10話:身近な応募者と、身の危険②
「ここにも珍しくギリギリで登校してきた人が居た?」
「悪かったわね、ちょっと気になる情報があってね。色々と悩んで、興味があったから応募してみようかなって思ったら必要な事とか、準備とかでの調べ物で殆ど寝れなかったの」
「そう、心配して損した気分かな?」
そう言いつつも、少しだけ何かを考えながら更紗ちゃんはバックから缶コーヒーを取り出して、彼女に手渡した。
「美希のことだから、どうせアレの情報を見つけたんでしょう」
「大東(だいとう)と西願寺(さいがんじ)って仲が良いのか悪いのか良く解んねぇな」
「腐れ縁よ。子供の時から一緒だからね」
「美希は私が育てた?」
「育てられてないわよ。やめてよね」
そうは言うが、彼女達はかなり似通った趣味を持っている。
この二人は可愛いモノや綺麗なモノが大好きなのだ。
美希ちゃんに至っては、僕を事ある毎に女装をさせようとしてくるんだからね。それに更紗ちゃんが悪乗りしてくるのが、何時ものパターンと化している。
「知ってたって事は、アンタも同じような事を調べてたわけ?」
「違うよ? ネットという海にダイブしてたら勝手に私の下まで情報が流れてきただけ」
「な~んだ、ちょっと期待して損した気分よ」
後ろの席だから美希ちゃんは気付いていなかったようだけど、僕がチラッとだけ横を見ると更紗ちゃんは視線が下に落ちていて、手元には隠す様に携帯電話が握られていた。
画面に映っていたのは、さっきまで話していた募集しているという内容のモノだろう。
そこには微かにバーチャルライバーという単語が見えた。
僕の視線に気付いた更紗ちゃんが、サッと携帯をしまって少しだけ恥ずかしそうにして隠す。
「席つけ~、朝礼を始めるぞ~」
それと同時に担任の先生が教室に入ってきてしまい、話しは聞けずに終わった。
相変わらずダルそうにしながら、欠伸の絶えない状態の担任の先生である。
皆の状況や報告などが主で、近況報告なんかが終わると先生はすぐに解散とばかりに、クラスメイト全員に向かって、
「さっさと帰れ帰れ。真面目に登校してきた事は評価してやるけどな。破目を外し過ぎなければ、好き勝手に休みを楽しんで来いよ」
と言って、お昼前に終了となる。
「流石、生徒思いの先生?」
「アレはただ単に、自分も早く帰りたいから、必要最低限の事を伝えて終わっただけでしょう。まぁ確かに他の先生達みたいに余計な話でダラダラ長引かないだけ有難いけどさ」
「ああ見えて凄く教え方も上手いし、授業だって面白いって有名なのにか?」
「両方じゃあないかな。多分、自分がつまらない授業をやりたく無いだけだと思うよ」
皆には内緒だけれど、前に先生と無駄話で盛り上がった時に聞いたことがある。
皆からは兄せんという感じで、先生というよりもお兄さん的な立ち位置に居る事が多い。本人も教えるなら楽しく、自分も楽しくだと豪語していた。
「終わったし、さっさと帰ろうぜ」
「そうだね、僕も家ですることが多いし」
「相変わらずね。やっぱりアタシの家に来ない?」
「ダメ、ツムぎんは私が貰い受ける。嫁として」
「僕は男だからね。嫁にはなれないから」
カミのヤツのせいで、その可能性が出てきて戦々恐々だというのにね。
こんな所で思い出したくなかったよ。
せめて、この学園では平穏に過ごしたい。
「お前も変わらずにモテモテだな」
「これはモテてるの? この二人は絶対に僕を男として見てないよ」
妬ましくいってくる男共に、二人の方に目をやりながら不貞腐れる様に答えてやる。
「あら、だって紬の性別はツムギでしょう」
「激しく同意?」
美希の言葉にクラスメイト達の殆どが頷いている。
「ほらな、コレを聞いてもそういう意見が出てくるのかよ」
「大丈夫だ、お前は女子だけじゃなく男にも人気だからさ。怖くなったら俺達が囲ってやる」
「逆に不安よ。男子に囲われたら紬くんが汚されちゃうでしょう」
「そうそう、紬はクラスの共有財産よ」
なんか別の所で僕の取り合いと、どう守るかの会議が行われ始めた。
「この学園は良いね。綺麗な樹一様に愛でたいツムぎんが居るんだから」
「そうそう、それにコレは大事な事なのよ。男子に可愛さでも綺麗さでも負けたなんて、女子からした屈辱じゃない。でも、性別が紬なら別に問題なのよ」
「どういう理屈だよ」
本当はもう一人居るのだが、大きな事件に巻き込まれてしまって今では帰らぬ人となってしまった。樹一先輩と同級生の小さくて可愛い先輩が居たのだ。
学園内でトップスリーをそんな僕等が独占していたせいで、色々と可笑しなことになってるよ、この学園の女子も男子も。
「美希、本気でやるなら手伝うけど」
「なによ……アンタが手伝ってくれるっていうの?」
「うん、ちょうど良い機材が安く出回ってるみたいで、今が買い時だから?」
「ふ~ん、確かにアタシじゃあ機器類は良く解らないからね。アンタに任せて良い?」
「じゃあ一緒に買いに行こう」
「……アンタも買うんだ」
美希ちゃんが意味深な視線で更紗を見る。
それを気にしないそぶりで流しつつも、二人は小声で何かを言い争いながら出て行く。
「はぁ、じゃあ僕も帰るね」
このまま残っていると、クラスの皆に変な巻き込まれ方をしそうで、そそくさと逃走する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます