91話:内緒の初ホラーはVRから⑧
直前で止まったはずなのに、さっきまであった絵の中に取り込まれるように景色が一気に変わっていく。さっきまでいた先輩も消えて夕夕暮れ時の見知らぬリビングルームに居た。カーテンを開いてみると、外の景色も知らない場所だ。
「あちゃ~、始まっちゃったね」
ミスナ先輩の声は焦りと言うより、今から悪戯をするかのような声色だった。
「あの、誰も見えなくなっちゃったんですけど⁉」
「大ジョブだよ~、視聴者さんには私の姿も見えてるからね~」
「うむ、手を振っておるのが良く解るぞ」
一緒の室内に居るから手を振り返している訳じゃなく、画面越しに手を振ってる感じなんだろうか、僕の方からだと良く解らない。
==ちょっとビクビクしてる悠月ちゃんが妙に可愛い
==ミスナ先輩が見えなくなった途端に周りをキョロキョロしだしたもんね
==外を覗いて探してるのも良いね
室内にあるモニターを見てみると、そこにはコメントが流れているのが見える。
==俺達を見つけて安堵してるのも、いいね
==急に笑顔になったな
==悠月お姉様~、大丈夫ですからね
==私達がついてます
「嬉しいんだけどね。確かに何時もと変わらない君達を見てるとすっごい落ち着くんだけどさ、少しも救いじゃないんだよ! 助けてよこの空間からさ」
モニターを掴もうとするも、僕の手が触れられる訳もなくスカスカとすり抜けるだけ。
「何をしておるのだ、もうげーむは始まってしまっておるのだぞ」
「いや、まだでしょう。だってタイトルとか見てないしスタートだって――」
なんかまるで一人で喋っている様で上を向いて喋ってしまう。
ツンツンと肩を突かれて全身がバネみたいに跳ねて、振り返ってみても誰も居ない。
「ちょっと誰ですか⁉」
「ごめんなさい、あまりに動きが可愛かったから」
「キャリ先輩はそんなことしないと思ったのに……裏切られました」
「あ~、そんなしょんぼりしないで」
「それより、何時までも始めないのはだ~め。早くゲームを開始しようね」
「このままお姉様を見ているのも良いんですけどね、それでは放送事故と変わりありませんよ。頑張ってください、大丈夫ですよ私が近くに居ますからね」
菜々美さん……基、奈々先輩が物凄く優しい声で語り掛けてくる。
==ん? 近くに居るってどういうことだ?
==スタジオでやってるんだろう……近くで見てるって言ったね
==つまり、先輩達と集まってやってるってことか?
==秋ちゃん、貴方の子達が春っちの所に入り浸ってるが良いのかい?
秋さんというのは先輩達が所属している大本である本社のトップだ。
ハル社長の事だから許可は取っているだろう。
「僕のプレイ画面ってどういう感じで見えてるの?」
「そうですね……悠月ちゃんが映画館みたいな舞台の上に居て、大きなスクリーンに悠月ちゃんの視点でゲーム画面が映し出されている感じですね」
「へぇ~……ん? 僕が舞台に立ってるんですか?」
「うむ、立っておるぞ。手をそのまま振ってみてくれぬか」
「こう?」
「しっかり手を振ってる悠月ちゃんが見えてるね~」
「お姉様が動いてます。感動です」
しばらく僕の動きが停止してから、数秒間は固まっていた。
「えぇ~、なんで僕の知らない所で3D配信をしてるのさ⁉ そういうのはもっとこう――――色々と準備をしてから、大々的に宣伝してからやるんじゃないの⁉」
「大丈夫、悠月ちゃんの知らない所では大々的に宣伝されてたからね」
「あんまりフイットの確認してないでしょう。配信をするって事しか呟かないもんね。フイットをしっかりと調べていたら……気付いたかもね」
ガクッと崩れ落ちて、地べたに両手をついてうなだれる。
「もう、無駄話が多いな~。勝手に始めちゃおうね~」
ミスナ先輩が僕の頭をガシッと掴まれて、視点をホラーのスクリーンへと向けてから手元にコントローラーを握らされて、グイっと前に突き出しながら勝手にボタンを押す。
「それじゃ、頑張ろうね~」
時間稼ぎも此処までらしい、一気に周りの景色が暗くなっていく。
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今週は忙し過ぎて全然書いたり見直しやら修正ができず投稿が遅れました。申し訳ございません。_(._.)_
五月は何でこう仕事が多く……(´;ω;`)
無理して体調を崩さないようお気をつけてお越しくださいませ。そろそろ、投稿スピードは戻るかと思います……落ち着くはず、これ以上仕事を回して来たら、呪ってやるのです。(# ゚Д゚)
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