第3話 闇からの襲撃
「うう……まだ森を抜けない」
あれから私は森を抜けるべく、一直線に森の中を進んでいた。
その手には魔物に襲われた時の為に作った短い槍が握られている。
神様から貰った初期セットの中にあったナイフで先端を尖らせてあるので、多少は攻撃力がある筈。
でもさすがにそれだけだと不安なので、合成スキルで片っ端から木の枝を合成しておいた。
『最高品質の木の短槍:木製だが鉄に迫る固さを誇る短槍。作り手の腕が未熟の為、威力はまぁまぁ』
未熟で悪かったな! 私は武器職人じゃないんだよ!
それでも頑丈さは結構なものなので、攻撃を受ける盾代わりにはなるだろう。
「ふぃー、疲れた」
合成スキルの恩恵で得た鑑定能力で安全性が確認出来た果物を食べて多少喉を潤す。
「水があればなお良いんだけど」
残念ながら川も泉も見当たらない。
「ああでも、川の水とか飲んだらダメなんだっけ」
確か細菌かなんかが怖いってテレビで言ってた気がする。
「それにしても暗いなぁ」
森の中は薄暗くていまいち視界が良くない。
「さっき居た場所はもっと視界が良かったんだけどなぁ」
そこで私ははたと気付き、木々の隙間から見える光を、いや空を確認する。
「しまった!!」
木々の隙間から見える空の色はオレンジ。
そう、合成スキルの解明に時間をかけていた所為で、日が落ちかけてしまっていた。
「うわぁーマズイマズイマズイよ!!」
日が落ちた森の中で一晩過ごすとかぜったいやばい!
元の世界でも場所によっては熊やイノシシとかが出て危険なのに、魔物が居る異世界で夜の森とか絶対自殺行為だよ!
「せめて森を抜けないと!!」
私は移動するペースを上げて移動を再開する。
けれど気づくのが遅すぎた。
気が付けばあっという間に日は落ち、周囲はまともに動くことも出来ない程の暗闇に覆われてしまったのだ。
「こ、こうなったら物陰でじっとして一晩やり過ごすしかないか」
これ以上動いても危険と判断した私はどこかに隠れる場所が無いか探す。
「大きな木の洞とかあるといいんだけどなぁ」
かなり暗いから、殆ど手探りで確認しないといけない。
うわぁ、これホントにやばいよ。早く隠れないと。
けれど悪い事は重なるもの。
「グルルルルッ」
「ひっ!?」
明らかに生き物の声が聞こえたのだ。
「……」
息をひそめて周囲を見回すけれど、真っ暗になった森では全く視界が効かない。
まさか神様が言ってた魔物!? いや野生動物でも明らかにヤバイ唸り声だけど!!
「グルルルゥ」
やっぱり聞こえた。
私はしゃがみ込んで近くの木の陰に隠れる。
「グルルルル」
けれど声はどんどん近づいてくる。
これ完全に私の事に気づいてるよね!?
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
私は大きな声をあげながら木の短槍を振り回して声の主を威嚇する。
とにかく相手を近づかせないようにしないと!!
だけど相手は夜の闇を味方につける狩人。
森の素人である私の行動は無駄なあがきでしかなかった。
「グオゥッ!!」
いつの間に接近してきたのか、何かが私に襲いかかって来た。
同時にガギンッという音と共に重い衝撃が腕に走り、体が地面に叩きつけられる。
「うあっ!?」
背中が痛い! それに攻撃された! やばいやばいやばい!!
「グルオォ!!」
何かが倒れた私の体にのしかかってくる。
手にした短槍で押しのけようとするけど、力が違いすぎる。
再びガリッという音が腕に響く。
痛みはない。多分短槍に当たった音。
よかった! 凄いぞ最高品質の木の槍! 鉄に迫る固さなだけある!!
でもそんな幸運がいつまでも続くとは思えない。
完全にマウントを取られたこの状態じゃもう攻撃を避けるのは無理だろう。
「だ、誰か助けてぇーっっ!!」
恐怖から逃げるように私は大声で助けを求めた。
こんな森の中に人が居るはずもないのにだ。
しかし、意外にも助けは現れた。
「フニャァオッ!!」
「グルォアゥ!?」
紅い光が視界の外から現れ、私を襲っていた獣にぶつかる。
再び腕に衝撃が走ったかと思うと、私を押し倒していた獣の重みが消えた。
助かった!?
「グゥォウ!!」
紅い光に照らされたその姿は、大型犬ほどもある狼。
ただしこの目は殺意と警戒に満ちた目でギラギラと輝いている。
明らかに普通の動物じゃない。なんていうか悪意のようなものを感じる。
そんな私と獣の間に、白い影が立ちはだかる。
「フニャアゴッ!!」
「グルゥッ」
その陰に警戒したのか、獣は慌てて森の中へと逃げ込む。
「フニャゥヴ!!」
どこかへ行け! と言っているかのような影の雄叫びに、獣の足音がどんどん小さくなっていき、遂には聞こえなくなった。
「不利を悟って逃げたみたいニャ」
獣の気配が消えると、可愛らしい声が聞こえ、白い影がこちらに振り向く。
ランプの様なライトの様な不思議な揺らぎを持った灯に照らされたその姿は……
「やっと追いついたニャア」
「……デッカイ猫だ」
大きな大きな喋る猫だった。
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