75話:揃った初期メンバー⑥




 全員のデビュー配信が終わるって、チャコットで通話をしながらお喋りしていると、意外にも時間の流れが早く、深夜帯に突入しようとしている。


 明日は学校が無いから問題はないが、こうして大人数で話しているだけで体感一時間くらい。

 ゲームをしたら本当に時間が一瞬に感じそうだ。


『それで、個人的に聞きたいんですが……実際に恩霊先輩の性別って男なんですか?』


 柳生さんが弱々しく、聞いてくる。


「あぁそれは――」

「悠月は悠月じゃぞ。まぁ気になるなら会ってみてからじゃろう。どうせ通話だけでは悠月の性別など判断は出来んぞ。……まぁ、会って見ても分かるかどうか怪しいがのう」


 そのニヤニヤした笑い顔で僕の方を見ながら言うんじゃない。


 しかも、その言い方だと逆に気になる感じで終わっちゃってるじゃない、別に僕は男だと最初から言っているんだから、男で良いじゃんかよ。


『ぬぉ~、めちゃくちゃ気になるんですけど⁉』

『アタシとしてはどっちでも良いけどね』

『そんなこと言って、実際は気になってる?』


『まぁ恩霊先輩は性別が恩霊先輩ですからね……実際に会ってからのお楽しみという事で楽しみにしています。早く本社が完成してくれれば、会える機会もありますよね』


 ハル社長が完成まで半分くらいだって言ってたけれど、外装なんかはもう既に出来ている。

 事務所はもう使えるみたいなんだけど、そこから僕等が活動するための施設に時間を取られていると、父さんが教えてくれた。


 先を見越して広く動ける場所に、AR技術にVRと僕等の事を配慮してくれたモノにすると、頑張ってくれているらしい。


 ちょっとした専用スタジオなんかもあるらしく、僕達も完成と楽しみにしているのだ。


 本社の進行度ついでに、僕等の引っ越しも、もうすぐ始まる。会社の完成前には新築の方に引っ越しをする予定だ。内装も終わり後は確認事項と検査なんかで終わりだそうだ。


『本社のスタジオが使えるようになれば先輩達の3D配信とかも見れるんですかね』


「どうなんだろう、その辺はまだ僕等も聞いてないな」

「そうじゃのう…………記念配信として、印象に残るモノにしたいのう」

「カミ? なんで僕の方を見ながら言うのかな?」


 表情を変えずに、ジッとカミが見てくるので物凄く怖い。


 なんか考え事をしながら僕を見ている様で、徐々に口角が上がっていくのも解るほどに、ゆっくりとムカつく笑みに変わっていく。


 すると、何故か無言でチャコットに何かを書き込んでいる。


 僕が見ている場所に反応が無いという事は、ハル社長宛に送信しているんだろう。

 一体何を思い付いたのか……確実に僕関連の事でハル社長に相談している気がする。


「カミさんや、いったい何をハル社長に相談したんだい?」

「ほう、そこまでは分かるのだな」


 カミの登録している人数なんて今までに知り合った人だけだ。というより、僕と同じ人達しかチャコットに登録されていないだろう。


『さっきから会話を聞いてて思ったんだけどさ、二人って一緒の場所に居るのかな?』


「そうじゃのう、色々とあって我は居候なのじゃ」


『え……それは、知らなかった?』

『なんでフロネが恩霊先輩の事を知ってるのよ?』


 まったくです。僕はフロネちゃんと会った事も無いのに、なんで知っている風な言い方なんだろう。少しびっくりしたよ、一瞬だけど会った事のある人なのと考えてしまった。


『羨ましいです~。私もお邪魔したいな~』

『アンタの場合は本当に邪魔したい欲が混ざってそうで怖いのよ』


 シェルちゃんの的確なツッコミに少し救われる。


 前の配信を見ていたせいで、エルモちゃんの言い方が妙に無機質なモノになって瞳に光がなくなった状態で話しかけられている様に聞こえてしまう。


『初めの配信から仲が良かったですからね~、そうですか、二人は一緒の場所に居るんですね。通りで普段の会話から、ちょっとした家庭環境みたいな話が多い訳だ』


「柳生さん、貴方は少し黙りましょう」


『えっ⁉ なんで!』

『火に油を注いでるからよ⁉ 火消は誰がするのよ!』

『なるほど、確かに言われてみればそうかも?』


『やっぱりズルいんだ~。…………そういえば、ハル社長が本社近くに住める寮的なモノを作るって言ってたし、そっちに住もうかな。そうすれば恩霊先輩と近くに住めるって事ですよね。だってハル社長の所にデザートを持って遊びに行ける程なんですから』


『あぁ、そういえば色々と家事で手伝いをしてたって、話してた?』

『ですよね、そうですよ。つまり――』


 なんか組んではならない二人が物凄い会話をしながら話し合いが進んで行くんですけど。


『ほら見なさい⁉ どうすんのよ⁉』

『いや、マジですみませんでした。でも、あそこに飛び込める勇気は俺には無いっす』


 邪魔したら、一喝されて終わりそうだもんね。


「僕だって怖いです……でも、小火にガソリンを注いで火を大きくしたのは柳生さんです。何とかしてくださいよ⁉ 被害を受けるの僕なんですけどこの流れって」


「なんとも、恋する乙女は強いのう」


 何を他人事みたいに言ってるのさ、カミだって関係してるんだからね。






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