58話:カミの頑張り配信
昨日は物凄く疲れてしまい、帰ってきてからすぐに寝てしまったので気付かなかった。
何時もなら一人取り残された日は必ずと言って良いほどに絡んできて、ゲームをしようとせがんでくるのに妙に大人しい、なんか母さん達も静かだ。
「そういえばさ、なんかやってたんでしょう? 成果はどうだったの?」
何をやっていたかは分からないけど、気になったので聞いてみただけなのに、カミはあんまり聞いて欲しくないのか、肩をビクッと跳ねさせて目を逸らしていく。
「うむ、そうじゃな~。ちょっとまだ上手くは出来なくてのう。見せられるようなモノは全然作れなかったのじゃ。だから気にすることは何も無いのう」
普通にそう言われていたら気にならなかったけれど、どう見ても何かありましたって雰囲気を醸し出している時点で、なにも聞かないという選択肢は無い。
「……今日はゲームしないの?」
「え、あぁ~そうだのう……明日でも別に構わぬぞ。今日は疲れているのであろう」
途中から良い事を思いついた様に、表情が急に明るくなった。そんなカミを見てやっぱり何かを隠していると確信が持ててしまう。
僕がじ~っとカミの挙動を観察していると、その目に気付いたみたいで慌てて母さん達の作業部屋へと駆け出して行った。
「今日はゆっくりと過ごそうぞ。偶には休憩というのも必要であろう」
最後にひょっこりと顔を出しながら言い、すぐに顔を引っ込めて扉を閉める。
突撃して聞き出すのは骨が折れそうだけど、自分から探る事は出来そうだ。
なにせクラスメイトから聞いた事だけど、配信をしながらやっていたんだもんね。
今の世の中は便利だよね、携帯端末でもネットは見れるのだから。
カミと一緒に作ったんだから僕が君の登録をしてない訳がないんだよ。
今日の配信だから一番上に出てくるはずだ。
「あったね……サムネはブロックラフトかな」
そういえば整地作業とか言っていたような、いなかったような気がする。
「視聴者目線で見るのは、初めてだな」
あんまり意識して来なかったのは、ちょっと良くなかったかもしれない。もうちょっと視聴者の目線を考えて配信もしないとな。その辺は父さんの補助があって出来ている事も多そうだし、頼り切るのは駄目だよね。
新鮮な気持ちでカミの配信を見ていたのだが、途中で気付いた。
このサーバーってやり直しは聞かないと思うんだけど、大丈夫なのか? 春社長から僕等のグループが作っていくサーバーなので、失敗してもやり直せるサーバーではない。
メンバーが揃ってから名前を付けるから、今はまだ世界の名前は無い。
「まぁ整地作業だけだし、別に問題は無いかな」
そう考えて動画を再生しながら、適当に夕ご飯の下準備だけ始める。
音が漏れない様にイヤホンで音量は出来るだけ小さくしながら聞く。ちょっと高いイヤホンだけど、コードが無い分で料理を作る時に邪魔にならないのは嬉しい。
レンジなんかを使うとノイズ交じりになる事があるから、その辺は善し悪しだ。
『ふふ、今日は一人じゃぞ。我が一番にこの世界に来たのだ⁉ そして、次に来るであろう悠月には我が凄いという所を見せつけてやるのじゃ』
一人の時でも変わらず、カミはカミらしい。なんかちょっと安心というか、微笑ましく思えて笑えてくるんだよね。もちろん、悪い意味ではなく良い意味合いでだ。
『整地作業からじゃろう……どの辺が良いかのう、始まりの場所からは近い方が良いだろうし、かといって景観とやらも大事だと聞いたぞ』
ちゃんと先輩達の話を覚えていたみたいだね。
何人かの先輩達がカミの配信を見ているらしく、コメント欄でアドバイスなどを飛ばしているようだけど、景色や考える事に夢中で気付けていない様子だ。
『ぬ? 先輩達が居ると? こめんとの方かのう……ん~っと、おぉおったぞ』
先輩達から先ずは木を切って道具を作る事のアドバイスを見つけたみたいだ。
早くしないと夜になって敵が湧き始める時間になってしまうから、その前には安全を確保しないと大変な事になるのだ。
『そ、そうか木じゃな……木……ないぞ?』
少し焦りながら高い場所に上って周りを見回すと、少し遠くの方に森があった。
『急がねばならんのう』
まだ飛び跳ねて移動をした方が早いと知らないカミは、一生懸命に地面を走って移動しながら、森に到着してすぐに木を殴り始める。
『コレで壊せるのかのう?』
ひび割れて、すぐに壊れるとアドバイスを言ってくれる視聴者と先輩達に従って必要な道具を揃えていくが……もう既に敵が湧き始めてしまっている。
『ひぃ! なんか呻き声が⁉』
そう言って走り回ってしまったが最後、周りの敵を引き付けてしまって、自爆する敵にも大量に追われて、どんどんと大変な事になっていく。
何とか応戦しようとしたのが運尽きだった、自爆した敵が誘爆していって整地というよりもボコボコの地面なんかが出来始めていく。
『助けて悠月~、変なのが一杯来るのじゃ。地面が~、止めるのじゃ⁉」
僕に褒められようと頑張ったみたいだけど……これはこれで、面白いから良いのでは? 思わず手を止めてしまっていた。
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