第12話 失われたポーションを合成しよう!
「ではポーションを合成します!!」
無事ポーションを購入して宿に戻って来た私は、さっそく合成実験を始める事にした。
「おー、だニャ」
ベッドでゴロゴロしていたニャットがマクラをバフバフ叩きながら合いの手を上げる。
在庫不足もあって買えたのはポーションが5本とハイポーションが2本。
これは無駄遣い出来ないね。
まずはポーション同士を合成して鑑定を出来るようにするよ!
「ポーションとポーションを合成! そして鑑定!!」
『普通のポーション:傷口にかけると傷が治る。飲むと体内から満遍なく癒す』
「普通の品質のポーションって事は……これもしかして低品質のポーション!?」
私はすぐに買ってきたポーションを鑑定してみる。すると予想通り……
『低品質ポーション:薬液で薄めたポーション。効果は通常のポーションよりも劣る』
「くっ! 子供だと思って侮られたか!!」
おのれあの店員め!
「そうとも限らないニャー」
けれどニャットがそうじゃないかもしれないと声を上げた。
「え? そうなの?」
「店員も言っていたニャ。ポーションが足りニャいって。普通ならポーションの水増しは店の評判を下げるからやらニャいが、場合によってはやむを得ないと判断される事もあるニャ」
そんなのアリなんだ!? 日本なら薬の水増しで薬効が減ったと分かったら訴訟物だよ!?
「ポーションは冒険者にとって命綱だからニャ。手に入らないくらいなら薄めて多少効果が減ったとしても欲しいものだニャ。それに思い出すニャ、町に入る時に言われた事を」
町に入る時って言うとあの時の門番さんとの事だよね。
「確か……近くで魔物が増えてるって」
だから入町税が高いんだって言ってたっけ。
「そうニャ。どうやらこの町は見た目ほど安全じゃないみたいだニャ。だからポーションの水増しをするくらい量が少ないのニャ」
「こんなに平和そうに見えるのに……」
ふと見えない所から何かが迫って来ている気がして背筋がゾワリとする。
「それを悟らせないようにするのが為政者の手腕と言うヤツだニャ。そんな為政者でも誤魔化せなくなったらもう町を捨てて逃げるしかないニャ」
おお、シビアな世界だ……
「おニャーも商人になるのニャら、商品の情報からこのくらいの裏を読み取れるようになるニャ」
と、これまでの不穏な空気を振り払うようにニャットはひっくり返って私にもっと察しが良くなれと言う。
「分かりましたニャット先生!!」
ニャット凄いな! 私じゃそこまで考えつかなかったよ!
「さて、それじゃあニャーはちょっと出かけてくるニャ」
そう言うとニャットはヒョイと起き上がってベッドから降りる。
「え? どこに行くの?」
「冒険者ギルドが魔物退治の依頼を大々的に発表したニャ。ニャーも飯代を稼ぐ為に働いてくるのニャ」
そっか、私の護衛はあくまでも同じ道を歩いている間だけだし、報酬は料理だもんね。宿代や普段の食費は自分で稼がないといけないもんね。
それにこのタイミングでそんな依頼が出たのなら、今話していた魔物の話が無関係とは思えない。
「うん、私も今日は合成をするから護衛は必要ないよ」
「夕飯までには帰ってくるニャ」
「行ってらっしゃーい!」
ニャットを見送った私は不安な気持ちを振り払うべく合成を再開する。
残ったのはハイポーションが2本と普通品質のポーションが1本、そして低品質のポーションが3本だ。
「となると次に作るのはやっぱりアレだよね!」
私は魔法の袋からイスカ草を取り出す。
そう、今回の本命であるロストポーションだ!
「と思ったけど、ポーションが低品質だったし、ハイポーションは鑑定を兼ねて合成しておこうかな。ハイポーションを合成! そして鑑定!」
『普通のハイポーション:ポーションより性能の良い回復薬。千切れた手足を繋げ神経も修復する』
「やっぱりかー」
念のため合成しておいてよかったよ。
けどハイポーションは千切れた体を繋げることが出来るんだ! 流石『ハイ』ポーション!
「さて、それじゃあ今度こそ本番だよ! ハイポーションとイスカ草を合成!!」
何時ものようにピカッと光りが迸り、その光が止むと私の手元には先ほどまでと違うポーションが姿を現した。
「色が違うね」
ポーションが緑色でハイポーションが青色だったのに対し、このポーションは赤色と明らかに違うものだった。
「成功したのかな? 鑑定!」
私は出来上がった赤いポーションを鑑定してみる。
『ロストポーション:失った部位を再生させる効果がある回復薬。ただし傷の治療効果は低い。また使用期限が普通のポーションより短いので注意』
「おー! 完成した!」
よかった! これでイスカ草を有効利用できるよ!
でもロストポーションは純粋なポーションとしての効果は低いんだね。
失った部位の再生に特化してるからなのかな?
「けどこれがあればいざという時に便利だね! しかも金貨1000枚の価値があるから貯金ならぬ貯ポーショ……ってアレ?」
ふと私はロストポーションの説明に書かれていた文章に引っかかってもう一度文章を読み直す。
『ロストポーション:失った部位を再生させる効果がある回復薬。ただし傷の治療効果は低い。使用期限が普通のポーションより短いので注意』
……使用期限が普通のポーションより短いので注意。
「しようきげんがふつうのぽーしょんよりみじかいのでちゅういっっっ!?」
えっ、何それ聞いてない!ポーションって賞味期限、いや消費期限があるの!? しかも
ロストポーションはそれよりも短いの!?
「うおお、マジぁぁ……って事はいざという時の為の薬箱として使うのは無理なんかぁ……」
折角売って良し残して良しの財産として使えると思ってたのに……
いやよく考えたら薬草にも鮮度があるんだし、ポーションにも消費期限があるのは当然といえば当然だよね。
現代日本の食べ物や薬の賞味期限が長いのは清潔な環境で密封する技術が凄いからなんだし。……確かそうだったよね?
「って事はこのロストポーションもさっさと売らないと宝の持ち腐れかぁ。でもなぁ……」
困ったのはロストポーションの取り扱いだ。
何せ今じゃ材料が無くなって作れなくなった幻のシロモノ。
下手に話題になったらどうやって作ったのかと質問攻めにあうだろう。
最悪ニャットが言った通り、誘拐されて延々と合成をさせられる人生になりかねない。
「うーん……」
私はどうやってこのロストポーションを金に換えるかと頭を悩ませる。
それに売るにしても消費期限が短いなら買い手がいないと売る事すら出来ないだろう。
最悪自分の身を危険にさらすだけで終わりかねない。
たまたまロストポーションを欲している人が……そんな都合よく居る訳無いかぁ。
「うーん…………」
ぐぅっ
と頭を悩ませていたらお腹が鳴った。
「……よし、ご飯にしよう!」
うん、空腹じゃいい考え何て出てこないしね!
栄養を摂取してから改めて考えよう!
そう決めた私は出来上がったロストポーションを魔法の袋に入れると、一階の食堂に向かった。
◆
「え? 厨房が使えないんですか!?」
意気込んで一階の食堂に降りて来た私だったけど、そこで待っていたのは厨房が壊れて料理が出来ないと言う無慈悲な宣告だった。
「ああ、ここのところ酷使し過ぎちまってね。今職人に頼んで直して貰ってるところなんだ」
女将さんが申し訳ないねぇと謝って来る。
「そんなぁ……」
うう、ガッツリご飯を食べようと思っていただけに肩透かしで猶更お腹が空いて来たよ。
「夕飯までには直るみたいだから、昼は外で食べてきておくれ」
「分かりました」
外かぁ。ニャットには宿にずっと居るって言っちゃったけど……
「まぁお昼だしそうトラブルには見舞われないでしょ。なるべく宿の近くにある屋台で買ってすぐに宿に戻って食べれば良いか」
そう決めた私は魔法の鞄をかけ直して宿を出た……その瞬間。
「あっ!?」
「え?」
ゴチーーーーンッ!!
突然物凄く硬い物がぶつかってきた感覚を受け、意識を失ったのだった。
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