~2~

 裏道を駆使して駆使してたどり着いた廃ビル。相手のGPSはここを示しているし、成宮のGPSはまだここに到着していない。内心ガッツポーズを取りながら、入る前に綾木に電話をかけると。数拍も置かずに相手は出た。

『どうですか?』

「ビンゴですね。厄介なことに拳銃とナイフを持っています。女の子は無事ですが縛られてますね。成宮君に何かさせる気でしょう」

『そうですか……』

「ボクはこれから中に入ります。携帯は通話状態にしておくので、確認をお願いします」

『分かりました』

 綾木の返事を聞いてから、スマホをスピーカーが上になるように尻ポケットに入れ、上着で隠す。そして、さも迷子になったかのようにビルの中へ入っていった。

「あの……誰か居ませ」

「誰だ?!」

「ヒィッ!」

 臆病な少年のフリは得意だ。湊の場合、見た目の儚さも相まって、余程か弱い少年に見えるらしい。悔しくはない。ないったらない。

「……チッ、ガキか……ちょうどいい。お前、こっち来い」

「な、何ですか?」

「良いから来いつってんだよ!」

「ごめんなさいっ!」

 半べそをかきながら近寄れば、手を縄で縛られた。どうやら人質を二人にするつもりらしい。何をさせたいのかは知らないし知りたくもないが、この犯人は相当頭が弱いんだな、とふとそんなことを考えた。何のための拳銃なのだろうか。何のためのナイフなのだろうか。縄で手を縛るくらいなら、足を撃つなり切るなりした方がよっぽど効率が良いだろうに。少なくとも、『あそこ』ではそうしていた。

「おら、こっち来い」

「は、はいぃっ!」

 ビクビクとしたフリをして後ろをついて行くと、案の定、同じように縛られている少女の隣に座らされた。少女は既に半泣きで、ひたすら成宮の名を呼んでいる。

「こんにちは」

「?!」

 男がどこかに行ったスキをついて少女に声をかける。声を上げそうになる少女に、「しーっ」と声を潜める。

「成宮君なら、今こっちに向かってる。安心して、絶対無傷で帰れるよ」

「あ、あなたは……」

「成宮君の……知り合い、かな」

 緩く苦笑し、無難な言葉を投げた。ただのクラスメイトと呼ぶには近すぎて、友達と呼ぶには遠すぎる。そもそも、友達を作ってはいけない身の上で、仮にも『知り合い』になれたのだから拍手ものだろう。

 そうしてしばらくすると、拳銃を突きつけられた成宮が部屋に入ってきた。そして湊を見るなり目を丸くする。

「は……片桐!?」

 湊が居ることで混乱したのか、思考が回っていない顔をしている。男は、湊も知り合いだった事が嬉しいらしく、ニヤニヤと笑っていた。

「なんで……」

「事件だって言うから探ってたら、ちょっとミスっただけ」

「ちょっと、って……」

 白々しい嘘をつけば、成宮はそれを信じきったのか言葉を失った。通話越しの綾木なら笑って嘘だと見抜くだろう。湊がと。常に計算づくされた発言に、相手の心理を見抜くような行動。『ロキ』と言う人物は、そういう風に出来ている。よって、ミスなどしない。ありえない。あったとしたら、余程のことだろう。

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