第2話 死にスキルの可能性

 一縷の希望を抱いて、私は合成した草は雑草だった。


「雑草って! 凄い雑草って!! ただの雑草じゃん!!」


 何だコレ! 雑草が凄くても雑草だってーの!!


「う、うう……せっかく新しい世界でゲームみたいな人生をやり直せると思ったのに、まさかの使えないスキルとか最悪……」


 うわぁぁ、ホントにどうしよう。

 この世界って魔物とかいるんでしょ? そんな世界でせっかくのスキルが無駄になったらシャレにならないって。


「い、いやいや、良く考えると薬草がどれかわかんなかったら錬金術とかも無理じゃない?」


 落ち込む心を落ち着かせる為、私は錬金術スキルを持っていたとしても上手くいったとは限らないと自分を説得する。


「それを考えると合成スキルに失敗したのも合成に使ったアイテムがどんなものか分からなかったのが原因だよね。それで凄いサーク草とか言う雑草が……あれ? 雑草?」


 ちょっと待って。私はこの世界の植物の事なんて分からないんだよ?

 なのに何でサーク草って名前が分かったの?

 私は地面に叩きつけた雑草を再び手に取る。


「この草の情報を教えて!」


『凄いサーク草:凄い雑草。生命力に満ち溢れた凄い雑草』


 目の前に半透明の画面が現れ、雑草の名前が表示される。


「やっぱりだ」


 理由は分からないけど私には手にしたアイテムの情報が分かるんだ!

 つまり鑑定能力があるって事!?

 そういえば神様に見せてもらったスキルリストに鑑定スキルがあった気がする!


「じゃあこの草の情報を教えて!」


 私はサーク草とは違う草を拾って情報を求める。


『……』


 けれど何故かその草の情報は現れなかった。


「あれ? じゃ、じゃあこっちは?」


 私はいくつも草や木の実を拾うと、鑑定しろーと念じる。

 けれどその全てが無反応だった。


「どうしてぇーっ!?」


 なおもいろんな物を手にして鑑定しろと念じる。


『サーク草:雑草。特に利用価値はない』


『萎れたサーク草:枯れかけている雑草』


「サーク草ばっかじゃん!!」


 何で雑草しか鑑定できないの!!


「雑草鑑定士か私は!! むしろ何でサーク草だけ鑑定出来る訳?」


 この奇妙な状況に私は頭を悩ませる。

 もしかしたら鑑定能力が使えるようになるのかもしれないのだ。

 合成スキルが使い物にならないのなら、鑑定スキルで……合成?


「あれ? もしかして……」


 ある事に思いついた私は、サーク草以外の草を三本引っこ抜く。

この三本は全て同じ形をした同種の草だ。


「この草の情報を教えて!」


 全ての草に対し鑑定を試みるけれど、やっぱり何も分からない。


 私は三本のうち一本を地面に置くと再び合成スキルを使う。


「合成!!」


 スキルを使用すると二本の草が輝き一本の草になった。

うん、やっぱり見た目は変わらないね。


「この草の情報を教えて!」


『凄いウト草:高品質なウト草。非常に薫り高く、肉に使うと香草独特の刺激を抑えまろやかに臭みをとってくれる』


「やったぁー!!」


 予想通り! 合成スキルでアイテムを合成すると、合成したアイテムの情報が分かるようになるんだ!!


「そして残しておいたこの草を鑑定!」


『ウト草:香草として使える草、肉に使うと臭みをとってくれる』


「やっぱり! 合成すると合成元の素材も鑑定できるようになるんだ!!」


これはありがたいよ! ちょっとひと手間かかるけど、合成スキルだけじゃなく鑑定スキルに近い能力もあるなんて!!

もしかしたらこのスキルはかなり有用なスキルなのかも!!


 ◆


「さて、希望が見えてきたところで改めてスキルの確認だね」


 そう、最初の合成に失敗した事でうっかり失念していたけれど、合成スキルと言うからにはこのスキルは二つ以上の物体を合成するスキルと言う事だ。


 ただその条件はどうなっているのか。

 まず最初にサーク草とサーク草を合成したら凄いサーク草になった。

 この事から同種の素材同士だと同じ品になる法則があるんだと思う。

 ウト草もそうだったし。


「じゃあ全く別の素材同士だったら?」


私は両手に二つの素材を乗せる。

 一つは草、もう一つは木の実だ。


「この二つの素材を合成したらどうなるのか」


 意を決して合成を開始する。


「この草と木の実を合成!!」


 すると木の実と草が消え、私の手の上には草と木の実を混ぜたような植物が現れた。

 明らかに全く別の植物だ!!


『コンジュの根:食用の球根。焼くと美味しい』


「おおーっ!!」


 合成スキルが初めてまともな効果を発揮した事に私は興奮する。

 更に合成元の草と木の実を手に取り念じる。


「この木の実と草の情報を教えて!」


『ポタン草:花を乾燥させるとポタン茶として飲むことができる』


『マルマの実:渋く食用には向かない』


「やったぁー!!」


 よし! 異株同士でも合成前の素材の鑑定は可能だ!

 しかも食用じゃない素材同士を合成して食用の素材を作る事も出来た!!


「これならいざという時にご飯を確保できるよ!!」


 失敗だと思った合成スキルだけど、実際に使ってみれば錬金術とは別の意味で違うアイテムを生み出す凄いスキルだった。


「ポーションとかを作る力はないみたいだけど、使い方によってはかなり使えるかも!!」

 

 うんうん、これは希望が見えてきたよ!!


「よーし! それじゃあ手当たり次第に合成して鑑定能力を鍛えるぞー!!」


 私は目についた見た事ない草や木の実を見つけては合成をしてゆく。

 食べれる木の実や薬になる草などの情報が蓄積されていき、未知の森が宝の山に見えてくる。


「……けど、ちょっと採りすぎちゃったな」


 気が付けば採取と合成した収穫物でちょっとした小山が出来上がっていた。


「うーん、これはさすがに持っていけないかな」


 神様から貰ったバッグじゃこれ全部を運ぶのは無理だ。

 ゲームみたいに無限にアイテムが入れば良かったんだけど、残念ながらこれは普通のバッグだった。


「となると質の良い薬草や食べ物をだけ選んで、残りは捨てて……」


 と、そこで私はもう一つ思いつく。


「そうだ、最初のサーク草同士を合成したら凄いサーク草になったよね。ウト草も高品質になったし。って事は同じもの同士を合成すればもっと凄くなるかも?」


 思いついたら一直線。さっそく私は同じ薬草同士を合成してみる。すると……


『凄いスクリ草:ポーションの材料になる質の良い薬草。煎じて使うと効果の高い傷薬が作れる』


「やっぱり!! これなら採りすぎた分を全部質を上げるのに使えるよ!! これを利用すれば薬草が高値で売れる筈!」


 ゲームなんかでも素材の質は完成したアイテムの品質に影響するもんね。

 この世界でもきっとそれは変わらない筈!!

 私は鞄に収まるギリギリの量になるまで収穫物を合成してゆく。その結果……


『最高品質のスクリ草:完璧な手入れをされた採れたての薬草。これ以上の品質はない』


「お、おお……やり過ぎちゃったかな?」


 気が付けば殆どの収穫物が最高品質になっていた。

 まぁでも、品質が良い分には問題ないか。


「ふふ、これなら常に最高品質の薬草を採取する凄腕の採取士になれるんじゃないの私?」


 私は収穫物を鞄に詰め込むと、立ち上がる。


「さて、いい感じに金策も出来たし、そろそろ町に行くとしましょうか!!」


 とそこでふと気づいた。周囲は見渡す限りの森。


「町、どっちだろ?」


 うん、町の方向が分からない。


「……もしかして迷子?」


 なんという事だろう、異世界にやってきた私は旅に出る前から迷子になっていたのだった。

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