地下監禁マッスルファイト上映会#2

「ホモセックスってそういうもんじゃん。知らないの?」

「知ってるけど……」やつれ声で言う。「小説で読んだことも、映画で見たこともあるけど……こんな性器強調されたのは初めてで」

「あーそっか」千夏は何かを理解したようだ。「映画の性描写って、なるべく性器が映らない上品な映像になってるし。映っても一瞬」


 肛門を掻き回し、遂には射精する男性器。


「ペニスに大便とか付かないの?」

「ホモセックス前に肛門洗浄して、腸内を綺麗に」

「ビデオみたいに、洗わず速攻強姦したら?」

「付くんじゃない、大便」千夏は付け足す。「コンドーム使ったらコンドームに」

 引き抜かれた映像のペニスに、糞便の類は付着していない。


 腸液と跳ね返りの精液で、ドッロドロに濡れてますけれど。

「でも付いてないよ」 

「付いてるの見たい? スカトロビデオ」

「勘弁して」わたしは首を横に振る。「そもそも腸壁突かれて痛くないの? なんで気持ちよさそうにしてんの?」


「肛門ほぐしと開発具合で、前立腺刺激由来のドライオーガズムが発生してる」

「ドライ?」

「普通のオーガズムと違って、汁気がなくて乾いてる」

「人体の不思議」

「性感帯の不思議」


「排泄器官の正しい用途じゃないのに」

「反応する以上は想定された用途だよ、開発の必要はあるけど」

「無理してない?」

「ホモ・サピエンスの涙ぐましい努力成果と言い換えよう」

「なら、肛門に異物突っ込まれて、快感に喘いでる人は」


「全員開発済み」

「第二章のノンケ素人モデル設定はどこに」

「彼女さんがアナルプレイ好きとか」

「本当は?」

「作劇都合ゆえ、細部の整合性は出たり消えたり」


「アダルトビデオはファンタジーだ」わたしは顔を引き攣らせた。

「フィクション全般ファンタジーだよ」千夏は穏やかに悟りを開いている。「どれだけリアリティーがあっても」

「リアリティーがなくても」


 卑猥な性談義、及びスクリーンの絶頂は、防音壁に遮られて外に届かない。

 内部に敷かれた鉄壁の守備は、反対に外部の音も吸収する。

 小さな音は、最初から鳴らす者さえ存在しなかったように。

 千夏宅の門前、不審な二人の人影が、足音を消して接近する。


 覆面に素顔を隠した、祐征と幸樹だ。

 裕征は幸樹に視線で合図を送ると、千夏宅の門を開け侵入する。

 正面の空き家、二階窓の雨戸の隙間。

 寝室から千夏宅を監視していたのは、年配の男性と若い女性の二人組だ。


 男と女は、裕征と幸樹の不審な動きを捉える。

 男は足早に寝室を出て、女もその後を追った。

 男は名を銅之真といった。

 女は名を、瑞香といった。

 銅之真と瑞香は階段を降りて、玄関口を開け外に出る。


 幸樹は玄関扉のピッキングに取り掛かる傍ら、裕征は付近を警戒中。

 警棒を伸ばした銅之真と瑞香が、姿勢を低くして突進する。

 銅之真は幸樹へ、瑞香は裕征へ、足音を消して駆けていく。

「おい!」裕征が銅之真の接近に気付く。

 幸樹が開錠に成功した。


 裕征は右手のナイフを薙いで、銅之真と瑞香をけん制する。

 瑞香はスライディングでナイフの下を通り抜け、幸樹の首筋を警棒で突く。

 幸樹は警棒が届く寸前に、玄関扉を開けて屋内へ滑り込む。

 瑞香の警棒が叩いた扉は、すぐに施錠された。

 銅之真の警棒が、裕征のナイフを受け止める。


 警棒とナイフが弾き合った。


 瑞香がスライディング体勢のまま、身を捩じり警棒で裕征の下腿を突く。

 裕征はナイフで瑞香の警棒を弾き、続く銅之真の蹴りも身を引きかわす。

 裕征は家の壁を蹴って高く飛び上がり、銅之真の頭へナイフを振り下した。

 銅之真は体を左に傾けてナイフを避け、警棒を裕征の頭に薙ぐ。

 裕征は警棒の直撃を喰らいつつも、後方に転がって距離を取る。


 瑞香が振るった警棒は、裕征のバク転で空振るも、返す棒でナイフを叩き落とした。


 勢いよく落ちたナイフが地面に突き刺さる。

 銅之真が着地した裕征に向かって突撃した。

 裕征は両手を伸ばし、迫る銅之真に掴みかかろうとする。

 銅之真は警棒で裕征の両手を払い、胴体に直撃タックル。

 衝突の衝撃に怯んだ裕征を、銅之真は背負い投げ、袈裟固めに拘束。


 銅之真が瑞香に目で合図する。

 合図を理解した瑞香は、裕征の後ろ手に手錠を掛けて拘束した。

 銅之真は裕征を瑞香に引き渡すと、窓を割って屋内に侵入する。

 裕征は激しく暴れて、瑞香の拘束に抵抗する。

 瑞香は裕征の頸椎に、右の手刀を振り下ろす。


 屋内では、幸樹が寝室で千夏を捜索中。銅之真は廊下を走り、侵入した幸樹を索敵中。千夏は千冬と地下のシアタールームで、ホモビデオを継続して鑑賞中。スクリーンの野獣先輩は拉致監禁強姦の末、何故か後輩との和姦に至っていた。上階の喧騒は遮断され、千夏と千冬には不審な物音一つ聞こえてこない。


「強制わいせつが双方合意になってる」千冬は呟く。

「ストックホルム症候群の兆候」千夏は言いながら、携帯端末を操作する。

 携帯端末の画面は、家中に仕掛けられた隠しカメラの映像を映し出した。

 浴室前の洗面室を捜索中の幸樹が、銅之真に見つかって抗戦を開始する。


「後で無事逮捕されるといいんだけど」千夏は携帯端末を見ながら言う。

「強姦魔に同情は不要」千冬は指の隙間から、スクリーンを覗き見する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る