罰当たりホモビ人形遊戯#3

『オシラサマの禁忌事項は家の伝承によって違いが生じるゾ』MURが続ける。『肉食の禁止は概ね共通しているが……』

『この家のオシラサマのように』KMRは肩から上だけになって、横顔で凄みを効かせる。『禁忌と祟りばかりが多く、御利益を全然くださらない個体もいるんですね』

『ただの呪物じゃないか、壊れるなあ……』英字Tシャツと黒ズボンを着た野獣が、空気椅子の状態で組んだ手に顎を乗せ俯く。


『だからお父上と母君は野獣、お前を』MURが目を覆うのに合わせ、BGMが止まる。『大学寮に送った後で、祟りばかりのオシラサマを今代で絶ってしまうように、命を賭して戦いに挑んだんだゾ』

『それで殺されたってことすか』野獣が肩から上だけになって泣く。『父ちゃん、母ちゃん……』


『MUR先輩! 先輩の両親の仇を取りましょう!』KMRも泣く。『何か方法はないんですか?』

『迫真空手で迎撃するゾ』MURが宣言し、モノクロームの精悍な空手着姿で構えを取る。

 アップテンポの勇ましい曲が鳴り始めた。


 曲の音階は、掃除場面で用いられた『フレーミーのうた』に混ざっていた、正体不明の楽曲と似ている。

『は?』野獣とKMRが困惑する。

 オシラサマが壁から抜けて動き出す。

『祟りに詳しいはずの父ちゃんと母ちゃんが勝てなかった相手っすよ』野獣が言う。


『いいか、野獣のご両親は肉を食べれない禁忌のせいで、体を構成するタンパク質が不足していたはずだ』MURは横顔で推理する。

『……っ!』KMRは横に倒れて下腹部を痛がりながら察した。『タンパク質の不足は筋肉量を減らし、貧血の原因となり、思考と集中力を低下させます!』


『そういうことだ。失礼だが、野獣のご両親は禁忌事項で戦う力を削がれていた』海軍服を着て手を腰に当てたMURが続ける。『野獣、お前は親元を離れて俺たちと暮らしていたから、オシラサマの目が届かないところでたらふく肉を食えていたな。体力に不足はないゾ』

『そうか、俺、俺……!』野獣が鬼の形相で咆哮する。『オシラサマを破壊しますよ……!』


『我ら、迫真空手部三人衆!』三人は空手着姿で戦闘の構えを取る。 

ドンッ、と力強い集中線。

『仏智破の陣!』MURが二人に指示する。

 呪術のオーラを放つオシラサマが襲いかかった。

 三人は全裸に戻ってアサルトライフルを構えた。

 

 トリガーを弾いて一斉掃射する。わたしは口をぽかんと開ける。

 空手なのに銃撃戦、さっきまでの筋道あるような流れはどこへ。

 画面では賑やかなアクションが展開中だよ。

 突飛すぎて、無性におかしくて――大笑い。


 キャラクターがよく動いて、ビジュアルもころころ変わってさ。

 カオスな論理のシチュエーションは、海外カートゥーンみたい。

 実際、そういうのに近いんだろう。実写なのに。

「そうだ、物語は大筋さえ通ってれば自由でいい」

 三人の戦闘動作は、一際豊富に作り込まれていた。


 弾幕を掻い潜ったオシラサマは、床を強く蹴ってMURの目に特攻する。

 MURは体勢を低くしてやり過ごした後に、回し蹴りを入れた。

 蹴りを喰らった二対のオシラサマは、KMRの前に吹き飛んだ。

 KMRはナイフを構え、オシラサマ目掛けて袈裟切りをする。


 馬棒は右に、乙女棒は左に逸れ、刃は宙を切った。

 すかさず左の袈裟切りも振るったが、同様にして宙を切った。

 オシラサマが床に着地し、追ってKMRがナイフを振り下ろす。

 自らをミサイルに射出したオシラサマが、KMRの両膝へ接近する。

 咄嗟に、KMRはナイフを床に突き刺した。


 ナイフを軸に大きく前転し、オシラサマを飛び越える。

 野獣の前をオシラサマが通り過ぎた。

 野獣はオシラサマを追って背後から掴む。乙女棒を右手に、馬棒を左手に。

 咆哮と共にバックドロップし、二対のオシラサマを頭から床に突き刺した。

 野獣は退き、オシラサマから距離を取る。


 MURとKMRは、西部劇の衣装でリボルバー拳銃を早撃ちする。

 オシラサマは床下に潜り、弾丸は外れた。

 三人がオシラサマの出現を警戒する。

 床を破って出現した馬棒と乙女棒が、MURの尻穴に突き刺さる。

『あっ』MURは口から泡を噴いて倒れる。


 姿勢を低くしたKMRが、ナイフを乙女棒、馬棒の順に突いた。

 KMRの刺突は外れ、オシラサマは出現した穴から床下に戻る。

 次の攻撃を警戒したKMRは、後ろ歩きで後退した。

 オシラサマは床を破って再出現。乙女棒は右足を、馬棒は左足を狙う。

 KMRの後退が早く、棒の攻撃は宙を突いた。


 オシラサマはKMRの後退に合わせ、出現と潜伏を高速で反復する。

 KMRは拳銃を構えて、出現するオシラサマを交互に撃ちながら後退する。 

 左足を下げ、現れた馬棒を撃つ。

 右足を下げ、現れた乙女棒を撃つ。

 KMRが早く、オシラサマは後を追うだけだが、銃弾は悉く躱された。


 野獣は集中して気を高めていた。


 野獣は赤熱のオーラを纏って筋骨隆々になり、出現したオシラサマへ右の拳を振り下ろす。オシラサマは潜伏と同時に、拳が床を破壊する。すかさず野獣は、床の割れ目に両手を入れた。力強い眼光で雄叫び、床板を引き剥がす。粉砕された床板がバラバラになって落ちて来る。そこには潜伏場所を失ったオシラサマがいた。


 野獣とKMRが、挟み撃ちにパンチのラッシュを加える。

 器用に跳ねるオシラサマには、かすりもしない。

 意識を取り戻したMURは、寝転がりながら野獣に拳銃を向けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る