14話:身近な応募者と、身の危険⑥
「どうしたのだ? 知り合いでもおったのか?」
僕の態度の変わりようにカミのヤツが目敏く気付いた。
母さんは声のした方をジッと眺めてから、思い当たる人物が居たのかニヤニヤとした顔をこっち向けてきた、ただ、何にも言わずに僕に似合いそうな下着を速攻で選び始めている。
「やっぱり、後にしない」
「ん~? 試着とやらに時間も掛かるというからのう。こっちの方が先でよかろう」
カミはそう言いながらケリーさんに同意を求める感じで「のう店主」と聞く。
「こっちは下着売り場だけど、あっちの扉を抜けると衣服類があるお店に繋がってるのよ。此処なら全部揃うんだから、ゆっくり選んでいきなさい。サービスだってしちゃうわよ。こんなにモデルになるようなお客さんなんて、なかなかに来ないんだから~」
客引きが上手いというか、商売上手な人だな。
母さんの気分を上げつつも、カミの方が与しやすとみるやすぐに便乗してみせて、僕に合いそうな衣装を手早く選んでは母さんに見せていく。
「こんなのはどうかしら? 娘さんって自分の容姿には無頓着でしょう。着てる服だって、貴女の借りものよね?」
「そうなのよ。恥ずかしがって中々ね~。基が良すぎるだけに適当でも着れちゃうし、家だとだらしない格好しかしないのよ。私の御下がりで良いって言っちゃうくらいなんだから」
「あら本当に~、それは勿体なさ過ぎるわよ。良いわ、じゃんじゃんサービスしちゃうから、色々と買っていって頂戴よ。私の作った服で良かったらもうタダ同然であげちゃうわよ。あ、でもその代わりに、モデルになってもらっちゃうけど良いかしら」
「あらあら、本当に良いの~。是非ともお願いしちゃう」
母さんとケリーさんが物凄い恐ろしい話で盛り上がってやがる。というよりも、僕を売りものにしないで欲しいんだけどね。
……でも、服代もバカにならないし、女性の服は何かとお金が掛かると聞いている。
ケリーさんの申し出も、悪い事ばかりではないのか、幾つかの服はタダで貰えるなら、別に写真に撮られるぐらいなら……我慢すれば家計の足しになるな。
思わず母さん達のとんでもない会話を聞いてしまって、逃げるタイミングを逃した。
「意外と高い買い物になっちゃったね」
「でも、アレが最低限?」
「分かってるわよ、本気で狙っていくなら今後の事を考えて扱いやすい方が良いし」
「ん、扱い方は帰ってから教えるから大丈夫だよ?」
「頼りにしてますよ。それにしても全く、貴女は可愛いって自覚を少しはもちなさいよ。なんであんなオタクっぽい服しか持ってないの⁉」
「アレでも困らなかったから?」
「今現在進行形で困ってるでしょうが! 少しは余所行きの服装も持ってなさい。後は、面接なんかで着ていける服も用意しておくこと」
「うぅ~、だって良く分かんないし」
「調べてないだけでしょう。ゲームや機械類の買い物と同じ、考えるのが苦手なだけで、慣れれば普通に買いに来れるわよ。私の方が良く解んないって言えるのよ。機械なんてどれも同じにしか見えないんだから。パッと見で衣服の方が違いがあるんだから」
「種類があるから選ぶのに迷うだよ?」
ヤバい、聞き覚えのある声が近付いてくる。
僕がその場から逃げようとした時に、タイミング良く店員さんが来てしまう。
「は~い、それじゃあサイズを測りますから――」
「ほれ観念して一緒にやるぞ」
がっしりと手を掴まれては、逃げるにも逃げられず、
もう良く見知った顔が僕の視界端に捉えられてしまった。
女の子になっている僕には気付かないはずと思いながらも、あんまり反応しない事を意識しようとしているのに、それが逆に不自然な感じになってしまっている。
というよりも、逆に彼女達の方へと意識が向いてしまっている。
「ほら選んであげたわよ、試着室で下着の方もしっかりと測ってもらってね」
「我はあんまり必要ないのではないか?」
「何言ってるのよ、あるのと無いのじゃあ全然違うんだから、物は試しよ」
「ぬぅ、わかったのじゃ」
カミの方も母さんが選んで来た下着を渡されて試着室に押し込まれている。
個室に入る時のすれ違い様に、更紗ちゃんがこちらに気付いたみたいで、ジ~っと僕の方を見ていた気がした。
「気のせい? 気のせいだよね?」
「はい? 別に太ってませんよね? むしろ、この腰付きは反則ではないですか? それに胸だってしっかりとしていて、大きいですし……」
「あの、店員さん? 目付きが怖いです」
「申し訳ございません。同じ女性としては嫉妬の目で見てしまいますね。それにしても、綺麗な肌ですね。羨ましい限りですよ」
こちらこそ申し訳ない。僕は女性では無いんですよ……今は、女の子になってますけどもね、心は立派に男の子ですからね。
「きゃっ⁉ くすぐったいですって」
「こほん、ではこちらがサイズです」
そう言って母さんにメモしていた紙を店員さんが渡して、ケリーさんの持ってきてくれていた下着を次から次と僕に着せていく。
「うむ、良いのう。コレはいい」
隣では可愛らしい下着に満足して、着心地の良さも気に入ってかテンションの高くなったカミが僕の方の個室へと駆け込んできた。
「どうじゃ! いいじゃろうこれ」
「わっ! こら、こっちに来ないの! 恥じらいを持ってよね」
サッと上着でカミの体を隠してやって元居た個室の方に押し込んだ。
「む~、良いではないか」
「良くありません。見て貰うなら母さんにしなさい」
僕が男って事をわすれてるんじゃないだろうな。
「ねぇ、あの人って誰かに似てる気がするんだけど?」
「同じく? さっきからそれを思い出そうとしてるんだけど、あんな綺麗な人を忘れる訳がないのに、覚えがない? なんでだろう?」
さっと出だだけなのに、何故か注目を浴びてしまい、そのせいでジッと二人に見られた。
そして、気付かれたくなかったのだが、二人は近くにいた母さんに気が付いてしまう。
「あれって……」
「杏さん?」
「ふふ、お久しぶりね二人とも」
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