34話:羞恥に染まる僕とリスナー達の願い




 コンコンと押し入れをノックされるが、僕はしばらく一人になりたい。


「お~い、大丈夫だと思うがのう。ほれ、御使い達は喜んでいるモノが多く居るのだぞ」


 さて僕がなぜ押し入れに閉じこもっているかと言うと、先ほどの配信で醜態を晒していたいた事を、後々になって知ったからだ。


 ただ暗い中に居るのは怖いので、携帯端末は手元に持っている。


 そこには先ほど調べた自分達の投稿している動画、その切り抜きが上がっていた訳なのだが、初めは嬉しくなって、カミと一緒に見てみると。


 そここに、僕が必死になって強敵と戦っているシーンが切り抜かれていた内容が僕には問題だった。集中していて気付いていなかったが、危ない攻撃や、ジャストガードをするタイミングなんかで、どうしても力んでしまい思わず声が漏れ出ていた。


 ちょっと艶めかしい感じで、聞き方によってはとっても卑猥に聞こえてしまう。


 相手に攻撃を防がれたら、今度は少しだけ詰まった言い方で「もう」「あ、ヤダ」「ダメって言ったのに」なんて言葉を呟く様に言うもんだから、更に雰囲気は抜群だった。


 という訳で、一部の人達が何故か知らないけど、滅茶苦茶に盛り上がっている。


 しかもその火付け役となっているのは、僕達の事務所本社に所属している大先輩方が、一番盛り上がっていると言って良いんじゃないだろうか。


『これをオカズにご飯が食べられるね』

『なんという素材をくれるんだ、新人君』


 男性のライバーさん達が合掌していたのが最初で、そこから術繋ぎみたいに広がっている。女性のライバーさん達なんかは、全く別の視点で盛り上がっていた。


 絵を描ける人は、想像力を働かせて僕が扱っていたキャラクターと僕の絵を描いてくれているのだけど、そこに載せられているのはバラの花が舞い散るような絡みの絵で、囚われの僕を熱のこもった視線で見つめる感じだったり、助け出そうとしている絵だったりする。


 ちなみにだが、母さんと社長さん達も自らが盛り上げに参加している節がある。


「もうお婿に行けそうにないよ」

「安心せい、婿に行けずとも我が貰ってやるから心配せずともよい」


「はぁ……カミがあそこで素直に助けてくれれば、こんな変な盛り上がり方はしなくてすんだのにさ~、なんでデビューして間もないのに変な注目を集めなくちゃならないだよ」


「自業自得だのう、我を辱めようと罠に嵌めようとするから、あんなことになるったのだぞ。責任転換は良く無いのう~。それに、悪い事ばかりでもなかろう」


 確かに、変な話題の集め方にはなってしまったけれど、その御蔭で色々な人達に見て貰えたみたい。登録人数が凄い勢いで増えていっている。


 ただ、これは僕等の実力ではなく。先輩方からの紹介みたいな形で増えたんだと思う。


 その人達をしっかりと僕等のファンになってもらえるように、より一層に頑張らないといけないな。先輩達にも助けて貰った……ただ、悪乗りをしているだけだとは思うけどね。この恩は何時か絶対に返してあげようと思う。


「あぁ、ちなみに次は悠月ちゃんでやってもらうぞ。反省の色が無いようだしのう」

「ほぇ? なん、で。いや、待ってよ。それは幾らなんでも、ね。ほら、考えなそう」


「ぬおぉ⁉ びっくりするではないか、もうちょっとゆっくり出て来ぬか。しかしまぁ、ようやっと出てきたか。別に我は邪神と思われようが遊んでくれるなら何と呼ぼうと構わぬぞ、しかしな~、立場というものを少しは分かってもらわねばならぬ。というのは、建前で、何やら御使い達のお願いが、我の方に沢山届いておってのう」


 あんまり怖い内容で思わず押し入れから飛び出して、カミに襲い掛かる勢いで押し倒してしまった。揶揄う内容が嘘か本当か分からないのは止めて欲しい。


 カミが困ったような顔で携帯の画面を見せてくる。


 そこには、カミ専用のSNSアカウントのページが開かれていて、御使いさん達からの一言コメントが多く寄せられている。


 ただ、そこには本当に「神様お願い」から始まって、次の配信で僕の性別を変えて出して下さいと言う、おふざけなお願いが何通か送られてきており、そのコメントには別の人達が賛同しているという意味合いを込めて、〈良し〉のグッドサインスタンプが何百と押されているのも確認できる。


「いやいや、そんな事をしてあげる必要はないんじゃなかな。ほら、別にまだ僕はカミとの約束を破った訳でもさ、罰ゲームに負けた訳でもないんだよ?」


「しかしのぅ~、求めてくれる声に答えてやるのも神の務めであろう?」


 そんな可愛らしく、お願いポーズをされても僕は絶対に首を縦には振りません。


「残念だが紬よ。お前には選択しなど最初から存在しない」

「なっ! なんでよ⁉」


『社長命令です、というよりお願いです。女の子でも配信をやってください』


「それにさ、お母さんがせっかく女の子バージョンの悠月ちゃんも作ったのよ。しっかりと使いこなしてくれないと、寂しいな~。頑張って時間が無い中で仕上げたんだよ。それに今年一番の力作なのにさ、全然使ってもらえないって、寂しいな」


 なんで皆して僕の良心に訴えかけるように言うかね。


「し、しかたなくですからね。やるのは」


 僕のリスナーさん達も、やって欲しいって五月蠅そうだし。




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