~2~

 フッと、意識が浮上した。辺りは暗くてここがどこかなのかは判断が出来ない。窓はなく、空調の音だけが静かな部屋の静寂を乱している。無駄と思いながら身体をパタパタと触ってみるが、携帯はもちろんのこと、尻ポケットに仕込んでいたGPSまで奪われていた。だが、それだけだ。手足は自由だし、痺れ薬を使われた訳ではないのか普通に身体を動かすことが出来る。試しにドアを押したり引いたりしてみたが、うんともすんとも言わなかった。取っ手も無いし、恐らくは電子ロックなのだろう。普段ならこんな電子ロックは秒で解除出来るが、今は丸腰だ。詰んだ。どうしようかと思案していると、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。音から察するに、二人。誘拐犯と鉢合わせか? と身構えていたら、

「あっ」

 と非常に聞き覚えのある声が聞こえた。どうして、何で、彼がここに居るんだ。焦燥感から冷や汗が出る。こんな、誘拐犯の目的も分からない場所に、何故成宮がいる。彼はただの一般人で、こんな世界には無縁なはずだ。

「何だ、何をした」

「財布落としちまって。どっか蹴って見失っちまった」

「……チッ、そんなことか」

「あ、ひでぇ。オレの今の全財産入ってんだぜ」

 そんな声と同時に部屋に滑り込んできたのは薄い財布で、中を開けると電源の切れた携帯が入っていた。もしやと思い、電源を入れる。それと同時に携帯を素早く操作して、フェンリルとミドガルズオルム、スルトに指示を飛ばす。

『ロキ様!』

「スルト、感動の再会は後だ。成宮君が誘拐犯と思わしき男と奥に入っていった。ボクはそれを追う。フェンリルにはこの場所にある電子機器全てクラックするように指示を出してある。証拠が欲しいならミドに聞いて。携帯は繋ぎっぱなしにしておくから、追跡は任せたよ」

『拝命致しました』

「ん。宜しく」

 電話は繋ぎっぱなしのまま携帯を操作するが、小さく舌打ちが零れた。

「何これ。オジサンのばりにスペック低いんだけど」

『お言葉ですが、ロキ様。貴方様の携帯が高スペックなだけかと……』

「カスタマイズしたい」

『それは後日……』

「っし、開いた。行ってくるね」

『無茶だけはなさらぬようお願い致します』

 スルトの言葉に、返事はしなかった。きっと、これから自分は無茶をしに行くのだから。

 部屋を出、用心深く周りを見ながら湊は奥へ奥へと進んで行った。途中見えたロゴは、最近急上昇しているIT企業のものだった。湊も何株か持っている。だが、こんなことになってしまったら株は大暴落だろう。公になる前に売ってしまおう。そんな場違いなことを考えていた。仕方ないだろう。湊も今の現状に混乱しているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る