孤高のカミサマ

~1~

 油断した。言葉にすればただそれだけだろう。

 自分の頭に価値がある事など百も承知で、故に警戒心も強くしていたはずだった。たまに非番の花咲や福井、片桐が護衛になることもあるくらいだ。

 だが、たまたま、

 たまたま、その誰も居ない頃を見計らったように、通学路の脇にある路地裏に引きずり込まれ、刺激臭のする布で鼻と口を塞がれた。途端に遠のいていく意識の端で、「これはマズイ」とだけ思った。





???Side


 くったりと腕の中に収まった湊を見て、男はニヤリと笑みを浮かべた。

 やっとだ。やっと手に入れた。

 恍惚とした笑みを浮かべ、男は湊の荷物を漁り始める。携帯が三つと、尻ポケットを改造した中に収められているGPSを見つけ、男は更に歓喜した様だった。

「こんなにお持ちでらっしゃるとは。さすが『L』様」

 男は手袋をはめ、カバンの中から鍵を取り出した。誘拐とカモフラージュする為にはこれらの電子機器は全て置いていかねばならない。『カミサマ』には、また新しくお渡しすればいい。

『カミサマ』の部屋らしき場所に電子機器を置きがてら、男の視線は『カミサマ』の作業デスクを見た。三台並ぶディスプレイに三台のキーボード。この齢にして複数ディスプレイを同時に操れるだけでも充分なのに、男は何故か不服そうだった。

「『L』様にはもっと買って差し上げよう」

 なんと言っても相手は電脳世界の『カミサマ』だ。たかだか三台で満足している訳が無い。

 いまだに意識を取り戻さない『カミサマ』を車に乗せ、男が向かったのは自社で好きにしていいと言われた男の研究室ラボだった。いくつかの電子ロックを解除し、空いている部屋に『カミサマ』を恭しく横たえた。

「少々お待ちください『L』様。すぐに害虫どもを始末して戻ります故」

 まずは最近『カミサマ』の周りを彷徨いてるあのチンピラだ。『カミサマ』はお優しいから邪険に扱えないに違いない。だから、代わりに排除して差し上げなければ。その次は恐れ多くも『カミサマ』の父親顔している男。その次はその次はその次は。

 この方には『孤高』こそ相応しい。その他は全て全て全て全て全て全て排除して差し上げなければ。この方はお優しいから邪険に出来ないだけだ。本当は煩わしく思っていらっしゃるに違いない。

 男はニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、研究室ラボを後にした。

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