55話:コラボの結果と次への意識




 結局、カミが最後に言った一言により満場一致で勝負は成立してしまった。

 僕は部屋の隅で小さくなりながら、不貞腐れて寝転がっている。


「母上よ、そんなに紬はほらーとやらが苦手なのか? げーむの腕前はかなりのものであろうに、何を怖がることがあるのじゃ?」


「そうね~、プレイングセンスが優れていようが、ホラー系のゲームって特に関係は無いからね。驚かせたり、怖がらせたりっていう演出に力を入れているから」


「カミちゃんに説明するなら……ゲームをしているってよりも、自分で物語の中に入って怖いお話の中を体験してるって感じじゃないかな」


「なるほどのう。物語を体験とな。絵本の世界に入るという感じ……今までのげーむと変わらんと思うが? 紬がここまで怖がるという事は、やはり違うのかのう」


「ふん、やってみれば分かるさ……夜トイレに行けなくなっても知らないからな」

「なんじゃ、その妙な脅し」


 ぷはっと噴き出し笑いをしながら、僕の作ったプリンを頬張っている。


 母さんが僕の姿をじーっと眺めながら、すぐ近くに置いてあったスケッチブックを手にして何やら書き始め出した。きっと次の配信にでも使うサムネイルの絵でも描いているのだろうと思う。


 だけど僕は次の配信をどうやって、休むかやり過ごそうかって事ばっかり考えている。


「おや~、男と言うものが逃げ出すのかのう」


 ツンツンと寝転がっている僕をカミが指先で軽く突きながら挑発してくる。


「そんな安っぽい挑発になんて乗らないからね」

「一人でプレイする訳ではないのだぞ~。男らしく参加したらどうなのだ」


「そいうセリフは聞き飽きてるんだよ。なにが皆で行くだよ、誰かしらは僕を驚かせてくるに決まってるじゃないか、皆おかしいんだよ、ドSだよ。サディスト共め」


「ん~、紬よ……言うては悪いと思うがのう。その顔やら目は逆に弄りたくなるから、あんまり他所の人様に向けん方が良いぞ。確かにそんな目で見られては可愛がりたいと思う者達が多く現れても、全然おかしゅうないぞ」


 カミと言っている意味が分からず、少しだけ首を傾げていると、父さんが横からスッと出てきてカミに手の平サイズの鏡を手渡した。


「ほれ、コレが今お主がしておる顔じゃぞ」

「だから何が言いたいんだよ」

「見れば分るじゃろう」


 促されて自分の顔が映る鏡の方に目を向けると。

 そこに映っているのは確かに構いたくなるかもしれない表情をしている自分だった。


 不満そうに見えなくもないが、不貞腐れつつも潤んだ瞳で涙を目尻に溜めながらむくれた表情は、確かにちょっと揶揄いたくなるかもしれない。


 僕は何も言わずに、鏡を倒してぐしぐしと腕で目を擦る。


「あぁ、そんな事をしたら駄目ではないか」


「別に良いだろう。確かにあの目は止めよう……アレじゃあ逆効果なんだって初めて気付いたよ。今度からは気を付けないとな」


「我としては、別に変らんでも良いと思うぞ」


 いや、さっきまで止めた方が良いって言っていた本人が何で急に意見が変わるんだよ。


「そんな半目になって見るでない。我がさっき言ったのは「他の者達には」と言ったではないか、別に我へ向ける分には構わないと思うがのう」


「やだ、絶対に治してやる」


 今度からは、布団にでも籠って誰にも見られない場所でいじけよう。

 部屋の隅とか、体がすっぽりと治まるような狭い場所って落ち着くんだけどな。


 だから、という訳じゃあないんだけど、掃除なんかの時は念入りにそういう場所を綺麗にしてしまうのは、昔からの癖だったりもする。自分のパーソナルスペース的な感じで確保しておくのだ。


「次のコラボにやるゲームは決まっちゃんたんだから、諦めなさい」

「ちゃんと複数人でやれるゲームをピックアップしておくから、安心して任せてよ」


 この両親に任せても良いモノかと思うが、僕等自身もカミとやっているゲーム配信があるから、そっちに集中する必要もある。


「適度に、違う感じのゲームも混ぜつつ雑談系も増やさないとだよね」

「それならば、さっきやっていたモノで良くないか?」


 確かにアレなら、何かをするって目標だけ決めて、後は雑談しながらプレイ出来るな。


「一応は、他の雑談系のゲームもあるよ?」

「どんなのじゃ?」


「泥落とし、まぁ水を使って汚れを落としていくゲームなんだけどね。街を綺麗にするヤツもあるけど、ブロックラフトでも確かに良い気がするね」


「綺麗にするだけで、楽しいのかのう」


「意外と楽しいよ。綺麗になっていくのを見るとね。後はやっぱり誰かと喋りながらやると、意外と時間が過ぎててビックリするね」


 北斗とやってたら、何時の間にか朝になっていたのには驚いたな。


「ふむ、でも先輩達が作っておった感じのモノを、自分達でもやってみたいのう。今度は我等が作った場所に呼んで楽しんでもらうのも良かろう」


「確かにね……それに、あの人達にはお返しもしないといけないからね」

「紬……顔が怖くなっておるぞ」


 やられっぱなしは、終われないよね。しっかりとお返しをしてあげないといけない。


 今後、僕がなめられない為にも、絶対にね。






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