罰当たりホモビ人形遊戯#4
『野獣!』MURが引き金を引いて、勇ましい戦闘BGMが止む。
『は?』静寂の中で野獣が呆然とする。
『MUR先輩!?』KMRが叫ぶ。
オシラサマの乙女棒と馬棒が交差して、銃弾を受け止める。
『オシラサマ……』野獣の呆然とした顔がアップになる。
MURは拳銃弾の容赦ない連射を浴びせる。
オシラサマは交差部分を調整し、飛来した全弾を受け止める。
MURのマガジンが切れると、破損したオシラサマが崩れ落ちた。
『思った通りゾ』MURはオシラサマに歩み寄った。『オシラサマは祟りもするが、性質の原点が子供好きな守り神であることには変わりない。それを利用させてもらった』
『オシラサマは、俺を守って……』野獣が両手で目を抑える。
わたしは唖然としていた。
待て待て、この流れでシリアス展開に戻っちゃうの?
『野獣、お前は両親の手前だから試合で怪我をしたと嘘をついたが……』MURが空手着姿の精悍な顔つきになって言う。
唖然とした空白に、考えが過ぎり動画を再集中してしまう。
今更ながら、空手着姿の精悍な顔つきは別人の顔っぽいな。
俳優の池内博之に似てるような……?
『本当のところ、先輩が怪我したのは試合の帰り道ですよね』ビジネススーツのKMRが白い背表紙の本を参照する。『合ドラキメセク運転の大型トラックに轢かれて、生きているのが奇跡的な状態で……あっ!』
シリアスなのか? シリアスなんだよね?
シリアス中に合ドラキメセク大型運転のワードはどうなの?
なんか違くない?
『そうだ。オシラサマは野獣の両親を祟りつつも、同時に子供であるお前を守護していた』軍服姿のMURが言う。『致命傷で済んだのは、そのおかげかもしれん』
もの悲しさを煽るBGMが流れ出す。
音階はさっきの戦闘BGMと同じ、これがメインテーマ曲なのか?
だとしたら、なんのメインテーマなんだ。
『守ってくれてたんすか……こいつが』野獣が落ち着きなく表情を動かす。『MUR先輩、俺を攻撃したのは、必ずオシラサマが守りに来ると確信してたから……?』
『合図なく攻撃したのは謝るゾ』MURが謝罪する。『合図を察知されれば、オシラサマの呪術で攻撃を阻止されるかもしれなかったから、意表を突くしかなかったんだ』
『呪術を使う暇もなく』KMRが言う。『まさに、身を挺して守ってくれたんですね』
おかしい、シームレスにシリアスへ帰還できている。
本来なら情緒を削ぐとか、無粋だとかの次元ですらないのだが、BB先輩劇場では粋な語り手の軽いユーモア程度に留まっている。
『MUR先輩! 俺、やっぱりオシラサマを、』両手で顔を隠した野獣が言いかける。
『止めはしないが、忠告はしておくゾ』遮って、MURの口元のアップ。『いずれ、オシラサマがお前をご両親の子供と見做さなくなった時――立派な家長に扱われた瞬間から、祟りは再びお前の後世に繋がれていく。抗う者が現れない限り、末代に渡ってな』
前提の絵面がトチ狂っているおかげか。
世界観の根底が『そういうもの』で成立しているが故に、現実の基準を適宜切り離して納得できる構造だからか。
『クゥーン――』野獣が人間の言葉を失ってモノクロ柴犬の静止画になる。
柴犬の首を傾げた角度が、アンニュイな表情の野獣先輩と似ていた。
「ほう」
どうやら、直感的に彼らと似ている印象を持つ画像・映像も、キャラクターの表情差分に用いられているようだ。精悍な空手服姿のMURと、黄色い衣装で踊っていた野獣先輩は、やはり本人と違う役者が演じていたんだろう。それとも演じさせられていた、か? いずれにせよ違和感の境界ギリギリを攻める荒業で、演出意図が理解できない。
『先輩、祟りを断ちましょう』牛柄パンツ一丁のKMRが、正面を向いて進言する。
『さあ、どうするゾ』肩から上だけになったMURが、穏やかに目を閉じ問う。『俺はお前の判断を尊重する』
『俺は、俺は……』野獣先輩は柴犬形態のまま悩む。
展開は野獣先輩の犬化に触れていない。これは作中世界、或いは三人にとっての常識を意味している。特別な伏線ではなさそうだ、本当に表情以上の意味はないのか。
『オシラサマ、ありがとうな』野獣は元に戻り、床のオシラサマに銃を向けた。
MURとKMRも、黙って照準を合わせる。
二対で立ち上がろうとするオシラサマに、銃弾の雨が降り注いだ。
三六発の銃弾が打ち込まれた末に、オシラサマの残骸が転がった。
顔は潰れ、中折れし、原型を留めていない。
主観視点の両手が、オシラサマだった残骸をすくう。
場面が庭に切り替わり、焚火がメラメラと燃えている。
野獣の手のアップが、オシラサマの粉末を焔に投じた。
『じゃあな』野獣が告げる。
オシラサマが燃えて、火の粉と灰が空高く舞い上がっていく。
支離滅裂な光景の果てに、一抹のもの悲しさが胸を打つ。
不思議な感覚だった。なぜ、胸を打たれているんだろう。
序盤、中盤、終盤、個々の映像は隙間なく奇妙なのに、物語が組み合わさって強固な骨格を造っている。固定観念を破壊し尽された思いだ。物語がなければ、あんな映像からここまでの感動は得られまい。
ああ、物語はこんなにも力強いのか。
「――もっと知りたい」
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