第11話 ポーションを買いに来ました
再び市場にやって来た私は、ニャットと共にポーションを探す為に市場を練り歩いていた……のだが。
「どこにも売ってない!」
「ないニャア」
そう、ポーションの姿は影も形もなかったのだ。
一体どういう事? もしかしてこの世界でポーションって物凄く貴重な品とか?
だとするとこの町では手に入らないのかな?
「うーん……そうだ! あそこで聞いてみよう!」
私が向かったのは商人ギルドだった。
ここならポーションの情報についても教えて貰えるだろう。
さっそくいつもの受付のお姉さんの窓口に向かう。
「あら? マヤマカコさん? 今度はどのようなご用件で?」
ついさっきもお金を降ろしに来たのに一体何事だろうとお姉さんが首を傾げる。
「えっとですね、ポーションの売っているお店を知りたいんですけど」
「ポーションですか? それなら手前の大通りを一つ右に入った通りにキーマ商店という冒険者向けのお店がありますから、そこで買うと良いですよ」
「冒険者向けのお店ですか!?」
「はい」
おおー、冒険者! ゲームだと良く出てくるワードだよね!
やっぱり荒くれ者が多いのかな!?
けど冒険者が買うような品なら、普通に買えるアイテムっぽいね。
「ありがとうございます! でも何で市場の露店にはなかったんでしょうか?」
「市場に行ってきたんですか? クスッ、それはそうですよ。町で長く商売をしている店ならともかく、露店のどこの誰が作ったのかもよく分からないポーションを飲みたがる人なんていませんよ。最悪適当な草を混ぜた野菜汁の可能性があるんですから」
「あっ、そっか」
言われてみればそうだよね。地球のフリーマーケットで格安の薬が売っていたら誰だって怪しんで買わないだろうし。
しかもこっちじゃ地球の薬や栄養剤みたいに工場で密封して未開封か確認できる訳じゃないから猶更危険すぎるかぁ……って!?
「もしかしてニャット、知ってて黙ってたの!?」
「いやー、おニャーがいつ聞いてくるかと待ってたんニャがぜーんぜん聞いてこニャかったからニャア」
ウソだ、コイツ絶対分かってて黙ってたな!!
その証拠に鼻がプスプス鳴ってるもん!
「こ、こんにゃろう……」
「クスッ、まぁ腕利きの錬金術師や鑑定スキル持ちなら見ただけでポーションの質が分かるそうですけど、専門知識のある人間なら自分で作りますし、そう言う人間しか買わないのなら売る方も手を出そうとはしませんね」
とお姉さんがニャットを庇うように補足説明を入れてくる。
あれ? そうなるとポーションって商品としては向かない?
「じゃあポーションを売る旅の錬金術師とか居ないんですか?」
「いえ、居ますよ。そう言う人達はポーションの鑑定が出来る人が居るお店に売るんです。先ほどお教えしたキーマ商店などがそうですね」
成る程、鑑定スキルの持ち主が居る店なら売る方に取っても安心して売れる訳か。
もしくは薬剤師のいるドラッグストアみたいな感じなのかな?
「ただ……」
とお姉さんの表情が曇る。
うおお、美人は困った顔になっても美人だな。
ちょっとジェラシー。
「今はポーションの入荷が滞っているみたいで価格が上がっているみたいなのです」
なんと! ポーション不足とな!?
これは困った。しかも価格が上がってるのか。
となるとあんまり沢山は買えそうにないなぁ。
それに早くしないと売り切れちゃうかも。
「教えてくれてありがとうございます! それじゃいこニャット!」
「随分遠回りだったニャア」
こやつ、まだ反省しとらんな。ならば!
「ニャットの所為で足が疲れちゃったから乗せてね!」
言うや否や、私は有無を言わさずニャットの背中に乗る。
「ニャッ!?」
突然背中に乗られてニャットが驚きの声を上げるが知った事ではないのだー!
「さーゆけニャット!!」
「ニャーの仕事は護衛であって馬じゃないニャ!」
文句を言いながら体を左右に振るニャットだったけど、その動きは本気で私を振り落とそうとするような激しさは無かった。
「あっ、でも激し過ぎて気持ち悪くなって……」
「ギャー! 止めるニャ! ニャーの背中で吐くニャ!!」
◆
「おー、ここが冒険者のお店かー」
お店に入ってまず目に入ったのは武装した沢山の男の人達だった。
彼等は革製の鎧を身につけていて、腰から剣が下げられている。
漫画と違うのは槍や斧にはカバーが付けられていることかな。
確かによく考えたら剣は鞘に納めているのに他の刃物は出しっぱなしと言うのは危険すぎるもんね。
っていうか魔物と命がけで戦ってる人達なだけあって迫力あるわ。
ニャットが付いて来てくれてよかったかも。
「何だ? 子供?」
「間違えて入って来たのか?」
「小さい、可愛い」
気を取り直して店内をキョロキョロと見回していたら、小声にならない様な小声でそんな声が聞こえて来た。
って誰が子供やねん! 確かに日本人は子供っぽくみられるって言うけど、私はそこまで幼くないぞ! 成人はしてないけどそこの駆け出しっぽい冒険者君と同い年じゃぁーっ!
あと最後に呟いた奴ロリコンか!? ロリコンなのか!?
「えっと、お嬢ちゃん、ここは冒険者の店だよ?」
冒険者達と同じことを考えたのか、店員らしきお兄さんがどうしたもんかなって感じで私に話しかけて来た。
「お嬢ちゃんじゃありません。このお店に用があってきました」
ここはハッキリと違うと言っておかないとね! お嬢ちゃんじゃないって!
「ウチに? もしかして冒険者になるために来たのかい? 悪い事は言わないからやめておけって。冒険者は危険なんだ。お嬢ちゃんみたいな細っこい娘じゃあっという間に魔物に食われちまうって!」
どうも私は冒険者志願の若者と勘違いされたっぽい。
まぁ細っこいというのは否定しないけどさ。
「違います。私は商人です」
「商人!? お嬢ちゃんが!?」
商人と言われて余程驚いたのか、お兄さんが目を丸くする。
「今日はポーションを買いに来たんです」
「ポーション……ああ成る程。お父さんのお使いか!」
すると何を勘違いしたのかお兄さんは納得したとポンと手を打つ。
「そういう事か。子連れの行商人の娘か」
「成る程、親に言われてポーションの補充に来た訳だな」
「だがさすがに一人で行かせるのが心配でネッコ族を同行させたのか」
「モフモフと少女の組み合わせ可愛い」
しかも周りの冒険者達も私がポーションを買いに来た理由を初めてのお使いみたいに解釈を始め、凄く生暖かい眼差しでガンバレと言いたげにこちらを見ていた。
そこまで子供ちゃうわーっ!!
「ブフニャッ!!」
「笑うなニャットーっ!!」
「えっと、それでお父さんからは幾つ買って来いって言われたんだい?」
もう完全に初めてのお使いムードになっているお兄さんがポーションをいくつ要るのかと聞いてくる。
ああもう説明するのも面倒だしそれで良いや。
「えっと、あとハイポーションってありますか?」
まずはロストポーションの材料になるハイポーションの事から聞いてみる。
「ハイポーションかい? 冒険者以外でそれを欲しがるのは珍しいね」
私の注文にお兄さんは意外そうな顔になる。
「珍しいんですか?」
「ああ、ハイポーションはポーションよりかなり深い傷が治るんだけど、街道で襲ってくる魔物相手にはちょっと過剰かな。まぁどんな危険な魔物が襲ってくるか分からないから一本はあると安心できるだろうけどそれでも値段は段違いだからね」
「ちなみに普通のポーションとどのぐらい値段が違うんですか?」
「そうだね、普通のポーションが銀貨10枚で、ハイポーションは金貨2枚だね」
「金貨2枚!?」
えっと、銀貨100枚で金貨1枚だから、ハイポーションはポ-ションの20倍のお値段!?
「凄くお高いんですね……」
「ああ、ポーションで治らない深い傷が治るからね。だからアレを買うのはそれだけ危険な場所に行く冒険者くらいかな。勿論一流の冒険者になると収入も多くなるから安全な冒険でもハイポーションを常備するって話だけど」
そんなに貴重な品だったのかハイポーション。
ゲームじゃ雑に使いまくってすみません……
「それとね、今はポーションが不足しているから値上がりしてるんだよ。本当ならこの半分の値段なんだ」
「値上がりですか……」
そういえばお姉さんもそんなこと言ってたな。
とはいえここまで来た以上買わない手はないし、それ以上の儲けを出せばいいだけの事。
あとハイポーションがこれだけ高かったんだから、アレのお値段がいくらになるのか聞きたくなってきたよ。
「じゃあロストポーションとかはいくらくらいになるんですか?」
「ロストポーション? そんなものよく知ってたね」
おっ、お兄さんの反応からもロストポーションはかなり珍しい品みたいだね。
「そもそもロストポーションはもう材料が無くて作れないって聞くし、もし手に入るとしたら金貨100枚、いや希少性を考えると金貨1000枚でも欲しがる人はいるだろうね」
「金貨1000枚!?」
凄い! たった一個で私が売った薬草全部より高いの!?
「まぁ実在したらの話だけどね。噂じゃ王都の大きな錬金術師一門が別の素材を使ってロストポーションを再現しようとしているって話だけど、まぁ上手くいってはいないみたいだよ」
別の素材、つまりジェネリックポーションってとこかな?
でもそうか、プロの錬金術師でも研究は難航してるって事はやっぱりロストポーションの価値は高いんだね。
「で、本当にハイポーションを買うのかい? 今は金貨2枚だよ?」
と、お兄さんが話をハイポーションに戻す。
そうだなぁ。値段の高さには驚いたけど、元々それを買う為に来たんだしね。
「はい、ハイポーションを5本と普通のポーションを20本ください」
「ごっ!?」
5本と言われてお兄さんがはぁっ!? って顔になる。
分かるよ。日本円で数百万円だもんね。
「マジかよ!? どこの金持ちの娘だ!?」
「もしかして高ランク冒険者の関係者か?」
いかん、なんか聞き耳を立てていた冒険者達がまた変な勘違いを始めた。
「お金はありますので、商品をお願いします」
さっさと買って帰った方が良いと判断した私は、魔法のカバンから金貨12枚を取り出して店員さんの手に握らせる。
「ほ、本物の金貨……あ、いやその、今はポーションが不足してるのでさすがにその数は……」
と、お兄さんが申し訳なさそうに頭を下げてくる。
そっか、確かに命に係わる品だもんね。買い占めたら冒険者さん達も困っちゃうか。
「じゃあ半分でハイポーション2本とポーション5本でお願いします」
「そ、それなら大丈夫です。少々お待ちください!」
お兄さんは急いで店の奥に行くと、すぐに小さな木箱を持って戻って来た。
「こちらがご注文のハイポーション2本とポーション5本となります。商品は宿までお届けしましょうか?」
先ほど見せた金貨12枚の効果は抜群だったみたいで、お兄さんは打って変わって丁寧な口調になっていた。
うーん、魔法の鞄で私を騙そうとしてた詐欺師のおじさんの言ってたことはホントだったんだなぁ。
「いえ、魔法の袋があるので大丈夫です」
私はお金を支払うと、受け取ったポーションを箱ごと魔法の袋に収納する。
「「「「魔法の袋!?」」」」
もう冒険者達も聞き耳を立てようともせず一緒になってお兄さんと驚いてるな。
うーん、普通にポーションを買いに来ただけなのに目立ってしまった。
とはいえ、客が居ない時間帯にまた買いに来ようにも客が来ない時間帯とか分かんないし、買い物もせずに何度も出入りしたらそれはそれで不審者だしねぇ。
「もしかして平民に扮した貴族のご令嬢なのか? 護衛もいるし」
「だな、幼い割に言葉遣いがしっかりしすぎている」
おぉう、遂に貴族令嬢にまで勘違いされちゃったよ。
しかし誰が幼いやねん! 私は立派なレディじゃい!
「プッ、ププニャ……」
そこのニャット笑うニャー! あっ、いかん口癖がうつった。
けど悔しいけれどニャットについて来てもらったのは本当に正解だった。
使った額が額だしね。でも今後も高価な品と知らずに買い物する機会はあるだろうし、なるべくニャットには買い物の際について来てもらおっと。
少なくとも私がこの世界のおおよその物価をしっかりと理解するまではね。
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