~6~
「行きます」
ミドガルズオルムは静かにエンターキーを押した。『少年拉致犯』と言うタイトルの元、ありとあらゆる場所に犯人の情報が流れて行った。顔写真、交友関係、LINEのやり取り等、全ての情報が、だ。
次いでフェンリルが、『犯人の居場所』とタイトルを付け、犯人のGPS位置情報を流した。
そして、最後にトールが静かに『警告』と入力する。
我らが『カミサマ』を奪わんとする全ての者に告げる。
我らはそれを決して許さない。
例えどこに居たとしても、隠れても、見つけ出し貴殿らの全てを晒す。
これは警告であり、宣言である。
我らは『カミサマ』を護りし者。
敵となるならば、容赦はしない。
そこまで入力してから、トールは通信機に向かってひと言、「行ってください」と告げた。フェンリルのことだ、逃がすわけがない。
しばらく沈黙が続き、通信機から『捕らえました』と告げられ、スルトもミドガルズオルムも安堵の息をついた。毎回、これを聞くまでは安心出来ないのだ。恐らくこれからもそうであると思うが、今回の『警告』で恐れをなし、止める輩も少なからず居るはずだ。そう願うしかない。
チラリとトールを伺い見ると、彼は机で組んだ両手を見つめ、長い長い息をついていた。
「フェンリルさん」
『は、はい』
「
『っ! はいっ!』
それを告げ、背もたれに身体を預けた後にまた長い長いため息をつき、トール——綾木は穏和な笑みを浮かべた。
「花咲さんも福井さんもお疲れ様でした」
「いえ、これしき」
「苦じゃないですよ」
スルト——花咲がおっとりと微笑み、ミドガルズオルム——福井が親指を立てながらウィンクした。
「すみませんが、片桐刑事に病院へ行くように伝えてもらって宜しいですか? 恐らく今回の件はまだ耳に入っていないはずです。驚かれるとは思いますが……」
「あ、じゃあ俺やっておきますよ」
「すみません、よろしくお願い致します」
おっとりとした笑みを浮かべ、綾木は席を立った。
「私はこれから捜査一課に戻ります。犯人の身柄はそちらにお渡しください」
『了解です』
通信機越しに返事を聞いた綾木は満足気に頷き、「後のことはよろしくお願いします」とだけ告げた。
綾木の姿が完全に部屋の外に出たのを見て、福井は独り言のように呟いた。
「俺さぁ、今まで湊くんが綾木さんを何であんなに尊敬するのか分かんなかったんだけどさぁ」
ギッと背もたれに寄りかかり、天井を見上げ、
「今日ようやく分かったわ」
暗闇に包まれた天井を見上げ、
「あの人も、立派な『カミサマ』なんだなぁ」
そう締めくくった福井に、花咲は何も言わなかった。
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