17話:初配信と発表に向けて




 これ以上のトラブルを避ける為にも、カミや母さんの言う事をすんなりと受け入れ、下手な抵抗をせずに、速攻で家に帰ることを目指せは、想像していたよりも早く家に帰れた。


 車の荷台から荷物を下ろしていて思うのは、お金が無いとか言っておきながら、こんなに女性用の衣装を買い込んで良いのかって考えてしまう。


「あら、必要経費よ。ちゃんと社長からもお金は出ているから安心なさいな」

「それは安心できることなのかな」

「紬にとっては、安心出来ぬ事態じゃのう」


 父さんの買ってきた良く解らない機器類と、後は僕とカミの衣服が殆どだ。


「なんか沢山あるけど、こんなに必要なの?」

「必要だから買ったのではないか?」


 カミの服は和服っぽい衣装が多く、あんまりピッチリした感じの服もヒラヒラのスカートも少ない感じがする。というよりも、ミニスカート類が無いのかな。


 それに比べて、僕の服は何と言うか露出が多めな気がする。


 足を見せる感じのスカートとソックスだったり、お腹周りをチラ見せする感じの服なんかもある、こんなのを着ていたらお腹が冷えちゃいそうなんだけど。


「はいはい、テキパキと運んでちょうだい」


「分かってるよ。もう……あれ?」


「どうしたのじゃ?」

「なんか、何時も持ってる荷物よりも軽く感じるなって思って」


 今運ぼうと思って持ち上げたのは何時も買って帰る食材類なので、重いと思って持ち上げたのに軽々と持ち上がってしまったので、ちょっと驚いてしまった。


 思わず日々鍛え上げてきた筋肉がついに開花したのかっておもったけれど、自身の体を見下ろすと大きな胸がしっかりと見えて足元が見えない。そんな女性の体だった。


「女性なのに力が強くない?」


 別に筋肉質な体という訳でも無いのに、というか、どちらかと言えば華奢に見える。


「紬の体は確かに女子になっておるが、別に変な肉体改造なぞしておらん。むしろ、言い難いのだがな……、それは本来、紬が女性だった場合に備わった姿であり、能力なのだぞ」


 指先で頬を軽く掻きながら、そっと目を気まずそうに逸らされながら言う。

 しばらく、僕の思考は停止していた。


 手に持った荷物が滑り落ちそうになった所を、カミがしっかりとキャッチしてくれて助かったけど、僕の脳内ではさっきのカミが言った言葉が何度もリピートされている。


「つまり、なにか? 僕が女の子に生まれてたら、こんな体だったと?」

「そうなるのう」

「男の時よりも背が高いんだけど? これはカミが妄想が具現化したものではないと?」


「うむ、我にはそんな力はないしな。神通力だって足りぬし、そんな事に力を使うのは無駄であろう。ただ、女子であった場合の姿にするなら簡単なのだからな」


「ち、力だって、たぶんこっちの姿の方があるんだけど?」


「毎日、頑張ってトレーニングしておるなら、それなりに力の付きやすい体なのではないか? ただ、筋肉質な体ではなくしなやかな付き方をしておるし」


 僕達の話を近くで聞いていた母さんが、少しだけ笑っていた。


「そりゃあ、紬ちゃんがやってたトレーニングって。バレーの人がやるような感じの奴だからね。柔らかく綺麗な筋肉を付けるためにやるものだもの、筋肉質な体にはならないわよ」


「なにそれ⁉ 僕は知らなかったんだけど⁉」


 その時、相談に乗ってくれたのは父さん達の筈だ。

 なんで最初に教えてくれなかったの。

 僕が涙目で訴えると、少し困ったような顔をしながら答えてくれる。


「だって劉ちゃんの筋トレに付いて行けないってすぐに拗ねちゃったのは紬ちゃんよ? そこで、劉ちゃんが紬ちゃんにも出来る筋トレって事で教えたんだもの」


「自業自得という事ではないか?」

「……確かに、そんな記憶があるかも」


 そうだとしてもだ、男の時の方が非力という事実は受け入れがたい。


「まぁ気持ちは解らんでもないがな、我も子供の様な体に力だってそれ相応であるからな」

「そう思うんなら、男の時に力を強くしてくれない」

「いやじゃな。そんな事を言うておると、むしろ力を弱くしてやろうかのう」

「ごめんなさい、勘弁して」


 ただでさえ、男の時にはカミに力で敵わない事も多いというのに、これ以上の筋力低下は死活問題になりかねないよ。


「無駄な力の使い方をしておるから、男の時でも我に負けるのだぞ」


 カミはちょっと呆れ気味に、僕の考えを見透かして揶揄う様に言う。


「へっ! そうなの⁉」


「紬は少し外で遊ぶことを覚えた方が良いのではないか? 体を使った遊びには力の使い方だって学べる事も多くあるのだからなぁ」


「ふふ、ドジっ子な紬ちゃんは外で遊ぶと怪我をして帰って来るから、出来れば大人しく家で家事なんかをやってくれている方が、私は助かるんだけどね」


 優しく母さんが助け舟を出してくれる。


 どうしても、過去のトラウマがあってあんまり外で遊ぶのは好きになれない。男の子達には無駄に優しくされたり、仲間外れにされた事だってあるからね。


 女の子と一緒になっておままごとなんかは良く混じってやってたけどね。


「お~い、早く飯にしないと、明日の準備に支障が出ちまうぜ」


 父さんが家の中からひょっこりと顔を出して、未だに外にいる僕等に声を掛ける。

 一人で家に居て、寂しかった犬みたいに、ちょっとだけしょんぼりしていた。


「明日の準備?」


「一足先に、貴方達はバーチャルライバーとしてデビュー配信ってことね」



 いきなり聞いていない事が母さんの口から飛び出して来た。






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