61話:純心無垢
「ほら何時までもいじけてないでさ」
「うぅ~、本当ならば我が紬に良い所を見せるはずだったのだぞ。というか、何時の間にあそこまで覚えたのだ? 我よりも知ってる事が多い気がするぞ」
「そりゃあ、皆でやる前にぶっ通しでプレイしてたからね。父さんに付き合いながら」
「どうい事じゃ? 我は聞いておらんぞ」
テストプレイで問題が起きそうな所とか、マイクの確認と配信でどうなるかっていうのを色々と試していただけだからね。その時にどういう感じのゲームなのかは一通りに調べたし、作れるアイテムなんかも覚えたのだ。
学校に行っている間は、カミがプレイしているだろうからって事でちょっと夜遅くまで動作確認のついでに楽しんでいた。
「先に楽しんでおったと言うのか、ズルいぞ」
「まぁ初見プレイって言うのは大事だよ。やっぱり初めてのプレイする人の面白さってあるからさ、その辺をカミがやってくれると嬉しいかな」
「しかし、今度のコラボは初見でしかプレイ出来ぬぞ。何せ怪談話じゃからな、今回の様な手は使わせぬからな、絶対に紬が知らぬ恐怖を味合わせてやるからのう」
今回の手を使えば父さんと一緒にプレイ出来るし、本番でも取り乱さないで済むと思っていたのに、父さんの方に顔を向けるとニッコリと微笑んで僕を見ている。
「ホラー系はやっぱり初見に限るよね。大丈夫だよ僕の方で色々と確認しておくからさ。ホラー系のゲームに強い友達も居るからね、そっちに話を聞いておくから安心してくれ」
完全に僕に内緒でゲームを決める気だよ。
「せ、せめてタイトルだけでも」
「駄目だね~、もしも動画サイトでホラー系を調べる様な事をしたら、一時的に今後の使用は禁止にするか、検索制限を掛けちゃおうかな~」
こういう時の父さんが言った事は確実にやって来るので、僕が少しでも調べた痕跡が見つかったりしたら、更に怖いゲームを選んで僕にやらせる上で、禁止事項を追加してくる。
「我慢します」
「紬は良い格好をすぐにしたがるからのう。我にあんな恥ずかしい思いをさせたのだから、次は紬の番なのだぞ。思い返すと顔から火が出そうじゃ」
「良く言うよ、僕を普段から振り回してるクセにさ」
「我は良いのじゃ」
「偶にはカミがああいう役回りでも良いと思うんだよね。随分と可愛らしかったしさ」
「よ、余計な事を言うでない。全く、これだから紬は質が悪いのじゃ」
もう少し言い返してくるのかと思ったら、急にしおらしくなって顔を背けられた。
「いやいや、なんで僕が質が悪いって話になるんだよ」
意味が分からくって首を傾げていると、母さんも含めて僕以外の全員が大きな溜息と残念なモノを見る様な目で僕を見てきた。
「のう、育て方を少しばかり間違えたのではないか?」
「そうね~、ここまでズレてるとは思わなかったわよ。我が家の事をやらせ過ぎちゃったかしらね。もうちょっと春を楽しんでくれても良いと思うのだけど」
「そういえば……紬の部屋でアレな本を見たことが無いな……もしかして、まだなんじゃないか……いや、でもなぁ、どう思うよ杏ちゃん」
アレとかコレとか良く解らない言葉で何で分かるんだろう。僕には父さん達が何を言ってるか、全然分からないのにな。
なんかカミの方も理解してる所があるし、僕が変なのかな。
「優しめの方が……良いわよね」
「昔描いてた、優しめので良いんじゃない? 流石に俺は紬の未来が心配になってきたよ」
母さんが部屋に向かって行って、すぐに薄い本を片手に持ってきた。
「しかし、紬はお主らの部屋だって掃除しておるはずだろう? 流石に知っておるだろう」
「知ってるって、母さんの仕事なら知ってるけど? でも、必要なモノを整理したりするだけで、中身何て見てないよ」
前にちょっと興味本位で捲って見たことはあるけど、刺激が強すぎて危なく倒れそうになって以来、中身を見ない様にしながら、片付けてるからね。
表紙が妙に肌色成分の多いモノは布で隠しながら端っこに寄せて母さんに片付けておく様にきつく言っているので、僕は殆ど触らないしね。
「ねぇ、紬ちゃん。コレぐらいは読めるわよね」
なんか母さんが申し訳なさそうにゆっくりと差し出してきた本を手に取ってみる。
女の子達が多い表紙だけど、別に変な所はなさそうだ。
「母さんが昔に描いてたの?」
「う~ん、まぁそうね」
「ふ~んそうなんだ、前に如何わしい本があったりしたけど、あの類じゃあないよね」
「見てみれば分かるんじゃない」
確かにと思い、ペラっと薄い本の中身を見てみる。
ほぼ服を着ていない様な女の子達が目に飛び込んで来た――。
☆★☆★
「流石に純情過ぎんかのう……気絶しおったぞ」
「一人で留守番とかしてる時にでも、覗いてると思ったのにな」
「紬は変な所で真面目さんだからね。しっかし、気絶するとはな……大丈夫か息子よ」
「こっちの方で揶揄うのは止めた方が良さそうね」
「うむ、これはちょっと貴重じゃしな」
「君達、物凄く良い笑顔をしながら言わないでくれないかな、ちょっと紬が可哀想だって」
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