89話:内緒の初ホラーはVRから⑥
連れて行かれた場所は寮のリビングルームだった。
外とは違ってまだ家具類は殆ど無く広い空間になっている。
ただ気になるのは、壁際や窓なんかには安全素材っぽいモノが付けられている。
「なに、この変な感じ?」
強制的に連れて来られた先が寮なのは別に良いとしても、なんで室内には変な感じの細工がしてあるのかが、まったくもって意味が分からない。
僕がキョロキョロと室内を見回していると、カミと父さんが何やら不思議な道具を持ってきた。一つはカメラだと分かるけど、他のモノがちょっと分からない。
「本来ならカメラだけでも良いんだけどね」
「ダメじゃぞそれ以上は、もしも喋ってしまうと……のう」
更紗ちゃんも父さんに向かって人差し指を口に当てて「シー」と秘密を強調する。
「さて、悠月には前々から約束しておったゲームをして貰わなくてはならんぞ」
其々の出口には先輩達が立っていて、全員が同時にカチャリとドアの鍵を掛ける音が聞こえてきた。二階への道はワザとらしくメイドさん達が飲み物やら、軽食の準備が用意してるテーブルで塞いでいる。
なんか丈夫そうなケースに入っているモノは、手袋や足や腕に巻く感じの道具だった。
「急ピッチで進めたからね、まだまだ荒いけど悠月にはちょっとしたサプライズ配信をして貰おうと思ってね。調整しながらだから早めに始めようか」
メイドさん達がサッと僕の近くまで来て、さっきまでケースに入っていたはずの道具を僕の体に取り付け始めてしまった。
「コレってもしかして」
「ハル社長が張り切って準備したんだよ~。後輩の門出を祝いに先輩である自分らが駆け付けたって感じだよ。まだ悠月ちゃん分しかないんだけどね~」
何故だろう、さっきから涼子さんの言い方に違和感を感じるんだよな。白々しい感じに思えてしまうの気のせいだと思うんだけど……それに、カミの言っていた約束って。
必死にカミとした約束の話を思い出そうとして、ある一つの事を思い出した。
先輩達も居るって事は、もしかして……。
「あの、おトイレ」
「そこにあるではないか、配信が始まる前に早う済ませておくのだぞ」
此処まで案内された時点で僕はもう逃げる事は出来なかった訳だ。
今更にこの場から逃げ出そうとしたところで、僕を逃がさない様にと出入り口を塞がれてしまっていては、逃走は不可能だ。
「何時から僕って嵌められてたのさ?」
「ハル社長が居る事務所に向かうと言った時点で、計画は動いておったぞ」
「それじゃあ先輩達と合流した時には、僕は既に逃げられなかのか」
「まぁ裏切ろうとしていたヤツは居ったようじゃがのう」
全員の視線が菜々美さんに集まっていく。
「私はお姉様の味方でしたからね」
ツンとした感じで口先を尖らせて、拗ねた様に僕から顔を背ける。
「あの時にか……」
「私としてはどっちでも良かったんです、ですよ? だって怖がっているお姉様も見れるんですからね。最後の良心を綺麗に裏切ったのはお姉様ですから、ねぇ」
そう言われてしまっては、返す言葉も無い。
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