第20話 魔勢来たる

「うーん大量大量!」


 私達は収穫した変異種の魔物の魔石と最高品質の薬草を鞄がパンパンになるまで詰めてホクホクで帰路についていた。

 先日魔石を合成すると、変異種の魔石になると知った私はニャットに頼んで森に連れて行ってもらい、魔石狩りに勤しんでいたのだ。


 私はもっぱらボールスライム専門で、ニャットはそれ以外の魔物を担当。

 そしてある程度狩ったらその場で合成を繰り返して変異種の魔石に変えて魔法の袋のスペースを確保を繰り返す。


 完全に私の都合に付き合ってもらう形になったけど、ニャットとしても魔物との戦いは鍛錬になるので快くOKをくれた。

 代わりにお昼ご飯は私が作ることになったんだけどね。


「うーん、やっぱりおニャーの料理は美味いニャ! 魔物狩りをしながら美味い物が食べれるのならこれからはおニャーを連れて狩りに行くのもありだニャ!」


 との事だった。

 まぁ私としてはあんまり強そうな魔物の居る森の奥には行きたくないんだけどね。

 途中で襲ってきた魔物の中には明らかに私が戦ったら死ぬようなのが何匹もいたし。


 あとは雑草を合成して薬草を作り、それらを更に合成して最高品質の薬草も採取した。

 スキルが成長した事で量産も楽になったしね!

 ついでに擬装用の薬草群生地も作っておいたから、薬草の採取場所のアリバイもバッチリ。


「でもちょっと長居し過ぎちゃったね。暗くなる前に戻らないと」


「そうだニャ。スピードをあげるからしっかり捕まっているニャ!」


「う、うん!」


 今日はメイテナさん達も居ないので、ニャットの背に乗せて貰う事で移動時間を短縮中だ。

 そしてスピードアップの発言は伊達ではなく、数時間も立たないうちに町の城壁が見えて来た。

 ただ、町の姿を見た私は何かおかしいと感じた。


「あれ? なんだろう?」


「ニャ?」


 町の入り口に立っている門番さんがこちらを見て大きく腕振って何かを叫んでいる。

 一体何を叫んでいるんだろう?

 町に近づくにつれ、門番さんの声が聞こえてくる。


「早……れ!」


「何かな、良く聞こえないよ」


「早く……町には……れ……!!」


 そうしてようやく門番さんの声が聞こえる距離まで近づく。


「早く町に入れ! 魔物の群れが近づいてきている!!」


「ええっ!?」


 魔物の群れ!?


「入町税はいらん! 早く入れ!!」


「分かったニャ!」


 ニャットはスピードを落とすことなく町に入ると、すぐに門番さんも門の内側に入る。

 すると門が音を立てて閉まり、太い閂が門に差し込まれる。


「あの、魔物の群れってどういうことですか?」


 ニャットから降りた私は門番さんに何が起こったのか尋ねる。


「ん? あれ? 嬢ちゃんはこないだの。この町に戻って来たのか?」


 正しくは森に採取に行っただけだ何だけどね。


「ええとだな、前に町に来た時に魔物がやたらと徘徊するようになったって言うのは聞いたよな?」


「ええ。その所為で森にも魔物が増えて薬草が採取しづらくなったんですよね?」


「そうなんだ。で、別の村の方面から森に向かっていたいた冒険者達が偶然魔物が町の方角に向かっていくのを見かけて町に伝えに来てくれたんだ」


「なんで町にくるんですか!?」


 ゲームの防衛戦じゃあるまいし、なんで都合よく魔物の群れが町にくる訳!?」


「魔物の大半は肉食だからニャ。森の獣の数が減った事で大量に肉の食える場所を求めて移動を始めたんだニャ。よくよく考えると今日は森の中の魔物の数が少なかったからニャ」


「あれで!? 寧ろ結構な数が居たと思うんだけど!? ボールスライムとか一杯いたじゃん!」


「ボールスライムの体は水みたいニャものだから魔物の餌にはニャらないんだニャ」


 あー、言われてみれば確かに。スライムの体はゼリーみたいなものだもんね。


「野生の獣と違って魔物は人間を獲物にするニャ。で、人を喰った事のある魔物が人の匂いが強い場所に向かえば当然森から近いこの町が狙われるって寸法だニャ」


「何それ、魔物ってそんな簡単に人間を襲ってくるわけ!?」


「勿論魔物だって安全に倒せる相手や近くにいる相手を狙うニャ。けど人間は一部を除いて戦いに向かニャい奴も多いニャ。おニャーのようにニャ」


 うう、そう言われると否定できない。


「ネッコ族の旦那の言う通りだ。既に領主様の騎士団が出陣して町の近くにある平野で魔物を迎え撃っている。非常事態だからな、特例で入町税を免除して門を閉める所だったんだが、アンタ達は運が良かったよ。いや、そんな時期に町に来たのは運が悪かったのかもな」


 な、成る程、私達はあと少しで魔物が向かってくる町の傍で締め出しを喰らうところだったんだ……あっぶなー。

 そしてさっき感じた違和感の正体も分かったよ。

 町の入り口に入町税を支払う為の行列ができていなかったんだ。



「なぁ、アンタネッコ族って事は戦士なんだろう?良かったら防衛隊として町を守る為に戦ってくれないか? 冒険者ギルドも町を守る為に冒険者に特別依頼を出しているんだ」


「ふむ、ニャーはかまわんニャ」


「ニャットも戦うの?」


 門番さんに頼まれたニャットが頷いたので、私は本気かと尋ねる。

 魔物の群れってどれだけ来るか分かんないんだよ?

 イザックさんだって凄く強い冒険者なのに魔物の群れに襲われて片腕を無くしちゃったんだよ?


「ニャー達ネッコ族は名誉ある戦いを望む種族ニャ。なら町を守る戦いは望む所なのニャ。カコは宿に戻っているニャ」


「う、うん。分かった」


 ニャットがそうするって言うのなら、私にこれ以上止める権利はない。

 元々ニャットの護衛は旅をしている間だけだしね。今日みたいに採取の手伝いをしてくれた事の方が特別なんだ。


「カコ、念のため鎧は着たままでいつでも逃げれるように鞄も傍に置いておくニャ!」


「分かった! ニャットも気をつけてね!」


 ◆


 宿に戻った私はずっとソワソワしていた。

 だって町はこんな状況で皆不安そうだし、合成の練習用の素材を買うにも露店やお店がやってるかも分かんないし。


「あるのはボールスライムの変異種の魔石とニャットに分けて狩って火傷狼の変異種の魔石と腕角野牛の変異種の魔石、それに最高品質の薬草の束だけ……


「あっ、そうだ! 薬草は役に立つかも!」


 魔物の群れと戦うって事は、怪我をする人も多い筈。

 私の薬草も皆の役に立つ筈!


「よし! 薬草を商人ギルドに持って行こう!」


 私も自分の出来る事をするよニャット!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る