第18話 新たな可能性

「よし、そろそろ休憩しよう」


 魔物と戦い続けて数時間(体感)、 開けた場所に出た事でようやく私達は休憩をとることにした。


「ふいー、疲れたぁ」


 気が抜けた事で疲れが襲ってきたのか、私はその場にへたり込む。


「お疲れさん。飯の準備をするから、嬢ちゃんは休んでな」


「ありがとうございます」


 お言葉に甘えて休ませてもらおう。

 けど、冒険者ってホント大変なんだなぁ。

 合成スキルのお蔭で商人になれた私はラッキーだったよ。


「けど、沢山魔石が手に入ったね」


 私は魔法の袋から自分が倒したボールスライムの魔石を取り出す。

 その数は多く、両手いっぱいに収まる程の量だ。


「魔石かぁ。何に使えるかなぁ。ワクワクするよ」


 まぁ新人冒険者が練習として戦うような魔物の魔石だから大した価値はないみたいだけど、例えば合成スキルの素材として使えば意外な用途が見つかるかもしれない。

 そう考えると、森の中は素材の宝庫と言えるよね。……倒せればだけど。


「そういえば、薬草も森の中で見つけたんだよね」


 ふと私は今のうちに薬草も集めておくべきかなと考える。

 手持ちの薬草は全部商人ギルドに卸しちゃったからなぁ。

 それにここで採取しておけば、また合成スキルで薬草を合成して最高品質の薬草として売れるしね。


「あの、今のうちに薬草採取してきて良いですか?」


「薬草? そりゃ構わねぇが……うーん」


 けれどイザックさんはちょっと困ったような顔をする。


「何か問題があるんですか?」


「いやな、薬草はちょっと見つからねぇかもしれねぇからよ」


「薬草が見つからない?」


 え? どうして? 薬草って言ったら森に生えてるものじゃない? 私が採取した薬草も森の中にあった訳だし。


「魔物が大量に発生してるって話は知ってるか?」


「はい。町に入るときに門番さんに聞きました。


「実はな、その増えた魔物が森の薬草を食い散らかしたり踏み荒らしたりして、採取できる薬草の量が減ってるんだよ」


 ああっ、もしかしてポーションが値上がりしてるのってそれが原因!?


「それに魔物が増えてるから、薬草採取でお金を稼ぐ新人冒険者達が襲われて尚更薬草の供給が滞っているのよ」


 とパルフィさんが話に加わってくる。


 言われてみればここに来るまでも結構な数の魔物と遭遇したもんね。

 下を向いてウロウロ薬草を探していたら、これ幸いと魔物にパックリ頭を齧られかねない。


「それニャらニャーが護衛するから大丈夫だニャ」


 そこに肉球を上げたのはニャットだった。


「ニャット!」


「ニャーはカコの護衛だからニャ。薬草採取の間はニャーが守るニャ」


「ネッコ族の旦那がそう言うのなら構わねぇが、今言った通り薬草が手に入らなくても落ち込むなよ」


「はい! 分かりました!」


 でも大丈夫、丁度今良い方法が思い浮かんだからね!


「あんまり離れるなよー!」


「はーい!」


 イザックさん達に見送られ、私とニャットは森の中へと分け入っていく。

 そしてイザックさん達の姿が見えなくなったところでニャットがこちらを向いてこう言った。


「で、何を思いついたニャ?」


「あ、バレた?」


「おニャーとの付き合いは短いが、こういう時はニャにかやらかすと学んだニャ」


 どうやらニャットにはお見通しだったみたい。


「あはは……えっとね、雑草を合成して薬草を作れないかなって」


「ニャに!?」


 私の提案にニャットのヒゲがピンと跳ね上がる。


「ほら、私のスキルって別種の素材同士を掛け合わせると全く別の素材に合成できるから、違う雑草をかけ合わせれば薬草を作れるんじゃないかなって」


「お、おニャーとんでもない事を考えるニャァ……」


 心底驚いたと言いたげな様子でニャットはヒゲを撫でる。


「町は薬草不足で大変みたいだし、上手くいったら皆助かるでしょ? という訳でやるだけやってみようと思います!」


「……まぁおニャーがやりたいのニャら、やってみるニャ。ニャーは近くにいる魔物を狩ってくるニャ」


 私のやりたい事を認めてくれたニャットは、立ち上がると森の奥へと向かう。

 

「え!? 行っちゃうの!?」


 いや待って、万が一魔物が忍び寄ってきたら私死ぬ自信あるよ!


「心配しニャくてもおニャーを確認できる範囲に居るニャ。ニャーの気配察知は世界一ニャから、おニャーに魔物は近づけないニャ!」


「そ、それなら安心……かな? よ、よろしくねニャット!」


 ホントに大丈夫だよね!? 信じていいんだよね!?


「じゃ、ちょっくら行ってくるニャ!」


 そしてニャットはあっという間に姿を消してしまった。


「……よ、よーし、それじゃあ合成タイムだよ!」


 魔物の恐怖を強引に誤魔化すと、私は採取用の手袋を身に着ける。

 採取する素材の中には危険な毒草もあるからね。

 準備が出来た私は、まだ鑑定が出来ない雑草を引っこ抜いて合成を始める。


「合成! そして鑑定!」


『モイトン草:噛むとスッとする草。食事のアクセントに。良く繁殖するので植える場所は気をつけた方が良い』


「えっと、ミントみたいな奴かな?」


 まぁ毒草が出来るよりはいいか。

 鑑定に使った草はどんな草かな?


『ズク草:凄まじい繁殖力で増える草。特に用途はない』


『レブカ草:触るとかぶれるので素手で触らない方が良い』


 うわぁ、微妙だぁ。あとレブカ草は手袋してて良かったよ。


「次いってみよう!」


 そうして何種類もの雑草をどんどん合成していき、雑草鑑定リストが凄まじい勢いで増えてゆく。


「うおお、予想以上に雑草の種類が多い……雑草って、なんだっけ」


 雑草を合成して雑草を作るの物凄く心が虚無になるぅ……

 その時だった。


『スクリ草:ポーションの材料になる薬草。煎じて傷薬として使う事も出来る』


「き、きたぁぁぁぁぁ!!」


 遂に薬草ことスクリ草の合成に成功した私は、ソシャゲでSSRが来た時のような興奮に襲われる。


「おおー! ただの薬草だけど、これはただの薬草じゃない!」


 自分でも何を言っているのか分からないが、この興奮を察して頂きたい。

 私はウキウキしながらスクリ草の合成に使った草を確認する。


「えっと、確かこれとこれだったよね。鑑定!」


『ロアエ草:傷口に塗ると血止めの効果がある』


『キカ草:煎じるとキカ茶として飲める』


 なるほど、この二つで薬草が合成できるんだね。

 キカ草は煎じるとお茶になるあたり、ポタン草と同じような感じなのかな?

 念のため私はちゃんとこの二つでスクリ草が合成できるのか確認する為に再度合成を試す。


 するとしっかりスクリ草が合成できた。

 更に、驚く事がもう一つ起きた。


『合成スキルが成長しました。一括合成が解放されました』


「え?」


 成長!? スキルが!? それに一括合成って!?


 目の前に浮かんだポップアップウインドウをスクロールすると、説明文が表示される。


『一括合成:一度合成した素材の名称を指定すると纏めて合成する事が出来る』


「おおっ!! これは凄い!!」


 つまりクラフト系ゲームで言えば、アイテムを作成する時に何個作るか自由に選べる感じだね!

 うおお! これは便利だよ!


「あっ、これなら手当たり次第に雑草を引っこ抜いてもスクリ草に必要な素材だけ消費されるんじゃないかな!」


 試しに雑草をいくつか適当に引っこ抜いて合成を試してみる。


「スクリ草を作れるだけ合成!」


 すると雑草の小山が光り、数本のスクリ草が現れた。


「やった! 大成功! 使わなかった雑草も残ってるね。これは鑑定できるのかな?」


 しかし一度合成に成功したもの以外は鑑定に引っかからなかった。


「成る程、合成に使わなかった未鑑定の雑草は合成した事にならないんだね」


 それでも便利な事には変わりないよ。

 これでスクリ草の大量生産だって可能になる!


「よーし、魔法の袋に収まるだけ合成するぞー!」


 私は雑草を無造作に引っこ抜くと、合成を繰り返しスクリ草を量産してゆく。


「こんなもんかな。あっ、でも合成したスクリ草を全部持って帰ると、スクリ草を取り尽くしたと思われちゃうかも」


 ゲームでも次に採取する時の為に全部取らずに必要な分だけ採取するって言ってたし、もし根こそぎ採って来たと思われたら怒られるかもしれない。


「よし、少し残していこう!」


 私は合成したスクリ草の一部を地面に植え直して、最初からここに生えていたかのように偽装する。


「よーし、これでおっけー! あとは何食わぬ顔で戻るだけだね。ニャットー! そろそろ帰るよー!」


「……分かったニャー」


 こうして私は薬草の合成レシピとスキルの成長と言う予想外の成果を得て皆の下に戻るのだった。


 ◆ニャット◆


「じゃあ近くの魔物を狩ってくるニャ」


 カコが合成スキルでスクリ草を作ると言うので、ニャーは周囲のゴミ掃除をすることにしたニャ。


「いってらしゃーい」


 全く以って危機感のニャい娘ニャが、まぁそれがあの娘の持ち味ニャからしゃーニャい。

 

 ニャーはある場所を目指して移動を始める。

 ただしまずは目的の場所の真逆の方向にあえて進むニャ。

 そして完全な死角に入った瞬間、大きく回り込むように目的の場所へと向かうニャ。


 そこには二人の人間達の姿があったニャ。

 そいつらはまだニャーが後ろに迫っている事にも気付かず、間抜けにも背中を晒していたのニャ。

 

「あのガキ、何やってるんだ?」


「薬草採取だろ。それよりも護衛が居なくなったんだ。攫うなら今じゃないか?」

 

 やっぱりそうかニャ。

 こいつ等はカコがやらかした事を知って金になると思った連中だニャ。


「へへっ、護衛対象から離れるなんざ、マヌケな護衛だぜ」


「マヌケはお前等だニャ」


「「え?」」


 ニャーは背後から不審な二人を襲い、意識を刈り取ったニャ。

 弱い、弱すぎるニャ。所詮誘拐犯なんてこんなモンにゃ。


 まったく、護衛が突然姿を消して不審に思わないなんてコイツ等こそマヌケにも程があるニャ。

 だがニャーは油断などしニャいニャ。


「それで、おニャーはいつまで隠れているつもりニャ?」


 ニャーの放った殺気に背後に潜んでいた者の気配が動揺する。


「気付いていたのかい?」


「当然だニャ。ネッコ族の鼻を甘くみるニャ」


 姿を現したのはマーツと名乗っていた冒険者達の仲間だったニャ。


「森でエルフの上を行かれると立つ瀬がないんだけどね」


「おニャーの目的もこの連中かニャ?」


 ニャーは倒した二人に爪を向けて尋ねたニャ。


「ああ、カコちゃんを狙っている相手が何者なのかを調べようと思ってね。君が先に捕まえてしまったけど」


 やはりコイツは敵じゃなかったニャ。この二人と違ってこいつからは敵意も悪意を感じニャかったからニャ。


「まどろっこしいニャ。コイツ等はどうせ雑魚ニャ。適当に脅してボスの所に案内させた方が早いニャ。そう言うのはおニャー等の得意技ニャ?」


「いやいや、エルフが尋問や拷問が得意と思われても困るよ。まぁ出来ない事はないけどね」


 そうかニャ? ニャーの知るエルフには結構邪悪な連中も居たニャよ? それを言ったら人間もおニャじだけどニャ。


「面倒なのはおニャーらに任せるニャ。ニャーは襲ってくる相手を叩きのめす方が得意ニャからな」


「はは、だろうね」


「そろそろ帰るよー、ニャットー!」


 おっと、用事は終わったようニャ。


「カコが呼んでるから帰るニャ。この件は元々おニャー等の不始末が原因ニャ。ケツは自分達で拭くニャ」


「ああ、分かったよ」


 まったく、歯ごたえのない賊だったニャ。

 これならボールスライムの方がよっぽど歯ごたえがあったニャ。

 アイツ等はポンポン跳ねてニャーの狩猟本能が激しく揺さぶられるからニャ!


 けど、カコが実戦経験を積めたのはよかったニャ。

 その方がカコが色々な意味で成長するからニャ。

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