92話:内緒の初ホラーはVRから⑨




 風景が切り替わり、すぐに周りを見回してみるとマンションの廊下らしき場所に立っている。団地に並ぶ感じで隣に同じ建物だろうマンションがある。


「なんかさっきと雰囲気が全然違うよ⁉」

「そりゃあ見た通りの場所からスタートなんてしないよ~」


 夕暮れ時で薄暗くなる一歩手前みたいだ。

 中央の道にある街灯が点滅しながら光っているのが確認できる。


 そうやって周りの景色を楽しんでいると、すぐ後ろからガチャっと扉が開いた音が聞こえて、すぐさま振り返って見る。


「ひぅ⁉ ……だれ?」


〈もう遅いよ~、ずっと待ってたんだよ〉


 少し前の立体キャラクターみたいで、ちょっとだけポリゴンっぽくて画像が荒い感じの若い女性キャラが出迎えてくれるが、彼女の部屋を覗いてみると生活感がまるでない。


〈どうしたのワン君? 入って?〉


 声は可愛らしいのに、どうも不気味な感じが抜けない喋り方だ。


 すぐに彼女の胸元辺りに選択のウィンドウが表示される。表示されている文字の上には数字が刻まれているカウンターらしきモノもついていた。


 じ~っとその数字がゼロになるのを待っていると、カウントの数字部分が赤く変わり名前の知らない彼女の表情もどんどんと険しいモノになっていく。


〈さっきから黙って? なにかあった?〉


 お化け屋敷みたいなゲームってよりも、雰囲気や人が怖いって感じのホラーゲームっぽい展開だ。驚かしてくるとかじゃあないんなら、別に大丈夫かもしれない。


〈無視する気なんだ、私が話しかけてるのに……〉


 考えごとをしながら見ていたら、もうカウントがゼロになってしまっていた。


「あっ、選択肢が消えちゃった」



 ==初回からやっちゃったね

 ==その選択肢を選んだのはフタバちゃんだけだぜ



 目の前の女性を改めて見ると、瞳の光が綺麗に無くなっている。

 深く病んだ瞳でじ~っと僕を見つめてくる。


〈この時間、一人で出歩くと危ないんだよ。この団地はちょっと曰く付きでね――〉


 急に説明口調で話し始めた。


「なんでそんな危ない団地に女の子が一人暮らしをしてるんだよ」


『まぁ、そこはお話という事であろうな』


『そもそも、このルートに入るのはもうちょっと後だったに彼女を無視するからゲームが始まっちゃったんだよ~』


『彼女が主人公を呼んだ理由とかは返事をしていれば聞けたんですよ、お姉様』


『頑張ってください。そのモードは難易度が高いですから』


「え? 難易度が高くなるってどういう……」


〈キミが変な場所に迷い込んで、災いの類を踏んじゃったっていうから助けてあげる代わりに、私の事も守ってくれるって言ったのに嘘だったんだ。へ~そう、そういうキミにはお仕置きが必要だよね、ふふ……今何時だと思う? もうすぐ、例の時間だよ〉


 物凄く眩しい笑顔で微笑みながら、彼女は僕を突き飛ばして速攻で玄関を思いっきり閉めてしまう、ガチャガチャと厳重に施錠する音まで聞こえてくる。


〈それじゃあ、頑張ってね。この団地で生き抜くには隠れて生きる事が大事だよ、ふふ〉


 マンションの中央に付近に立っている円柱の時計が4時44分を指して、子供達の笑い声が反響するように響いて聞こえてきた。








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