤツ等も少なくニャいニャ」


 服はボロで杖だけキラキラなのかぁ。

 うわー、それはなんともアンバランスな……


「でもそれなら品質の良い宝石は魔法使いに高く売れるんだね」


「魔法の威力に直結するからニャ。金に糸目を付けない連中も多いのニャ」


 成程、なら今後新しい宝石を見つけたら箱で買って合成した方が良いね!


「ただ何でも高く売れる訳じゃニャいのニャ。火属性の魔法使いに水属性の宝石は不人気ニャ。あと需要の少ニャい魔法の増幅効果のある宝石も売れニャいのニャ。蓄魔石として使える水晶は安定した需要を誇るのニャ」


 成程、その辺りは武器と同じで需要に差があるんだね。

 そして皆が欲しがる蓄魔石の材料である水晶は常に需要があると。


「となると水晶をメインに他の宝石も確保する感じが一番安定した売り上げを期待できそうだね」


 これは良い飯の種になる予感がしてきましたよ!

 よし! 水晶君、我がマヤマ商店(仮)の主力商品は君に決まりだ!

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