18話:初配信と発表に向けて②




 父さんが黙々と配信に向けて準備を進めているが、僕とカミはそれをゆっくりで良いから、一つ一つ覚えるようにと言われている。


 初めての事だから、正直な所なにをしているのか、さっぱり分からない。


 そもそも画面が二つあって、其々で違うモノを開いている様にしか見えないし。

 起動しているソフトだって良く解ってない。


「コレって何の為の画面なの」


 だから、一つ何かが起動したら僕等は、子供の様にそれなにって聞いてしまう。


「ふふ、コレはな。コイツで写した動きをトレースする為の画面だな」


 知らない単語がサラッと出てくる、毎回カミのヤツが小首を傾げる。コテッと瞬きが多くなって不思議そうな顔で傾げる姿がちょっと面白くって可愛かった。


「まぁやって見せた方が早いだろう。細かくいったって解り辛くなるだけだしな」


 父さんはカミの様子を見て、これ以上の説明はオーバーヒートしそうだと思い、微笑ましく笑いながらも起動する。


 二つのマジックペンみたいな機械で僕とカミを映している。

 僕等のキャラが写された画面が一番手前に出てきた。


「じゃあ軽く両手を広げて」


 父さんに言われるままに、体を動かしていると何らや読み込み完了みたいな表示がでた。


「おぉ! 画面の中の人が動いておるぞ」


 ちょっと意地悪しようと、カメラの画面から少し外れようとしたのだけど、レンズ部分の頭がクイクイと動いて僕の事をしっかりと追ってくる。


「なにコレ、気持ち悪い」


「おいコラ何を言うかね、技術の進歩を見て言うせりふかねキミ、そこはもっと感動をする所だろう、なんで第一声がキモイなんだよ」


「いい、アレがオタクってヤツよカミちゃん」

「自分の好きな事になると、すぐに熱くなるんだ」


 父さんには悪いが、今後はこういう人達との関係が増えるんだから、ここで犠牲になってもらって、少しネタにしつつも、若干引き気味に父さんを見る。


「うむ、覚えておく」


 豹変して熱く語る父さんに驚いてしまったカミを見て、父さんがすぐに自我を取り戻してくれたようだけど、残念ながら遅かったね。


 僕と母さんは可哀想な人を見る様な目で父さんを哀れんであげた。


「こほっ、驚かせてすまないな。コレはお前達が活動する上で絶対に覚えとかないとダメな事だからね、しっかりと確認する事と、触っちゃダメな部分なんかも教えるから」


 何かをしている間に、キャラの顔じゃなくってリアルな顔が画面に映ってしまったら大変だからと、画面に映らない様にするテクニックも繰り返し教えて貰った。


「なるほどね、だからこっちの画面に分けてるんだ」


「基本的に、録画や配信で映すのは左の画面、作業するのは中央で左にあるのは動かさず、映しちゃダメな画面って覚えていれば、こっちの画面は触らないだろう」


 基本的には動かすのは中央と右の画面でやれば良いと言いながら、触らない触れない、クリックしないという事を教えてもらう。


「コレだけ覚えていれば、後は些細な失敗だろうから、頑張って配信中に覚えていけば良いさ。恥ずかしい思いをして覚えれば絶対に身につくだろうからな」


「ねぇ、それって僕がミスするって思ってない」


「バカだなぁ、この世に失敗しない人間なんていないだろう。それにバーチャルライバーのちょっとした失敗はネタにもなるし、初めての事で上手く廻る事なんて、そうそう無いさ」


 頭を優しい手付きでポフポフと撫でられる。


「まぁ、後はゆっくりやれば良いさ」

「父さんなりに緊張を解そうとしてるの?」

「何でジト目で見られるのかね、父さん傷ついちゃうな」


「それなら何時もと同じ感じで話してよね、無駄に甘い声で優しい感じにするから物凄く気持ち悪い事になってるよ」


 僕がそう言うと、父さんが一瞬で凍り付いた。


「劉ちゃん、いくらなんでも自分の息子を落とそうとするのは、ちょ~っとどうかと思うわね。ないか変なモノに目覚めちゃいそうじゃない」


 何故か母さんは鼻息を荒くして、僕と父さんを見て顔を赤らめている。


「良いネタが目の前に……写真を撮っても良いかしら」


 反対に父さんの顔は青くなっている気がする。


「やめい! 流石に今日のをネタにするんじゃない」


 父さんが必死に母さんを諫めているようだけど、何を焦っているのだろう。


「アレもオタクなのかのう?」


 面白そうに笑いながら、両親に視線を向けてカミが聞いてくる。


「いや良く解んない……多分、オタクな分類に入るとは思うけどね。どっちかっていうと職業病に近いんじゃないかと思うよ」


 なんかネタとか言ってたし、絵描きな母さんらしい思考だとは思うんだけどな。


 別に父さんを揶揄ったりはしてたけど、そんなに変なやり取りはしていないと思う。何で父さんが必死になって止めようとしているのかが、僕には分からないだけ。


「ほらほら、二人とも時間もないんだからさ。じゃれ合ってないで色々と教えてよ」

「他にはどんなことをするのだ、このきゃらとやらを使うのであろう」


「違うわよ、ここに写ってるのは仮のキャラだから。前に見せた原案の直しが本番でのお披露目になるから、その時までのお楽しみよ」


 そう言って、楽しそうにしている母さん。

 あと数時間でどうせ見る事になるんだから、いま見せてくれても良いのと思う。





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