第19話 魔石合成!!

「ふいー、疲れたぁ」


 ようやく宿に帰って来た私は、精根尽き果ててベッドに倒れ込む。

 今日はいろんなことがいっぱいあって疲れたよ。

 薬草については……まぁ明日でいいや。


「……」


 私は魔法の鞄からボールスライムの魔石を引っ張り出す。

 ザララという音と共に、ベッドの上に何十個ものボールスライムの魔石が広がる。

 私はそのうちの一個をつまんで眺める。


「ふへへっ、綺麗だなぁ」


 半透明のその石は宝石と言うには濁っているし、綺麗に磨いても高く売れそうもない。

 でも、私にとっては初めて魔物を倒した記念品で、世間が決めた以上の価値を私は感じていた。


「……やっぱり今やっちゃおうかな」


 魔石を見ていたら、今日はもう疲れたから明日やろうと思っていたアレを今からやりたくなってしまった。

 だって待ちきれないんだもん。


「何かするのニャ?」


「うん、ボールスライムの魔石を合成してみようかなって」


「また妙ニャ事を」


 ニャットがまた変な事を始めるのかと訝しげな視線を送ってくる。 


「薬草は品質が良くなったけど魔石の場合はどうなるのか知りたくて。品質が良くなるのか? そうなった場合高く売れるのかなって」


「魔石の場合は質よりもどんな魔物の魔石ニャのか、それと大きさが価値をもつニャ」


 けれどニャットは魔石の質には意味が無いと言う。


「じゃあ同じ魔物なら価値は大差ない感じ?」


「そうだニャ。多少例外もあるが大きさも同じ魔物同士ニャらそう変わらないからニャ」


 ふむふむ、聞いた感じだと魔石を合成する価値はなさそうだね。


「でも沢山あるし、折角だから試してみるよ! 合成!」


 私はボールスライムの魔石を持つとさっそく合成を試してみる。

 ピカッと光った後に残ったのは、合成前と特に代わりの見えないボールスライムの魔石だった。


「パッと見変わった感じはしないね。とりあえず鑑定」


『状態の良いボールスライムの魔石:ボールスライムの体内から取り出した魔石。綺麗に採取されている。水属性。マジックアイテムの素材や動力、魔法の触媒として使われる』


「あっ、ちょっと良くなった!」


 やっぱり魔石でも品質が変わるみたいだね!

 よーし、在庫はまだまだ沢山あるし、もっと合成して調べてみよう!


「合成! そして鑑定!」


『非常に状態の良いボールスライムの魔石:ボールスライムの体内から取り出した魔石。水属性。とても状態が良い。マジックアイテムの素材や動力、魔法の触媒として使われる』


 やっぱり状態は良くなってるね。このまま状態を良くすると薬草みたいに最高品質になるのかな?

 よし、最高品質になるまで合成を続けてみよう!


「合成合成また合成っと!!」


 そして何度目かの合成と鑑定を繰り返した時、驚くべきことが起こった。


『ボールスライム変異種の魔石:希少な変異種の魔石。水属性。錬金術で防具と合成すると衝撃を和らげる効果を得られる』


 なんと魔石は最高品質になる代わりに、変異種の魔石に変化したのである。


「やった! 変異種の魔石になったよ! しかも防具に合成すると衝撃を和らげる効果だって!」


「ニャッ!? ニャにぃーっ!?」


 ベッドでヘソ天してだらけていたニャットが足をバタバタさせて驚く。


「それは本当かニャ!」


 体を丸めたニャットはバネの様に体を跳ねさせる事で体を反転して起き上がった。


「うん。変異種の魔石だよ。ほらっ」


 ニャットに見せたボールスライムの魔石は、確かに他のボールスライムの魔石とは輝きが違った。


「ニャんと……ニャーの目には違いが全然分からニャいが、おニャーの鑑定がそう鑑定したのニャら事実なのニャ……」


「ねぇねぇ、これならニャットが戦って倒す魔物の魔石も全部変異種の魔石に出来るんじゃない!? そうすれば冒険者ギルドに買い取ってもらう時も高く売れるし、その魔石を合成で武器や防具に合成すれば、簡単にマジックアイテムみたいな品が出来上がると思うの!」


 そうだよ。魔物素材の防具を合成する事で変異種の素材の防具に変化させることが出来たんだから、魔石を合成させることで新しい能力を付加できる可能性は非常に高い。

 って言うかそうじゃん。魔物素材の鎧が変異種の鎧になったんだから魔石だってそうなる可能性高かったんだ! 今の今まで忘れてた!


「という訳でまずは私の鎧に合成してみよう! 合成!! そして鑑定!」


『最高品質の川大トカゲの鎧:最高級の川大トカゲの皮がふんだんに使われた鎧。軽く硬く動きやすい。中級の魔物が相手なら相当な防御力を発揮する。炎系の魔法の威力を弱める効果がある。ボールスライム変異種の魔石の力で衝撃を和らげる効果がある』


「やった! 合成成功!!」


 よっしよっし! これで変異種の魔石を合成し続けて凄い鎧を作る事が出来るよ!! ふふふ、初期装備の革の鎧を防御力+99、全属性攻撃と全デバフに耐性付きとか出来ちゃうよ!


「これはまたトンでもない事をしたもんニャ……カコ、おニャー絶対この町でその鎧の性能を話すんじゃニャいぞ」


 ニャットは誰かに知られたら大変だと神妙な顔で私に警告してくる。


「言わないって」


 流石の私も合成で強化した鎧の性能を自慢したりはしないよ。

 そんなことしたら絶対どこでそんなものを手に入れたんだ! って聞かれちゃうもんね。


「こっそり自分の装備を強化する為だけに使うから安心して! あっ、でもこの町を出たら他の町で合成したアイテムを売るのはありだよね! うんうん、目玉商品が増えるのは商人として嬉しいね!」


 町から町へ移動するなら、別の町で仕入れたって言って売ればいいんだもんね!


「……これはまだまだニャーが見張ってニャいと危なっかしいニャア」


「よーし、それじゃあ次は走り大亀の盾にも合成だー!」


 こうして初めて実戦を経験した日の夜は更けていくのだった。


 ◆???◆


「……遅いな」


 すでに鋼の翼と例の小娘が町に戻ってきたという報告は町の入り口を監視していた部下からの報告で聞いている。

 にも拘らず、連中を見張っていた部下が戻ってこないのだ。


「あの馬鹿共め、一体どこで油を売っているのだ!」


 使えない部下への苛立ちを募らせていると、部屋の外が騒がしい事に気付いた。


「ええい、何を騒いでいるんだ!」


 出来の悪い部下共を叱ろうと立ち上がろうとしたその時だった。

 突然部屋の扉が大きな音と共に開くと、何かが室内に飛び込んできた。


「な、なんだ!?」


「「う、うう……」」


 室内に飛び込んできたのは、小娘を見張る為に送った部下達だった。


「なっ!?」


「よう、お邪魔するぜ」


 入ってきたのは私も知っている人物達だった。


「……鋼の翼!」


 そう、現れたのはこの町でも有数の冒険者パーティ鋼の翼だったのだ。


「おお、俺達の事を知っているとは嬉しいねぇ!」


「な、何の用だ」


 まさかコイツ等が直接押しかけてくるとは予想外にも程があった。

 ここまで直接的な手段で来るとは!


「いやな。ウチの元騎士様の弟子を狙ってる不埒物が居たんだが、なんとそいつ等がこの店の従業員だっていうじゃねぇか。これは大変だと思って店まで連れてきたんだよ」


「弟子?」


 弟子とはどういう意味だ?


「カコは私の弟子だ」


「貴女は……メイテナ=クシャク……侯爵令嬢」


 メイテナ=クシャク、彼女は鋼の翼の一員である上位冒険者だが、その経歴は王都銀嶺騎士団の副団長であり、クシャク侯爵家の令嬢。れっきとした高位貴族だ。

 その貴族令嬢の弟子だと!?


「今の私は一冒険者に過ぎない。だがカコは私の弟子である以上クシャク侯爵家の保護下にあると思え。あの子に手を出すという事は、クシャク家を敵に回す事だと知るのだな」


「なぁっ!?」


 どこの誰とも知れぬ小娘を侯爵家が守るだと!? 本気か!?

 い、いかん。たかが小娘の為に高位貴族と事を構えるなど冗談ではない!


「ご、誤解です! こんな連中私は知りませんよ! きっとウチの店の名前を勝手に使って責任逃れをしようとしたに違いありません!」


「ふーん、じゃあコイツ等は少女誘拐犯として衛兵に突き出して良いんだな?」


「ええ、勿論ですとも。」


 所詮コイツ等は捨て駒として雇ったゴロツキ。

 後で衛兵達に鼻薬を嗅がせて始末すればいい。

 イスカ草の群生地の情報は非常に惜しいが、貴族と敵対するのは分が悪すぎる。


「成る程、誤解なら良いんだ。町でも有名な冒険者御用達の店、キーマ商店が子供を誘拐するような店でなくてよかったよ」


「は、ははは、ゴロツキに名前を利用されるとは思っても居ませんでしたよ……」


 明らかにこちらの言い分など信じていない目で見ながら、鋼の翼は去って行った。

 そんな嵐が過ぎ去ったかのような室内で私の中に浮かび上がった感情は……怒りだった。


「たかが冒険者風情が……偉そうに!」


 そうだ、あいつ等は何様のつもりだ!

 私の店の商品が無ければまともに冒険も出来ん癖に!!

 腕の件だってウチの店でもっと高級な装備を整えていけばあんなことにはならなかったのだ!

 それなのに私の商売の邪魔をするとは、全く以て忌々しい! 


「だが今はダメだ。警戒されている時に手を出すなど愚の骨頂。チャンスを待たねば。機を見極める事こそ商人として最も大切なことだ」


 その為にも、今は準備だ。

 周到に、入念に準備を進めるのだ。

 幸いあの小娘は流れ者。

 町を出たところを押さえれば良い。


 イスカ草の枯渇によってロストポーションの製造は不可能になった。

 それゆえ失われた体の一部を取り戻したいと願うものは多い。

 そんな状況でイスカ草の群生地を押さえることが出来れば、ロストポーションによって貴族にすら貸しを作る事が出来るようになる。

 そうだ、イスカ草が与えてくれる利益は金だけではない。


「ロストポーションを占有すれば、王族御用達の商人になる事すら夢ではない」


 部下達が集めた情報ではあの小娘以外に鋼の翼に接触した部外者はいない。

 宿の従業員は町の住人で医者や錬金術師も失われた体の一部を取り戻す事は不可能と匙を投げたのだから無関係。

 つまり鋼の翼が復活した理由はあの小娘しか考えられないのだ!


「鋼の翼の目の届かない場所で狙う。情報を得た後は死体を魔物にでも食わせれば良い。そうすれば証拠は残らんし、あとは復活させたロストポーションで王族に取り入れば侯爵家といえど手出しは出来ん!」


 くくくっ、完璧だな。

 我ら商人は冒険者と違って目先の利益に目をくらませず、数年先の利益を見据える事が出来る生き物なのだ!


「ふ、ふふふ、はははははっ!」


 この時、鋼の翼への報復と小娘の捕縛について意識を巡らせていた私は、屋敷の屋根から音もなく降り去った影に気付かなかったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る