90話:内緒の初ホラーはVRから⑦




 スタジオの方は機材が多く、まだコンピューターの微調整が完璧に終わらなかったそうだ。今からやるホラーゲームで怪我や体調に影響が出てしまう事を恐れて、寮の方でやる事になったらしい。


 父さんも居るから、この家全体のネットワーク環境は完璧に使えるようになっている。


 そして、僕がパニック状態になったとしても、広い場所で動き回れて怪我をしない様にと細心の注意を払ってクッションやら毛布なんかでしっかりとガードされている。


 場合によってはメイドさん達や執事さんが助けてくれるという感じで万全の状態が出来上がってしまっているのだ。


「少し慣れる為に、今の内から付けときましようね~」


 母さんが耳元で囁きながら、僕の事を羽交い絞めにしてきた。

 手早くメイドさん達が僕にヘッドギアを被せて、VRゴーグルを装着されてしまう。


「何にも見えないんだけど⁉」

「そりゃ起動してないんだから、画面真っ黒でしょう」

「は~い、とりあえずこっちに来てね~」


 誰か分からないけど、スベスベの柔らかい手に両手を引かれて、柔らかいソファーに座らされてしまった。外そうとすると小声で耳元から「だ~め」という声が聞こえてくる。その上に触ろうとする手を抑えられて、膝元に手を置かれてしまう。


 しばらく動かないでいると、先輩達が急に発声練習やらカタカタとキーボードを打っている感じの音が聞こえてくる。


 目の前が明るくなったかと思うと、バーチャル空間が目の前に広がっている。


「なに、ここ?」

「やっほ~。どうかな変じゃない」


 立体のキャラクターで目の前に現れたのはミスナ先輩だった。


「はい、可愛らしい先輩が見えますね」

「もう~、口が上手いんだから」

「お世辞に一々反応しなくて良いから、早く企画を説明するわよ」


 声だけ聞こえるのはキャリ先輩だろう。


「それでは、画面や音量チェックをしようかのう」


 カミの声も近くで聞こえてくる。


 多分、このヘッドギアから直接聞こえて来ている。

 リアルな感じで魅せる為に音質も良いから耳元で喋っている様に感じる。


 それに気付いたのか、音量調整を父さんがしてくれているんだとは思うけど、普通にディスプレイで見ている感じで聞こえる様になってきた。


 それにしても……、この室内は不気味な雰囲気が漂う場所で居心地が悪い。


「私はアドバイザー的な立ち位置で一緒にプレイしますよ。後ろから見ているだけですけどね、ちなみにカミちゃんの3Dはまだまだ調整中ですからね。今日は一万人突破記念という事でずっと前に到達していた悠月ちゃんには、3Dの発表と前のコラボで約束した罰ゲームを同時にこなして貰おうと思います」


 少し色々と見て回っていると、急に部屋の隅っこの方から巨大なコメント欄が飛び出して来た。

 僕はびっくりしてその場で飛び退いてしまった。


 パチパチと瞬きしながらも、おっかなびっくり出て来たコメント欄に近付いてみる。



 ==驚き方が可愛いな

 ==ビクッてしてたね~、声も押し殺す感じだったけど可愛かった



 そんな感じのコメントが多く流れていく。


「へっ⁉ これって映ってるんですか⁉」

「うん、可愛い悠月ちゃんが動いてるわよ」

「お姉様の貴重なシーンを見れて幸せです」


 楽観的な声が聞こえるけど、意外にもこういう雰囲気の部屋を見ていると気分的には助かるんだけど、早く今の状況から助けてほしい。


「わぅ⁉ 今度はなに⁉」


 僕の見える部屋を見回していると、急に映画を映すスクリーンが現れる。


「物凄く振れたくない字幕と、背景が映ってるんだけど」


「その背景に向かって進むとスクリーンの中に入れるんだけど、そうするとゲームが開始しちゃうから気を付けてね」


 近付こうとしていた僕の足がピタリと止まった。






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