小説家を売ろう#5
十七時間後に覚醒して、反応があったのは『ニコニコ動画』の方だ。
動画は七八回の再生に九件のコメント、二件のいいねを獲得している。
「思った通りだ」
何の興味も持てないオリジナル小説には反応しなくても、『VOICEROID』の皮を貼り付けて『VOICEROID劇場』にしてしまえば……。
サムネイルの立ち絵と字幕から興味を持った層が反応する。
ジャンルの需要に具体性が絞られて検索に引っかかり易い。
視聴に当たっても自分から長文を読み、脳内で情景を補完する労力を要さないため、内容の子細に関係なく閲覧の心理的ハードルが低い。
「いける、いけるぞッ、これならいけるっ!」
すっかり興奮してしまったわたしは、躁の形相で動画作成に戻った。
買い置きの『一本満足バー』を齧り、脳内で草彅剛を躍らせる。
六日後には、完成した二話目の動画を投稿できた。
寄せられたコメントは『うぽつ』『www』『88888888』『おつ』と、動画投稿者に送られる定形の挨拶ばかりだったが、無いよりは遥かに嬉しかった。
六五回の再生に十件のコメント、七件のいいね。
前回動画も九九再生に一四件のコメント、八件のいいねに上昇。動画を流れるコメントの中には、ちらほらと非定型の文も混じり始めていた。
『自分もやりそうでこわい』
『正直共感するわ』
反応を得られない『YouTube』の更新は切り捨てる。
コピー、ペースト、調声……コピー、ペースト、調声……。
最も古い自信作を四六時中睨んだ末、ふと忘れていた疑問を思い出した。
半年かけて一作目が完結した時、いつの間にか固定ファンができていた。
『完走乙、面白かったです』
シリーズは平均で一五三二再生に七二件のコメント、一四九件のいいねと六件のマイリスト登録。動画投稿の出だしとしては悪くない方だろう。
物語の結末、投げられた問いかけに視聴者は反応する。
『なんだこのフィナーレ』
『俺はゆかりのやり方を支持するぞ』
『コラテラルきりたんぽ』
『ずんだもんは犠牲となったのだ……』
『東北家はすげー迷惑w』
「だよねー」思わず顔が綻んだ。
随分と久しぶりに、風に乗せた言葉を届けられた気がする。
作家を志していたはずのわたしは、いつの間にか『ニコニコ動画』で劇場動画投稿者のキャリアを歩み始めていた。
人生とは、何が起きるかわからないものだ。
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