46話:久しぶりの自由時間とお友達②




「ねぇ北斗、さっきの人達と待ち合わせをしてたのってさ」


 最後の方でチラッた後ろを見た時に、見覚えのある先輩が見えた気がした。


「気にするな、戻ろうとも思うなよ。久しぶりに遊べるっていうのに姉貴に邪魔されてたまるかってんだ。(ただでさえ紬が関係すると、人が変わるんだから)」


 急に黙ってしまった北斗を見ながら小首を傾げる。


「まぁなんか姉貴も忙しそうだし、しばらくは平穏な生活が続きそうだからさ、今月は気分が良いんだよ。気兼ねなくゲームをやり放題だからな」


「宿題くらいは、しっかりやりなよ。見せないからね」


 舞先輩にバレると後が怖いし、お仕置きと称して僕を玩具にしだす。


 女装をさせられて、コスプレの会場に連れられて行った事もある。知らない人達の前で一緒に踊ったり歌を歌ったりもした。そんな事を経験した後では殆どの事は、大丈夫だと思えるようになったんだ。カミの呪いは、想定外だったけどな。


「久しぶりに来ると、やっぱり五月蠅いね」

「まぁゲームセンターなんて、そんなもんだろう」


 遊んでいると何時の間にか音の大きさになれるから、ちょっと不思議だ。


「何時もみたいに音ゲーから遊んでいくの?」

「久しぶりにセッションで楽しむか」

「じゃあ僕はギターで良いね」

「ドラム以外は出来ねぇっての」


 時間帯的に人も少なく、結構な時間は遊べそうだ。


 お互いにお金を投入して、協力プレイで遊ぶを選んでからセッションでドラムと一緒のプレイで北斗と一緒の曲を遊べるようになる。


「久しぶりだから手慣らしね」

「しょうがねぇな。しばらくやってないからって腕は落ちてないだろうな」

「ん~、どうだろう。最初は指が動かないかもね」


 こういうゲームは定期的にでも続けていないと、すぐに腕が落ちていく。


 ピアノのプロが一日休むと大変だって言ってたけど、それと同じ様なモノなのかもしれない。練習している曲なんかは特に休んじゃうと、忘れるのも早いって言うしね。


「最近さ、ハマってる曲があるんだけどよ。それを練習しても良いか?」

「僕が知らない曲?」


「知っているヤツもあるかもしれないけど、バーチャルライバーさんが歌ってたんだ。そっからハマった感じなんだけどよ。新しく出て来た子もめっちゃ俺好みの子なんだよ。男なのか女の子なのかって謎はある、ちょっとした不思議ちゃんなんだけどよ。知ってるか?」


「はぁ、僕はそういうのに詳しくないって知ってるでしょう」


「ははは、そうだよな~。お前にも布教しようと思ってんだけど。今度見てみって面白いからさ、ゲームも上手いし、その子の相方はド素人だけど、上手くカバーしてるからグダる事も少ないし、初心者にも見やすいと思うぜ」


「へぇ~、そうなんだ」


 ここがゲームセンターで良かったと思える程に、いま僕の心臓は大きな音を鳴らしてながら脈打っている事が自分でも良く解る。


 普通に受け答えは出来ているともう。更紗ちゃんの時みたいなヘマはしてはならない。


 更紗ちゃんの事は例外だと思いたいけど、彼女の助言は確かにと思う事も多い。というか、今まさに僕の配信の事を言ってるんだから、細心の注意を払わねば。


 それにゲーム画面が邪魔をしていて、僕の体や顔が見えていない事も幸いだ。


 こんな身近に僕の配信を見ている人が居るなんて。

 流石に思ってもいなかったから覚悟も何も出来ていなかった、完全なる不意打ちだよ。


 この話が喫茶店やら飲食店で食事しながらだったら、隠し通せている自身は無いな。


「姉貴もハマっているのか、そういう配信動画を見てるのは別に文句言って来ないんだよな。アレは絶対に誰かの配信を気に入って見ていると思うんだよな。何処の箱推しなのかは知らないけどさ、何時もだったら小言の一つでも飛んで来るしな」


 舞先輩も見てるんだ。

 きっと僕なんかの配信じゃないとは思うけれど、今後は注意しておかないといけない。

 今日は北斗と会っておいて良かったと心から思える、この体験は貴重過ぎるよ。


「お~い、ちょっとタイミングがズレてるぞ~。知らない曲で考え事か?」

「あぁごめん。ちょっとね、こっから取り戻すから大丈夫だって」


 久しぶりという事もあって、難易度は低めに設定しておいて良かった。アップテンポの曲だから、サビの部分で動きが激しくなるみたいだ。


 タイトルをよく見ると、誰が歌っているのかっていう部分も出てきている。


 確かカラフルフラッグって、僕達の先輩に当たる人じゃなかったっけ。名前はミスナさんとキャリさんという人が歌っているらしい。


「この曲さ、ダンスの方にもあるから一緒にやってみないか?」

「別に良いけど、難しくないよね? 僕はダンスの方って得意じゃないんだけど」


 どっちかっていうと、苦手というか不得意な部類に入る。


「大丈夫だって、難易度を落とせばお前でも踊れるからさ」

「それなら、良いけど。絶対に笑わないでよ!」

「はは、昔っから運動音痴だもんな。別に笑わないよ……多分な」

「目を逸らすな⁉ なんだよ最後の多分って、絶対に笑うんだろう」

「まぁまぁ、やってみようぜ」


 二曲目を慣らし運転で弾いてから、三曲目で大好きな曲を全力で弾いてパーフェクト。





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