57話:コラボの結果と次への意識③




「よう、おはようさん」

「北斗? 今日は早いじゃんか」


 いっつも遅刻ギリギリか寝坊して登校してくる事が殆どのヤツなのに、珍しく朝から、しかも僕よりも早くに教室に居るなんて思わなかった。


「今日は雨?」

「やめてよね、登校日初日に天気が崩れるなんて。気分が落ち込んじゃう」

「俺のせいにすなや」

「北斗が珍しい行動をしてるのは事実だからね、どうしようもないかな」


「しょうがねぇだろう。昨日は寝る時間がいつもより早かったんだからよ。疲れたタイミングも良い時間帯だったし、お陰様で朝っぱらから目がさえちゃってよ」


「何かしてた? いや、見てた、かな?」


「正解、最近になってハマってさ。悠月ってバーチャルライバー知ってるか? あの子の配信を見ながら、俺も一緒のゲームで並走しながら遊んでんだよ」


「最近のだったらコラボ配信のブロックラフトだっけ?」


「お、知ってるじゃんか。それで黙々とやっちまって疲れたと思って寝たら、丁度良い時間の朝だったんだよ。姉貴にも引っ張られて登校ってわけ」


 流石は北斗のお姉さんだね、初日くらいはちゃんと引っ張ってきてくれたんだ。

 お陰様で、友達達からは雨が降るだの言われて揶揄われてるけど。

 他の子達も傘を持ってくるのを忘れたと、冗談交じりに言っている。


「でも意外ね、アンタってそういう感じの動画って見ないと思ってた」


「別に嫌いじゃねぇよ。ゲーム自体は好きだからな。楽しく遊んでたり、頑張って攻略をしてるのを見るのは楽しいからな。上手い人のプレイなんて見てるだけで感動もんだぜ」


 僕動揺に北斗もゲーマーだからね。本当に唯々やり込んだゲームの話で盛り上がったりすることも、しばしばあるほどだ。


「コラボ配信をして一気に人数が増えたりしてるのを見ると、ちょっと感動するね」


 間近で応援されてるんだけど自分だと言えない、この空気感はどうにも歯がゆくって、気恥ずかしいやら、むず痒い感じで気を緩めると今にも顔に出そうで怖い。


「今日は珍しくカミ様の方は一人で配信するって、さっきフイットに書き込みがあったよ」


 きっと僕が帰ってくるまでに色々としておきたいんだろうな。整地ぐらいはしておいて欲しいな。後は僕よりも上手くなって驚かそうとしているのかもしれない。


 父さんが付いているし大丈夫だとは思うけど……少し心配だ。


 僕を驚かせたいからって、変な知識を入れ知恵して大変な事になってない事を祈るしかないだろう。母さんも居る事だし……ストッパーの役割くらいはしてくれるだろう。


 それにしても、何時の間にか登録者数が増えてたのか……知らなかったな。


 二人そろって楽しいくゲームしている時間の方に意識が向いてたから、そういう細かな場所に目がいってなかった。


 自分の事もあって大事な問題のはずなのに、すっかり忘れてしまっていた。


「今日はまだ授業はないし、すぐに帰れるからな」


「そうとも限らないわよ。決めなくちゃいけない事は多いし、役員からクラス委員長を決めるっていうのも、下手したら時間がかかるわね」


「みんながやりたいって言ってクジやじゃんけんで決めるかも?」


 生徒会の人達はこの学園では人気があるらしく、アイドルみたいな感じの扱いでお近付きになりたい人達は率先して役員になりたがる。


 だから僕等みたいな、面倒でやりたくないなって思う人からすると、かなり助かるんだけど、なりたい人達の熱が強いからこそ長引くという事もある。


「適度にブレーキを掛けてあげれば良いんじゃないかな、僕も今日は早めに帰りたいしね、色々とやりたい事があってさ」


「ふ~ん、そう……この後に皆で食事でも行こうって思ってた?」

「ご、ごめんね。ちょっと忙しくってさ」


 僕の話を聞いて大体の事情を察している更紗ちゃんが、寂しそうにこっちを見てくるも、ここはお仕事を優先という気持ちが強く、断る事にした。


「席につけ~、ホームルームをはずめるぞ~」


 担任の先生が教室に入ってきて、全員に席に着く様に促す。


 話に夢中で気が付かなかったが、クラスメイト達は全員がそろって、個々でお喋りをしていたらしい。何時の間にホームルームの時間になったんだろう。


 別れ際に更紗ちゃんが耳元で囁いた。


「一万人の突破、おめでとう?」


 甘く揶揄う様な声で、最後は少し自分の事の様に嬉しいのか、微かに微笑んでいた。

 握られた手には小さく折り畳まれた紙を渡された。

 すぐに開いて見てみたかったが、流石に目立つのでポケットにしまう。

 なにせ小さな紙の表面には「ないしょ」と書かれていた。

 物凄く内容が気になる。


 隣を見ると、人差し指を立てて口元に当てながら、手紙同様に秘密だというジェスチャーをしてくるので、後で手紙を見るしかないみたいだ。


「あぁそうだ、紬に後で話があるから、すぐに帰らないでよ」


 未希ちゃんの方にも呼び出しをくらってしまった。


「俺も早く帰って悠月ちゃんの配信が見てぇな~」

「お、何々、お前も見てんの? 俺はかみ様派なんだけどな」

「良い趣味してるじゃんか、この後すぐにカミ様の配信だけどな」

「そうなんだよな~。はぁ、早くホームルーム終わんねぇかな」

「終わってほしけりゃ黙って自分の話を聞いてくれや」


 先生が呆れながらツッコミを入れる。





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