15話:身近な応募者と、身の危険⑦
「誰じゃアレは?」
「僕のクラスメイトだよ」
「そっちではない……いや、そっちもそうであるがな」
更紗ちゃん達ではないとすると、指差した先に残ってるのは母さんくらいしか居ない。
「分厚い猫の皮を被った母さんだよ。外だとあんな感じだよ」
「一瞬、別人だと錯覚したぞ」
声の出し方も違えば、家に居る時の雰囲気から一気に良い所の奥様に早変わりだからね。いつも家に居たカミにしたら、劇的に変わって見えたのだろう。
とにかく今は下着を着て見て、サイズがピッタリなのかを確かめてから、早くこの場から逃げ出さないと。こんな姿を知られてしまったら、あの二人に何をされるか分からない。
しかし、女性の下着なんか付けた事がないから、戸惑いながら頑張っていると、さっきの店員さんが助けに来てくれた。
「こんなに立派なのをお持ちなのに、下着の付け方を知らないなんて。良いですか――」
お店の人だけあって、こういう時の教え方が本当に上手だ。
カミの方も店員さんに何やら色々と教わっていた。
試着している間に何処かへ行ってくれていると嬉しかったのだが、母さんと楽しそうにお喋りしていて帰るという気配は無い。
この場所にずっと隠れている訳にもいかず、服も着終わってしまったので仕方なしに、平常心を心掛けながら、そ~っと出てみる。
気恥ずかしさがどうしても拭えず、ちょっと挙動不審だったかもしれない。
「ん~、杏さん。紬君にお姉さんって居ましたっけ?」
「やっぱり似てる? 身長は彼女の方が高いけど、ツムぎんのお姉さんが居たら、きっとあんな感じの人になりそうだとは思う……けど」
二人は意味深にチラチラと僕の方に視線を何度も送ってくる。
「そうね~、私としては教えちゃっても良いんだけど」
そう言いながら僕の方に顔を向けてくる母さんに向かって、全力で首を横に振る。
「本人が秘密にしたいそうだから、ダメだって」
「秘密にしたい?」
更紗ちゃんが不思議そうに首を傾げて僕を見てくる。
「そう言われちゃうと、逆にきになっちゃうよね」
二人の興味が完全に僕に向いてしまう。
逃げようにも二人に挟まれる感じで退路を塞がれてしまっている。
「ツムぎんを女性にすると可愛い感じになるけど、こんなに綺麗な人にはならない? それにしては雰囲気というか、どこかツムぎんっぽい?」
更紗ちゃんのこういう時の嗅覚って凄いんじゃないか、身長だって変わっているのに、心の何処かで男の僕に重ねてみているんだから。
「更紗が思う理想のお姉ちゃんって感じなんじゃない」
「うん、外見は満点どころか天井突破だね」
ちょっと更紗ちゃんが興奮気味になって美希の言葉に頷き、過剰なスキンシップを僕に求めてくる。
「ちょっとで良いんですが、一緒にお買い物しませんか。私達も服を選んでいる最中なんですよ。皆で楽しくお買い物しましょう」
更紗ちゃんは身長が小さいのに胸は意外と大きく、僕の腕に抱き着くとしっかりと胸に挟まれる様な柔らかさを感じ取れてしまう。
「良いの? 二人でお買い物してたんでしょう」
僕は何とか引き剥がそうと思って、美希ちゃんに話しを振ってみる。
「あぁ大丈夫ですよ。私達が最初に買おうって思ってたものは購入済みですから」
「機器類だから、梱包して持って行ってもらった方が良い?」
「アンタの場合は手荷物を増やしたくなかっただけでしょう。後で執事さんやメイドさん達にはお礼をしなくっちゃね。アンタがお嬢様だって時々忘れるのよね」
「酷くない?」
いやまぁ美希の言っている事は僕も良く理解出来てしまうので、なんとも言えない。
更紗ちゃんは少しだけ頬を膨らませているけれど、何時もの事だというちょっと拗ねるだけで、すぐに僕に向かって何時もは違うんですアピールをしてくる。
「今日は紬君は一緒じゃあないんですか? どうせなら彼の衣装を見繕いたかったな」
「彼は男の子だよ。あんまり可愛く仕上げたら可哀想だと思うな」
「何を良い子ぶってるのよ。アンタだって彼が女の子だったら猛烈なアタックをしてるんじゃあないの? 偶に私が撮ったコレクションをコピーしてるのにさ」
そんな風に盛り上がっていると、母さんがコソッと近付いてきた。
「モテモテじゃないのよ」
僕にだけ見えるように携帯で文字を打って見せつけてくる。
「えっと、その……」
僕がどうしようと悩んでいると、カミが割って入ってくるように僕に抱き着く。
「えぇい、先ずは自己紹介をせぬか⁉」
母さんがニヤニヤしながら、もう名前は思いついたかと聞いてくる。
この状況を一番に楽しんでいるのは、母さんだろう。
「ぼ、自分はユイっていうの。その、貴方達は?」
「私はツムぎんのクラスメイトで、西願寺更紗と申します」
「あ~、大東美希です。よろしく~」
「我は奈梨カミという。よろしく頼むの」
「さぁさぁ、自己紹介も終わった事だし、それじゃあ服を選びに行きましょうか」
有耶無耶の内に僕を衣服のお店へと引き込んで、更衣室に押し込まれてしまった。
「え? ちょっとかあっ⁉」
ここで母さんと呼ぶわけにもいかない事に、今更ながら気付いた。
それからはケリーさんも駆け付けて、ファッションショーの始まりだった。
更紗ちゃんと美希ちゃんはワザと着に難い服を選んでは、僕に着せる為と一緒の個室に入って来ては、体のあっちこっちを触ったり揉んだりしてきた。
モデルになると言ってしまった手前、写真を向けられて断る事も出来ずに、恥ずかしい気持ちを何とか押し殺して、一生懸命に服を来ては写真を取られるという事を繰り返した。
「下手にこの写真を男子が見たら、絶対にファンが殺到しちゃうね」
「恥ずかしがっている姿が紬君に似てるんだよね~。っていうかね、足元は長くてキレイだらさ、もじもじさせて、内股を擦り合わせると、その、妙に色っぽいから止めた方が良いよ」
「随分と可愛らしのう~。人形の着せ替え遊びというモノを楽しむ輩の気持ちが良く解る」
好き勝手に言っている女子たちに文句の一つも言いたいが、残念ながら、今の僕にはその気力すら湧いてこない。
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