35話:羞恥に染まる僕とリスナー達の願い②
なんでだろう、僕の部屋にカミが着れない女物の服がしまわれてるんだろうな。改めて押し入れの中身をみると、不思議に思うんだよな。
自分のだとは分かっているんだけれど、下着まであるんだから、物凄く妙な気分になる。
女体化した僕が着る下着だから特に興奮なんてしないし、それよりも言い表せない感情が沸々と湧いてくる。その大半が羞恥心からくるものだ。
「なにもさ、今から服を選ぶ事はないんじゃないかな」
「え~、せっかくなんだからオシャレしないと勿体無いじゃない」
それは単に母さんが僕を着せ替えて遊びたいだけなんじゃないのかね。
「これなんてどうかしら?」
ひらっひらのミニスカートに制服っぽい感じの上着を出して来た。
「……せめてね、初心者が着やすいモノにしてくれるんと嬉しいんですがね」
「ではのぅ、こっちはどうであるか? これなら違和感なく着られるのではないか?」
カミが選んだのはホットパンツと中心とした、ラフな格好でも良さそうなモノだった。上に着る服だって別に普段から僕が着ているのもデモ良さそうだ。
「じゃあこれで良いかな」
「ねぇ紬ちゃん。今着ている服を女の子の時に着るのは止めておきなさい」
母さんが優しくポンと肩に手を置きながら、何故か慰める様に言われる。
「あ~、そうじゃのう。確かに女子になっている時の紬では止めておいたよいのう」
「どういうこと?」
「実際になってみれば分かるわよ。というか、初めて女の子になった時のことを覚えてないの? あの時になんで私の古着を借りて貴方に合う服を買いに行ったと思ってるのよ」
「その時は色々と余裕なんてなかったから、全然覚えてないよ」
そもそも女の子になるなんて思ってもなかったんだから。当た真ん中はパニックで、状況把握が精一杯だった。そんな時の記憶なんて曖昧でしかない。
「まぁもう一度なってみれば、イヤでも思い出すのではないかのう」
含みのある微笑みを僕に向けてくる。
二人のニヤニヤした笑みが妙に怖かった。
とりあえず僕は買ってもらった服を用意しておいた。何故かは分からないけど、母さんもカミのヤツも少しだけ嫉妬の様な感情も含んだ感じで睨まれていた気がする。
その視線が何処に向いていたとは、言わないけど。
しかしそうか、今の服だと胸元がきつくなるのか。
「ちょっと、なんで自分の胸元を見ているのかしらね」
「嫌味かのう、なんで我よりも大きいのか不思議でしょうがないのじゃがな」
今度はハッキリと二人から睨まれてしまった。
あまりの迫力に気圧され、手元が微かに震えている。
「ふふ、次の配信が楽しみね。紬ちゃん」
「次はどんなゲームで遊ぼうかのう。続きをやっても良いぞ。ストーリーは英傑の人数分もあるじゃろう。違うきゃらの物語も楽しみたいからのう」
二人から耳元で囁かれる声には、甘さの欠片も無い。聞くだけで背筋に冷や水でも垂らされている様な冷たさしか感じない。
「こらこら、二人ともそんなに紬を虐めないでね」
父さんからの助けで、何とか二人から離れる事が出来た。
「もうちょっと揶揄いたかったのに~」
「女の怖さと言うモノを知っておいて損はないであろうに、次からは気を付けよ」
父さんを盾にする様に背後に隠れて、僕は何度も頭を縦に振って答える。
「それより気になったんだが、女の子になっても紬って呼ぶのかい?」
「え? それは流石にリスクが高くない?」
更紗ちゃんには仕草でバレてしまっているが、名前が同じだと更にバレてしまうリスクが高くなる。美希ちゃん辺りは下手に名前を呼ばれてしまうと、一発で僕だってバレるね。
「それならば、悠月で良いのではないか?」
「まぁ確かにね、僕もそれで良い気がする」
「普段はそれで問題ないけど……そうね、取りあえず、下手に決めずに悠月ちゃんって呼ぶ事にしましょう。けどね、外では違う名前で呼び合わないとダメよ」
「まだそこまで有名人じゃあないけどな、後々だから今は問題ないだろう」
なんか、女の自分に名前が付くと自分でも認めちゃった感じになる。大丈夫だ、僕の心は男のまんまだから。周りに呑まれないようにしないと。
下手すると更紗ちゃん辺りは要注意だ。
理想のお姉様とか言ってたし、選択肢を間違うと僕を何処までも女の子にしようと企みそうで怖い。次いでに美希ちゃんも注意が必要だな。
僕を女装させる事に全力を費やしてくる。女の子っぽい仕草を時々だが教え込もうとして来た過去がある。女の子になっているって知ったら何をしてくるか分からない。
…………そう考えると、僕の周りに居る人って碌な人が居ない気がしてきたな。
両親からして、私生活は僕に任せっきりで、さっきタンスの中を調べていたらメイド服なんてモノまで出て来たことに驚いた。
母さんは何時の間にあんな服を買ったんだろう。
絶対、絵の資料とか言って僕に着せてくるに違いない。
問題なのは、男の時に着れるモノと、女の時に着れるモノが一つずつ用意されている事に、僕は驚きが隠せなかったよ、母さん。
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