罰当たりホモビ人形遊戯#5
降って湧いたポジティブな衝動を、遅まきながら自覚して戸惑う。卑しくも淫夢カルチャーは友人が迷惑を被っただけでなく、テロの巻き添えを喰らう原因を作った。また、淫夢界隈の動画投稿者はホモビデオの言動を模倣するに飽き足らず、本編映像を利用した謎の錬金術を試みている。わたしにとっての淫夢コンテンツは、本来ならばネガティブどころでない、最低最悪の印象を持つべき対象だが……。
同時に、印象は表層だけの話でしかないのを忘れるな。
BB劇場動画を見終えた瞬間の、あの得体の知れない感動こそが、独自進化を遂げた文化の一端に位置するのではないか。文化は発生理由を問わず、多様な側面を生成して成長する。接触した人物が自己流に織りなし、育て、広げ行くものだからこそ、発展には当初の目的を逸脱できる不確定性がある。特に巨大化した文化の価値を、表層の印象だけで全て結論付けてしまうのは、包括された多様性を安易に踏み躙る愚行でしかない。
わたしはBB先輩劇場タグの検索結果を、スクロールしながら考える。
淫夢カルチャーの発端は不謹慎な笑いから、こればかりは否定できない。野獣邸前に集合したホモガキ軍団も、淫夢カルチャーの原点を現実世界に拗らせた、淫夢文化原理主義者であるのに相違ないだろう。だが真に重要なのは現在、大勢の市民が文化信奉者になった結果、内面に生じた変遷だ。海外キリスト教文化だって、聖書の解釈次第で同性愛者を排斥したり受容したり、信奉者個々の信念に基づいて好き勝手やってきた。
そうだ、表層の下品さは先入観でしかないのかも。
偏見を持ちつつも動画を開き、視聴中は作品の本質に惹きこまれてしまったからこそ、作り手の熱意にポジティブな衝動を喚起させられたんだ。結論の勢いが指先に伝わり、よく見もせずにクリックした動画は、広告もなくスムーズに再生された。
「あっ」
重苦しいオーケストラが、緊迫の空気を訴える。
続けて大ボリュームのリズミカル三拍子排泄音。
畳敷きの和室を背景に、画面中央で背中を見せて股を横開きにした野獣先輩が、下痢便の滝を排出した。
股間の辺りには青白く巨大な勃起ペニス。
モザイクを入れても不気味さは消えない。
勃起ペニス先端から、白くて粘っこい液体が噴出する。
「おえッ……!」吐き気に口元を抑える。
信じられない、なんだよこれ。不適切動画で削除されないのか。
『スカトロオナニーたまんね~』野獣先輩がテキストボックスに発言する。
ブラウザバックしようとして、視界に入った画面上部のタグは『BB先輩劇場』『真冬の昼の淫夢』『作者はオマンコにハイッチャうと思ったシリーズ』『例のアレ』『ガンキマリ・チルドレン』『ガンギマリ淫夢』『フリースタイル淫夢』で、動画タイトルは『野獣「スカニーしようぜ! お前うんこな!」』だった。
動画は異常な高速テンポで進行し、瞬く間に糞便の滝を浴びに来たKMRが野獣先輩のペニスを扱いてビルよりも高く勃起させると尿道の中へ財宝を求めてMUR先輩と冒険に出かけるが縮小したペニスの中に閉じ込められ強制胎内回帰。子宮へ進行して脱出を試みるも閉じた膣から出られない、突然KMRのアップで『名探偵コナン』の閃き音が連続して十回鳴ると脱出手段を閃いたようで射精してクローンを孕ませ脱出を図る。動画は展開も文章表示速度も視聴者を置き去りに、完全な作者のペースで進行した。
わたしは痙攣する右手をマウスに伸ばす。
見たくないのに、好奇心はブラウザバックを否定した。
動画は止まらない。KMRとMURの精液が野獣の卵子との結合を狙って衝突し合体し受精に成功すると瞬く間に二人のクローンが発生して「本物は俺だ」とKMRとMURをペニス砲で射殺しその受精した死体から新たに二人のクローンのクローンが発生して自己を主張し迫撃ペニス砲同士の合戦が始まった。腹痛を感じた野獣はトイレに入ると四人のクローンと二人の死体を排泄してハンドルを捻り水に流す。
簡素で雑な映像の羅列、支離滅裂な物語が隙間なく叩きつけられる。
だが、展開が破綻しているのではなく、最低限度の筋は立っている。
男性器は、扱けば勃起して大きくなる。
尿道の先は体内、体内ならば子宮にも通じている。
性器で射精された精子は、競い合って卵子へ走る。
子供は親に似て、生まれるときは体外排出される。
そう。
分解したイベントは、よく知られた(非)常識の範囲内で綴られている。
奇天烈なシチュエーションは、過程と脈略の繋がりに重きを置いている。
だから、意味不明ながら理解はできて、作者の意図もそれとなく伝わる。
ある意味よく練られた、暴走特急列車型不条理コメディだ。
踏まえて、やっぱり気持ち悪く、戻るボタンを押すも遅い。
動画の再生は終わり、頭脳を犯した猥談がグルグル暴れる。
「……全部見ちゃったよ」焦点の合わない目で独り言つ。
タガが外れ、わたしはネット深淵に自ら呑まれ堕ちた。
高低差およそ十一万四千五百十四キロメートルからの急降下だ。
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