第13話 女騎士?との出会い

「本当にすまなかった!!」


 宿を出た直後に何かと勢いよくぶつかった事で意識を失った私だったけど、目が覚めたら知らない女の人に謝られた。


「はぁ……」


「私の不注意で本当に申し訳なかった」


 私に頭を下げているのは金属の鎧、いわゆるプレートメイル? ってヤツを着た女の人だった。

 といっても歴史の授業とかで見るような無骨な全身鎧ではなく、要所要所を金属部品で守るいかにもファンタジーな感じの金属鎧だね。

 姫騎士とかそんな感じのヤツ。

 ただ、金属鎧の面積は結構あって、どうもあれが死角から勢い良くぶつかってきたみたいなんだよね。

 ……良く生きてたなぁ、私。


と言うか何故そんな事になったのかさっぱりなので、事情を説明してほしいところなんだけど……


「本当にすまなかった。詫びと言ってはなんだかこれを使ってくれ」


「これって……」


 そう言って女騎士さんが差し出してきたのは、ポーションだった。

 でもあれ? なんか私の知ってるポーションに比べて随分と色が綺麗なような。

 私はこっそり受け取ったポーションの鑑定をしてみる。すると……


『高品質ポーション:通常のポーションよりも回復量が多い』


 おお! 高品質ポーションだ!

 成程、高品質なポーションは見た目が分かりやすく綺麗な色になるんだね!


 それにしても確かポーションって1万5千円相当だった筈だから、高品質という事を考慮すると2万円くらいするんじゃないかな?

 そんな高価な品をポンとくれるなんて、この人本当に騎士だったりしない!?


「あの、特に怪我もしていませんし、貴重なポーションを頂くわけにはいきません。これはお返しします」


とはいえ怪我もしていないのに高い薬を貰うのも気が引けたので、私は女騎士さんにポーションを返品しようとした。 

けれど女騎士さんは頑として返品を受け付けなかった。


「いや、気を失うほどの衝撃を受けたのだから飲んでおいたほうが良い。後で具合を悪くしたらたいへんだ」


 うっ、それを言われると反論し辛い。

 日本に居た頃も頭をぶつけた直後は何ともなかったけど、それが原因で後で大変な事になったり命を失ったという話をテレビとかで見た覚えがある。


「それにこれは大した品ではない。こんな物で治るような怪我なら、すぐに飲んで治した方が良い」


 そんな事を言いながら、女騎士さんの表情が陰る。

 うん? 今の反応ちょっと気になるな。


「お知り合いの方が大きな怪我をしたんですか?」


「っ!? いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」


 いやいやいや、その反応は全然何でもない事ないでしょ。

 これは間違いなく何かあったわ。


「差支えなければお話を聞かせて頂けませんか?」


「いや、子供に聞かせるような話でもないさ」


 ……ほっほーう? 私が子供ですかぁー。



「あいたたた」


 私はわざとらしく痛みを訴える。


「だ、大丈夫か!? やはり痛むのか?」


「うう、こんなに痛い思いをしたのに事情も聞かせてもらえないなんて……」


「うぐっ……」


 くっくっくっ、私を子ども扱いした以上、ただで帰れると思うなよ!

 洗いざらい事情を話して貰おうじゃないの!


「……分かった」


罪悪感を刺激された女騎士さんが遂に観念する。


「ただしポーションはちゃんと飲んでほしい。それが事情を話す条件だ」


「分かりました」


 言質を取った私は即座に手の中のポーションを飲み干……


「うげっ!?」


 マッズ!! ポーション不味っ!!

 うげげ、栄養ドリンクみたいなものだと思ってたら、何とも言えない青臭い味が口中に広がって来た。

 苦いというかくどいというか、飲み干したあとの喉にひっかかる感じでメチャクチャキツイ!!

青い感じの汁を数十倍不味くしたらこんな感じになるのか!? いや飲んだことないけど。


「うぐぐ……の、飲みましたよ」


「苦かったか? これでも飲んで口の中をさっぱりさせろ」

空になったビンを返すと、彼女は苦笑しつつも近くの屋台から飲み物を買って差し出してくれた。

あっ、こっちはさっぱりして美味しい。オレンジジュースっぽい感じ。

私が落ち着いたのを確認すると、女騎士さんは事情を話し始めた。


「私は鋼の翼という冒険者パーティに所属しているのだが……」


「え!? 冒険者だったんですか!? 騎士さんじゃなかったんですね」


 女騎士さんがまさかの冒険者だった事に私は驚いてしまった。

 こんなに女騎士っぽいのに!


「いや、騎士団に所属していたのは事実だ」


 おや、元女騎士さんだった。


「色々あって今の仲間に勧誘されてな。私も外の世界を見てみたくなって冒険者になったんだ」


 おお、お堅い女騎士が自由を求めて旅に出る冒険物語って感じのスタートだね。


「これでも私達は上位の冒険者なんだ。Aランクの魔物とだって戦えるんだぞ」


「おおー」


 Aランクってのがどのくらい強いのか分からないけど、Aって言うくらいだから多分強いんだろうね。

 ところでファンタジー世界なのになんでアルファベット表記なんだろう? 女神様から貰った異世界語翻訳能力のお陰かな?


「ただ、今回ばかりは相手が悪かった」


 と、それまで自慢げだった元女騎士さんの顔が曇る。


「運悪くAランクの魔物の群れに囲まれてしまってな。いかに腕に自信のある我々でも、高ランクの魔物にあれだけ囲まれてはどうにもならん。あわや全滅かと言うときに、仲間の一人が命を賭けて魔物の注意をそらしてくれたお陰で私達は何とか生き延びる事が出来たんだ」


「そ、それじゃあその仲間の人は……」


 もしかして、死……


「いや、運よく別種の高ランクの魔物の群れが現れたお陰で、魔物達が縄張りをめぐって同士討ちを始めたんだ。おかげで何とか命だけは助かった」


「良かった……」


 ふいー、ビックリしたぁ!

 ここで仲間の人が死んでたら凄く居たたまれない気持ちになる所だったよ!


「ただまぁ、冒険者としては死んだも同然だがな」


「え? それってどういう意味ですか?」


「魔物に利き腕を喰われてな。もう戦えそうに……ないんだ」


 そういうと、元女騎士さんは口元を抑えて肩を震わせる。


「っ……!」


 そういう事か。確かに冒険者なら、ううん、普通の職業の人でも片腕が無くなったらまともに生活するのは難しいだろう。

 それが常に命の危険が付きまとう冒険者ならなおさらだ。


 しかも魔物に腕を食べられてしまったのなら、ハイポーションでは治せない。

 あれはちぎれた腕をくっつけることはできても、無くしたモノを生やす効果はないんだから。


「えっと、その、すみません……」


 私は安易に人の事情を聞いてしまった事を謝る。

 まさかここまで重い話だったとは……


「い、いや、君が気にする事じゃない。元はと言えば私が我を忘れて飛び出したからいけなかったんだ。寧ろ君に怪我をさせた事でこちらが冷静になれた。礼を言う」


「え!? ええ!? ど、どういたしまし……て?」


 いやいや、そんな事でお礼を言われてもこっちが困るって。

 けどそうか。そんな事情があったら冷静にはなれないよね。


 けど利き腕を失ったその人はこれから大変だろうなぁ。

 片手じゃ冒険者を続ける事は出来ないだろうし、再就職も大変そうだ。

 かといって無くなった腕を取り戻そうとしたら、それこそ金貨1000枚は必要なロストポーションが必要になる訳だし……


「ん?」


 ふと私は肩にかけた魔法の袋に視線を向ける。

 ロストポーション、あるな。うん、ある、あったわ。


 さて、これはどうしたものか。

 ロストポーションを売る為に必要な欲しがっている人が目に前に現れたんだよね。

 ロストポーションは消費期限も短いし、売れるのなら売ってしまいたい。


 問題は目の前のお客さん候補が代金を支払えるかって事だ。

 何しろ金貨1000枚だからね。

 私は最高品質の薬草を沢山売って金貨100枚ちょっとを手に入れたけど、冒険者の収入ってのがどのくらいか分からない。


 支払い能力以外で心配なのがこの人がちゃんと代金を支払ってくれるかだ。

 ただまぁ、それに関しては大丈夫だと思う。

 この人は自分達の事を高位冒険者だと言った。

 なら社会的信用を落とさない為に代金を踏み倒す可能性も少ないだろう。


 なにより、仲間が怪我をした事をわが事のように悲しんで、怪我をさせた(と思っている)私にこれだけ丁寧に謝罪してきたんだから。

 それに二万円はするだろうポーションをポーンと差し出してきたしね!

 だから合成スキルの事さえ内緒にすれば、多分大丈夫だろう。


「どうした?」


 突然黙った私に、元女騎士さんが伺うように声をかけてくる。

 うん、まずは確認かな。


「あの、もしその人の傷を治す手段があったら欲しいですか?」


「っ! ……はははっ、そうだな。そんなモノがあったら是非とも欲しい物だ」


 元女騎士さんは笑ってそう答えた。ただし声に反してその顔は笑っていない。

 そんな物ある訳がないと思っている感じだ


「だが無理なんだ。アイツの腕を治す為に必要なポーションの材料が手に入らないんだ。なんでも随分昔に素材を取り尽くされて、二度と手に入らなくなったんだと。だから……アイツの腕は二度と元に戻らないんだ」


 ……イスカ草の事だね。


「だからあいつはもう二度と剣を握る事が出来ない。残念だが、私達の冒険はここで終わりなのさ」


 あいつ、か。やっぱり仲間の事を大事に思う人なんだね。

 っていうか、これは寧ろアレな感じの関係なのでは? なら……


「あの、私実は商人なんです」


 私は自分が商人である事を明かす。


「ん? そうなのか?」


「はい。それでついこの間偶然もの凄く良く効く薬を仕入れたんです。ただこの薬、貴重過ぎて売る相手を選ぶものだったんですよ」


「売る相手を選ぶ? 貴重な薬なら誰でも欲しがるだろう? 高価でも貴族や腕の立つ冒険者が買ってくれると思うぞ」


「いえ、この薬は使用期限が短いんです。作ったら早く飲まないと効果が無くなってしまうんですよ」


「そうなのか……?」


 そこまで聞いて元女騎士さんが訝しげな眼差しになる。

 詐欺を警戒してるんだね。分かるよ。でもその心配はご無用。


「そこでですね、どうでしょう。成功報酬で構わないので私の薬を買いませんか?」


「何?」


 詐欺だと警戒したら成功報酬と言われて元女騎士さんがビックリする。


「とても高価な薬ですからね。詐欺を警戒されるのも分かります。ですから、成功報酬で買いませんか?」


「……いくらなのだ?」


 怪しいけれど、まさかといった感じで元女騎士さんが値段を聞いてくる。


「金貨1000枚です」


「なっ!? 1000枚!?」


 金貨1000枚と言う金額に女騎士さんが目を見開く。

 さぁ畳み掛けるよ!


「これはそのくらい貴重な薬なんです。それに、貴女のお仲間の方を治す薬を手に入れようとしたら、そのくらいかかるとも言われたんじゃないですか?」


「……た、確かにあいつの治療をした医者からは同じような事を言われた。もし薬が手に入るとしたらそのくらいはかかると」


 おお、予想通りだね!


「……本当にアレを持っているのか?」


「アレ、とはロストポーションの事で合っていますか?」


「っ!!」


 教えても居ないのに私がロストポーションの名前を出した事で、元女騎士さんの顔が再び驚きに包まれる。


「本当に……持っているんだな?」


「だからこそ後払いと言える自信があるんですよ。貴女はどうですか? 金貨1000枚を支払う事が出来ますか?」


 さぁ、どうだ?


「……正直言って金貨1000枚は仲間達から金を借りても難しい」


 あちゃー、ダメかぁー。


「だが金貨200、いや250枚なら明日にでも用意出来る。それと仲間にも多少だが金を出して貰えると思う。足りない分は……担保として価値のある品を出すので後払いに出来ないか? あいつの怪我さえ完治すれば、すぐ……は無理だが一年以内には全額支払うと約束しよう!」


 一年で金貨700枚近く稼ぐの!?

 やっぱ上位冒険者って凄い人達なんだね……


「その条件で構いませんよ」


「感謝する。私の名はメイテナ。メイテナ=クシャクだ」


「私は間山香呼です、香呼って読んでください」


「苗字を……いや、よろしく頼むカコ」


 挨拶を終えた私達はガッシリと握手をするのだった。

 よっし、交渉成立だぜー!!

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