急行

 裕征の運転する電動バイクが、人気のない夜道を駆る。

 静かな走行音で、寝静まった市民を起こす心配がない。

「協力者というのは」後部座席の幸樹が問う。「どこにいるんだ」

「現地待機を命じた。必要になれば救援に駆けつける」

「ゲリラ的だ」


「目立った動き、巨大化した脅威は敵にマークされるだろう。真に動くべき時が訪れるまでは、こちらの戦力を小刻みに分散して見えにくくしている」

「一か所に人や物資が集中していると感づかれないように?」

「組織の動きは目立つが、関わりのない個人の動きは警戒度を軽減できる。集団で銃を収集するとテロリズムの下準備になるが、個人収集の範囲なら趣味だ」


「何が目的の秘密結社だ」幸樹は呆れ、警戒する。「戦争でも始めるつもりか」

「違うのか」

「なんだと」


「日本では大抵の殺人が犯罪で、国の秩序に徒なす行為だ。国の秩序を仇なす行為とは、即ち真意がどこにあれ現国家に対する反乱を意味する。ならエゴ充足の殺人は法律との、国家相手に個人単位から仕掛けられる戦争行為さ」

「実感がない」

「お前は人格形成期に重ねた殺しが、国の立場から下す執行ばかりだったからな」


「視点の違いがあった」幸樹は気付いた顔をする。「そうか、彼らにとっては戦争だったのか……」

「当然だ」

「今更だな」幸樹は呟いて苦笑した。

「いいか、戦争は万全の準備を怠るな。国は反乱者を潰すだけでいいが、個人は国の圧力に抗い続けねばならん。だからこそ、ネットワークは大きくあるべきなのだ」


「分かったよ、秘密結社に加担する。会費はいくら?」

「相互扶助精神でいい」

「高いな」

「借金の価値はある」裕征はバイクの速度を上げた。

 車体は音圧で寂を掻き乱さず、夜風迷彩を纏うている。


 遠景に標的の住宅地が現れて、幸樹は身を強張らせた。

「緊張しているのか?」

「大物は久々で」

「知能犯は睡眠を大切にする」

「罠だよ。睡眠中を易々襲わせてくれるとは、とても」


「自分の家に大した罠は用意できんだろう」

「足がつけば捕まるのは、あちらとて同じか」

「それよりも、別の派閥を警戒した方がいい」

「安心させたいのか、緊張させたいのか」

「安心して緊張しろ。余計な心配はするな」


「無茶を言う」

「ぬるま湯に脳を浸されて、腕が鈍ったか」

「どうだろう、分からない」幸樹は自分の手を見る。「試してみるまでは」

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