SS

猫は斯くかたりき

「猫の日?」

「そー、猫の日。にゃーにゃーにゃーで、猫なんだってさ」

「あほくさ」

 ノートパソコンから目を離さないままただひと言そう言うと、湊は本当に興味が無いのかそれ以上のコメントは無かった。

「えー、良いじゃねぇか、猫の日。語呂合わせって結構俺好きなんだけどなぁ」

 場所は警視庁捜査一課の片隅。湊専用のノートパソコンとデスクらしい。ここのボスである綾木はとにかく湊に甘いので、どうせ湊にねだられたか何かしたのだろう。

 今いない刑事の椅子を勝手に拝借しながら、成宮は拗ねたように唇を尖らせた。

「大体、語呂合わせで言うなら二月二日も猫の日になるし、十一月二十二日は犬猫の日じゃない」

「あ、確かに」

 ポン、と手を叩く成宮をジト目で見た後、湊はノートパソコンに視線を戻した。

「で?」

「ん?」

「わざわざボクにその話題を振ったってことは、何かあるんでしょ? 何さ」

 湊の言葉に「バレてら」と舌を出し、成宮は後ろ手に隠し持っていたを出した。横目で見ていた湊がギョッとした顔で二度見する。湊の珍しい狼狽えがおかしかったのか、成宮はイタズラが成功した子供のように笑った。

「君、何……?」

「何って、

「ねこみみかちゅーしゃ」

 復唱して、湊は自分の頭を押さえてザッと後ずさった。

「おー、流石に理解が早いな」

 カンラカンラと笑う成宮とは対照的に、湊の顔からは血の気が引いていく。

「だ、誰、」

「ん?」

「誰の、入れ知恵?」

「んー……」と考え込み、猫耳カチューシャをプラプラ揺らしながら、成宮は指折り数え始めた。

「言い出しっぺは福井さん。それに賛同したのが、花咲さん。悪ノリしたのが斎木さん。フツーに欲しがったのが綾木さんと片桐さん」

「……仕事増やしてやる」

 地を這うような声でそう言う湊のスキを突き、「ていや」などと言いながら、成宮は湊の頭上に猫耳カチューシャを無理やり置いた。髪と同じ黒だから、なかなかどうして。良く似合う。これで似合わなかったら笑うのだが、似合ってしまうなら仕方ない。仕方ないので、とりあえず写メを連写する。

「ちょっ! 成宮くん?!」

「スマホの動画機能って便利だよな〜」

「今すぐ! 消して!!」

 湊は懸命に成宮のスマートフォンを取り上げようとするが、そこには悲しいかな、タッパの違いがあった。湊の頭を押しやりながら、湊の知らない所で結成されている『湊を愛でる会』と言う何とも安直な名前のグループLINEに動画を含め撮った写真を投げた。秒もしないで全員分の既読と感想が送られてきたのだが、もしかしなくても今日は暇なのでは? と思いそうになるが、落ち着け。相手は紛いなりにも警察だ。暇なわけがない。ただ、異常に反応が早いだけだ。

「成宮くん!」

「依頼、来てるぞ」

 ノートパソコンを指せば、少しパソコンと成宮を交互に見たあと、湊はノートパソコンに向かった。優しい優しい『カミサマ』は、自らを頼る声を無下にすることは出来ない。それが良いのか、悪いのか。成宮には判断がつかない。元より、難しいことを考えることには向いていないのだ。だから、考えることは止めどんどん流れていく感想を眺める。

「ま、結局俺もお祭り好きってことで」

 そうイタズラっ子は騙り、満足気に笑った

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ボクの世界、キミの世界 月野 白蝶 @Saiga_Kouren000

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